海賊-

□happening!
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「ただいまー!サンジ君お茶……」

お茶淹れてくれない?と恐らく続くはずだったナミの言葉が尻切れに途切れた。
気配はするのに姿が見えないと怪訝に彷徨った視線が、自分の有様を捉えて凍りつく。
二の句が次げずにあんぐりと顎を外す姿に、う〜ん顎を外したナミさんも素敵だ!とうっかり場違いにも鼻の下を伸ばしていると、ナミの背後から愛しくも不機嫌そうな声が上がった。

「何だよ、戸口で立ち止まんな…」

その声にハッと我に返ったナミが「私、チョッパー探してくる!」と叫んですぐさま階段を駆け下りていく。

「何だ、あいつ……」

怪訝そうに呟きながら、ナミと入れ替わりに愛しいマリモ頭が戸口にひょいと覗いた。
散々惰眠を貪っていたにも関わらず、寝足り無そうに欠伸を噛み殺すハニーの眼は涙目で。
そんな愛しいハニーの無防備な顔を一目見てしまえば、張り詰めた気も一息に緩むというもので。

「…ゾロ〜〜〜……っ」

眼が合った瞬間息を飲んでギョッと眼を見開いた恋人の名を甘ったれて呼びながら、サンジは潤んでくる目元を必死に擦ってゾロに向かっておいでおいでと手を振った。

「サンジ……」

近づいてきた愛しい気配が、目の前で止まる。
しゃがみ込んで視線を合わせてくれる優しさが、嬉しいけれど、無性に悔しくて何だか寂しい気持ちになる。
それでも陽だまりの中に居るようなゾロの柔らかな匂いに鼻先を擽られると、触れずに大人しくしていることなどできなくて。
サンジはゾロの首筋にぎゅっと抱きつくと、項に鼻先を埋めてゾロの匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。
無骨そうなデカイ掌が、ポンポンとあやすように背を撫でてくれる。

「……また随分と小さくなっちまったもんだなぁ…」

苦笑交じりの低い声が、耳元で零れる。
心配しているというよりも何だか感心しているような声の響きに、サンジは少しだけ唇を尖らせて拗ねた。

「…ふん、嬉しいだろ。あんたガキとか小動物好きだもんな」
「まぁな…。でも捻くれたガキは好きじゃねぇ」
「……」

グサリときた。
それはあんた、俺のことを言ってんですかと思ったら、鼻の奥がツンと痛くなった。
ああ、これだからガキは嫌なのだ。我慢が利かない。頭が働かない。感情の起伏が激しすぎてコントロールが上手くできない。
自分が幾つくらいの歳になっているのか知らないが、きっと理性なんてものは一年に一度食べさせて貰えるか貰えないかの甘いクリームの前では絶対的に無力だった頃の年齢に戻ってしまっているのだと思う。

今の自分にとっての甘いクリームは、さしずめゾロで。

そのゾロの些細な一言で、泣きたくもないのに涙が出そうになるから。

唇を噛んで俯くと、耳元でゾロが深い溜息をついた。
反射的に、身体が何を言われるのかと身構える。



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