パラレル-

□A dinner with a beloved person.
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【A dinner with a beloved person.】




「うわ、すっげぇ」

香ばしい舞茸ご飯に、豚汁、南瓜のそぼろ煮、生姜醤油の染みた鶏の唐揚げ、エビチリ、銀杏の入った茶碗蒸し、ブロッコリーの蟹あんかけ、ホウレン草と牡蠣のグラタン、鏑漬け、蛸とわかめの酢の物。
つまみ用の大皿には、スモークサーモン、オニオン、チーズ、フレッシュトマト、ソーダクラッカー、キャビアが並び、野菜ステイックにはアボカド・ディップとオーロラソースが添えてある。
ゾロは風呂上りの身体にホカホカとした湯気を纏いつかせたまま、料理の皿が所狭しと並べられたテーブルを見て感嘆の声を上げると、すぐさま席について料理から立ち上る美味そうな匂いをクンと嗅いだ。

「すっげぇ美味そう……なぁ、ケーキは?」
「今持っていく。シャンパンは後ででもいいよね」
「ああ。う、駄目だ腹が鳴る。もう食っていいか?」

情けなく鳴る腹を擦りながら尋ねると、ケーキを運んできた男が苦笑を浮かべて向かいの席へと腰掛けた。

「いいよ。でも、本当にこのメニューで良かったの?もっと手の込んだ美味い料理、いくらでも作ってやったのに」
「いいんだよ。豪華だ質素だ関係無く、お前はどの料理にも手ぇ抜いたりしねぇだろ。それに、自分の誕生日なんだから、どうせなら自分の好きなモンを美味くたくさん食いてぇ」
「あんたらしいよ…コック泣かせだけどね」
「くくっ、いただきます」
「はい、どうぞ」

手を併せて、早速舞茸ご飯を口に運ぶ。
一口食べたら箸が止まらなくなって、ゾロは早々におかわりをして、カラッと揚がった唐揚げやピリッと辛いエビチリ、まろやかで熱々のグラタンなんかをホクホクとご満悦で頬張った。

「ご飯美味ぇな。何杯でも食える」
「あんた、炊き込みご飯とかおこわとか大好きだもんね…。いっぱい炊いておいたから、たくさん食べな。豚汁のおかわりは要る?」
「ああ、頼む」

おかわりを装ってもらって、出汁の効いた味噌仕立ての汁を啜る。
具沢山でヘルシーな熱々の豚汁を一口一口腹に納めていく度、真っ当な食事をしているというこそばゆい感覚に満たされ、腹も身体もほっこりと温まって、何だか酷く幸せな心地になる。
ゾロは残り少なくなってきた唐揚げを摘むと、満足そうに眼を細めて自分の食いっぷりを眺めている男に向かって突き出した。

「見てばっかいねぇで、お前も食え」
「何、あんたが食べさせてくれんの?」

ほんの少し驚いたように眼を丸くしながらも、嬉しそうに男がその眼の色を輝かせる。
普段、ホスト然とした軟派な様相ながら、客を相手にしているとき以外は常に一歩退いてシニカルな面ばかり見せてこの男が、存外にスキンシップ好きな男なのだとゾロが知ったのはつい最近のことである。
思い返せば、確かに出会った頃からやたらと絡んできたりセクハラをかまされてはきたけれど、嫌がらせをして揶揄われているのだと受けとめていたゾロには、それが「好きな子に優しくしたいのについ虐めてしまう、ただ触れたいだけなのについ悪戯をして相手を困らせてしまう」という捻くれまくった小学生のガキ並の愛情表現なのだと気づくのに、そもそも多大な時間がかかったのだった。
この男がこんな風に柔らかい表情を自分の前で晒してくれるようになったのは、七夕の夜に想いが通じ合ってから。
いつもこんな顔してりゃ、わかりやすくていいのになぁと思いながら、ゾロは摘んでいた唐揚げで男の唇を突っついた。

「ほれ、あーん」
「ん、我ながら美味ぇわ」
「当然。もっと食え」
「ふはっ、何であんたがそんな自慢気なのさ…」

唐揚げを皿ごと男の方に押しやると、ツボに入ったようにくつくつと笑いながら、男がようやく箸を取る。

飯は一人で食うもんじゃねぇよな。折角、二人で居るんだし。
こんな美味いものなら特に、一人で堪能したら罰当たる。

豚汁を美味そうに啜りだした男を満足気に眺めて、ゾロはまだホカホカと湯気の上がる茶碗蒸しを手に取った。






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