パラレル-

□それはある日の昼下がり
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鼻先を擽る匂いにクンクンと鼻を利かせて、ゾロはまどろんで閉じていた翡翠色の眼をパチリと開いた。
真っ黒い鼻先の僅か数センチという所に、ふさふさとした真っ白な尻尾が揺れている。
狩りをする獣の習性でついその動きに意識を奪われてしまったゾロは、うずうずと尾骶骨の辺りから込み上げてくるむず痒い感覚に促されるまま、目の前で揺れるその尻尾にパクンと噛み付いた。

「ぅぎゃ!〜〜〜っっ何てことするんですかロロノアさんっ」
「いや、つい…」
「………まず尻尾離してから喋れ」
「ん」

甘噛みしていた尻尾を解放すると、軽く左右に一揺れしたそれがくるりと翻る。
白い軌跡を見るとも無く無く見送ると、振り向いたサンジの蒼い眼と眼が合った。
ただでさえ冷たい色合いのその眼が、ご機嫌斜めですと言わんばかりにじっとりと細められている。

「…ったく。尻尾は俺たち猫にとって一番大事なトコなんだぞ?“つい”で齧られたら堪ったもんじゃねぇぞ、コラ」
「悪かったって…」

グル眉なんていうおかしな眉毛を吊り上げてぷりぷりとガラ悪く絡んでくるサンジに、ゾロは素直に詫びて鼻先をそっと摺り寄せた。
一度機嫌を損ねると飼い主すら近づけないほどの不機嫌オーラを撒き散らすという面倒くさい性質のコイツは、なぜか自分がこうして甘えてみせると途端にいつも機嫌を直すのだ。

「ああん、ゾロ〜v」

案の定ふにゃりと締りの無い笑みを浮かべると、奇声を発しながらゴロゴロと喉を鳴らして懐いてくる。
抱きついてくる勢いのままコテンと押し倒され、ホッペを摺り寄せあい、脚を絡ませあう。

「…ん…っ擽ってぇって…」

耳元や口元をペロペロと舐めてくる舌の感触に首を竦めて身を捩る。
擽たくて、でもなんだかふわふわと気持ちよくて思わずゴロゴロと喉を鳴らすと、嬉しそうにサンジが桃色の肉球で首の後ろを撫でて来た。

「気持ちいいくせに……。ね、お昼寝してたはずのあんたがどうして俺の尻尾に噛み付いたのか、本当のこと教えてよ。そしたらもっといっぱい色んなトコ舐めて気持ちよくして、毛繕いもしてやるぜ?」

どう?と促すように耳朶を軽く甘噛みされる。
同時に絡め取られた尻尾をクンと引っ張られ、腰に走った甘い刺激にヒクンと身を跳ねたゾロは、「そんなもんして貰わなくてもいい」と言いかけた唇を噤んで小さく溜息を零した。


「……イイ匂いがしたんだ」
「へ…っ?」
「…で、眼ぇ開いたら鼻先でゆらゆら揺れてるモンがあって。ぼうっとそれ見てたらいつの間にか思わず噛み付いちまってた」
「あ、そうなんだ……って、え?あ、イイ匂いって、俺っ?」
「ああ。なんか石鹸みてぇな匂いがする…」

クン、と目の前の腹に鼻面を摺り寄せて呟く。

「そういえばさっき、あんたが寝てる間に俺洗って貰ったんだ。だからだな、きっと」
「…ズリィ、お前だけ」
「しょうがないでしょ?あんた起すの勿体無い位に気持ち良さそうにお昼寝してたんだもん…」

ペロッと額を舐められる。むずかりながらもゾロは身体から力を抜いて、白い毛のふさふさと生えた腹に顔を埋めて眼を閉じた。
鼻腔を擽るのは、清潔な石鹸の香りと、水の匂いと、柔らかなサンジの匂い。
全身を余すところ無くゆっくりと舐め上げてくる舌にトロけて喉を鳴らしながら、ゾロは自分の匂いが移る様にそっとサンジに額を摺りつけた。


風呂場の方から自分を呼ぶ飼い主の声がする。
お風呂には入りたいし、お昼寝もまだまだし足りないけれど。

今はもう少し、このままで。




END

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