海賊-
□happening!
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1.
バターと小麦粉を切るように混ぜてざっとひと纏めにし、小一時間ほど生地を寝かせる。
先程仕入れたばかりの新鮮な苺やラズベリーを洗いながら、さて砂糖で煮詰めようか、それとも洋酒に漬け込もうかと数瞬その特徴的な眉を顰めて悩んだサンジは、だがすぐにその表情をにんまりと緩めた。
甘いものが大好きで酒に眼が無い愛しの剣士さんのために、ベリーは洋酒漬けにしてやろう。
たっぷりと洋酒を染み込ませたベリーはきっと甘酸っぱいながら洋酒の芳醇な香りと味わいで、それを使ってパイを焼き、甘いクリームをたっぷりと添えてやれば、彼もクルーの皆ももの凄く喜ぶに違いない。
鼻歌なんぞを歌いながら早速ベリー類をブランデーで手早く漬け込み、瓶をシンクの下の戸棚の奥へとしまいこむ。
うまい具合にこのベリーが浸かるのは、恐らく彼の誕生日の頃だ。
誕生日ケーキは決まりだな、とほくそ笑み、上手く漬かってくれよ頼んだぞ、と瓶の淵をそっと撫でてサンジは戸棚の戸を閉めた。
寝かせて置いた生地を取り出し、薄く伸ばして型を抜く。
鉄板いっぱいに並べられた象にウサギ、キリンにカバと可愛らしい動物に混じって短剣型の生地があるのは、まあご愛嬌という奴だ。
我ながら涙が出るほどいじましいと空涙を拭いつつ、温めていたオーブンの温度を確かめようと踵を返した瞬間、爪先が軽く何かを蹴った。
「……?」
カツンと靴に弾かれてコロコロと転がるそれを眼の高さまで摘み上げ、じっと眼を凝らす。
「……ランブルボール、じゃあねぇよなぁ……」
茶色っぽくて丸いそれは、チョッパーが戦闘時に服用するランブルボールという薬によく似ているが、そうかと言って薬の管理に厳しいチョッパーがこんなところに大切な薬を転がしておくはずもない。
「ライチにも似てんだよなぁ…。けど匂いもしねーし、第一これ、食えんのか…?」
フンフンと鼻を利かせながらしげしげと見つめていると、凄まじい勢いで階段を駆け上ってくる音がキッチンにまで聞こえてきた。
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