海賊-

□happening!
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「サ〜ン〜ジ〜!!おやつ!!」
「っ!」

名前を呼ばれると同時にバッターン!とドアをぶち壊す勢いで駆け込んできたルフィの身体が、そのままの勢いで一直線に自分めがけて飛びついてくる。

「っっぐぇっ!」

嫌な予感を覚える間もなく、増して避ける余裕など全く無く腹の辺りを容赦なく抱きついてきたゴムの腕に締め上げられ、サンジは奇声を発しながらバランスを崩して勢い良く背中からすっ転んだ。
その衝撃で、指から例のランブルボールもどきが宙へと吹っ飛ぶ。
あっ、と思う間もなく重力の法則にしたがって落下してきたその先は、なんと気道を締め上げられて閉じられずに居た自分の口の中で。
喉にスコンと入ってきた得体の知れないそれを、サンジはあろうことか反射的に飲み込んでしまった。

「………っっ!!こんの……っ胃袋バケツのゴム男―――っ!!!」

あまりのショックと怒りに咄嗟に蹴りを食らわすのも忘れて、巻きついていたルフィの身体を壁へとぶん投げる。

「痛ぇな、サンジ〜〜」
「知るかクソったれ」

壁にぶち当たってもなんのその、ぼやきながら唇を尖らして懐いてくる顔面を押しのけ、ひとまず頭を冷やしたくて胸元の煙草を探る。

「……。なぁサンジ?」
「ぁあ!?」

ルフィの暢気な声での呼びかけに、頼むから一寸黙っていやがれと眼差しに苛立ちを込めながら青筋を立てて振り返ると、ルフィが不思議そうに首を傾げて言った。

「お前、いつの間に伸び縮みできるようになったんだ?」
「……。」

サンジは眼を細めて無言のまま深く深く嘆息し、徐にまた深く深く息を吸い込んで言った。

「…お前の脳みそがゴムできてんのはよっくわかってるつもりなんだけどよ……てめぇじゃあるまいし、普通の人間の身体が勝手に伸び縮みするわきゃねーだろうがこのゴム!クソゴム!」
「えー?でもお前、すっげー身体縮んでっぞ?」

チョッパーより少しデカイくらい?と小首を傾げて言われ、サンジは思わず自分の身体を見下ろした。
……そういえば心なしか服がダボつくような、地面との距離がやたら近いような気が、しなくもない。
そう思って回りを見渡してみればやたら巨大化したイスとテーブルが眼に入り、思わず取り落とした煙草を拾い上げる自分の、幼児のように小さくプニプニとした掌が視界へと入った。

「……嘘だろ……っ」

頭から血の気が退いて、サンジは無意識に口元を覆った。
原因などわかりすぎるくらいわかっている。
さっきルフィのせいで飲み込んでしまった、あの得体の知れない物体のせいだ。
愕然として冷たい床にぺたんとへたり込むと、目の前にしゃがんだルフィが面白そうに頭をグリグリと撫でてくる。
抵抗する気力も無くて黙っていると、無反応なのに飽きたのか今度は腕を揺さぶられ、サンジは仕方なく胡乱な眼つきでルフィを見上げた。

「……いいか、よく聞けクソゴム。俺様は今大変傷心だ、蹴り飛ばされたくなかったら今すぐキッチンから出て行くことをお勧めする」
「ん。出てくけどよ、その前におやつくれ!」
「…ってめえが作るのを邪魔したんだろーがこのアホんだらーっっ!!!」

短いリーチながら渾身の力を込めて踵落としを喰らわせる。
派手な音を立てて床へとめり込むルフィを捨て置いて、オーブンへと手を翳す。
折角余熱で温めておいたオーブンはすっかり冷めてしまっていて、がっかりしながらルフィを睨んだ視界がじわりとぼやけた。


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