パラレル-

□3階フレグランスコーナーにて
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「…ったく何で俺まで付き合わなきゃなんねぇんだよ」

ぶすったれて両手をジーンズのポケットに突っ込んだゾロが、本日何度目かの悪態をついた。

「まあそういわず。どうせお前、来月のナミさん誕生日プレゼント、何やるか考えてもいねぇんだろ?あんま日にちも無いんだし、今日の内に一緒に決めちまおうぜ」

エスカレーターに並んで立って上へと向かいながら、サンジはまたかと苦笑を浮かべて言った。
昇りついた階は、宝石、化粧品、靴、バッグ、衣料品のテナントが並び、女性客を対象とした造りになっていた。
女子高生から老婦人まで年代問わず女ばかりがひしめき合う光景に、隣でゾロが嫌そうにうっと呻いた。
回れ右して下の階へと降りるエスカレーターに足をかけようとするのを、サンジは背後からがっちりと羽交い絞めにしてやった。
こいつの行動パターンなどお見通しなのだ。
放せともがく身体をしっかりと抱き込んで、

「…逃がさねぇよ、ゾロちゃん」

と耳元に息を吹き込むように低音ボイスで囁けば、火を噴きそうなほどに勢いよく頬に血を上らせたゾロの身体から、くたりと力が抜け落ちた。

……うーん、いつもながらいい反応だ。

ゾロが自分の、特に低音の声に弱いらしいということに気づいたのはもう随分と前の話だが、毎度毎度あまりにもこう敏感に反応されてしまうと嬉しいのを通り越して自分の声に嫉妬しそうになったりする。
もっともそれでは自分がアホのようなので自制してはいるが、自分のゾロバカっぷり加減は大いに自覚しているサンジだった。
後ろから昇ってきたどこぞの奥様にゾロごと身体をずらして道をあけ、女子高生に好機の視線を浴びてひらひらと手を振り返すと、女の子たちからキャーと黄色い声が上がった。
いい加減、どかんと一発キてもよさそうなものなのにと肩に顎を預けて顔を覗く。
湯気が立ち昇りそうなほどに耳まで真っ赤になって俯いてしまっているゾロの様子に、おや?とサンジは首を傾げた。

「……濡れちゃった?」

もしかして、と思って尋ねると、案の定ぐわっと眼を剥いたゾロがものすごい勢いで頭突きをかましてきた。

「っっっなわけあるかこのダーツ眉毛!てめぇいっぺん死ね!死んでそのエロさ加減を捨て去ってきやがれ!」
「痛いなーもう。俺が死んじゃったらボロボロに泣くくせに。いっぺん泣くとなかなか止まんないわ頭痛くなっちゃうわで大変なんだから、そういうこと言わないの。ね?」
「〜〜〜頭撫でんな!ガキ扱いすんじゃねぇっ!」
「ガキ扱いしてたらエッチなんかしません。あんまり騒ぐと今すぐここでチュウするぞ」

噛み付くように怒鳴られても頬が真っ赤なままでは可愛いだけだ。
ん、と唇を突き出して本気をアピールすると、さすがに状況を悟ったらしいゾロが鉛を飲み込んだ蛙のように大人しくなった。
羽交い絞めにしていた腕を放しても、大人しく傍に立っている。まったく、とサンジはこっそりと溜息をついた。
何かっていうとエロ、エロと罵ってくるけれども、じゃあと自粛してこちらから手を出さなくなったらなったで嫌われたとか飽きられたとか有り得ないことをうだうだと考えて不安になるくせに。
そのくせ自分からは手だって握ってきはしない奴なのだ。
我侭で不器用で、恐ろしく一途で直向きな男。
普段のきつい、けれど真っ直ぐに見つめてくる瞳だとか、剣道に向ける並々ならぬ姿勢だとか、自分自身にはとことん無頓着なこの男の全てを時には呆れたり歯痒く思ったりしつつ、きっと自分は骨の髄まで愛してしまっているのだと思う。
それを果たしてどこまでわかってるんでしょうかね、このお姫様は。



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