パラレル-

□drop kiss
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腹が減ったとくっついてくるのを「お前、邪魔」とあしらって早数十分。
粗方作り終えて、やけに静かだなとふと気づいてリビングに顔を出すと、カーペットの上に寝転んで三毛猫のユキとじゃれ付いていた男と目が合った。
飼い主の自分を見向きもせず、ユキが眼を爛々と見開いて、男の顔にしきりにネコパンチを繰り出している。
爪はちゃんと隠しているから傷がつく心配はないが、何がそんなに気になるのかと傍によって男の頭上にしゃがみ込む。
気配に気づいたユキが顔を上げ、小っちゃい肉球が柔らかく男の唇を押しつぶした。

「…ぷっ…」

ぷくりと丸く膨れた、左の頬。
見ればテーブルの上に飴玉のカラが転がっていて。
頬袋の大きさから見て、よく駄菓子屋なんかで売っているボンボン飴というやつだろうか。
腹が減りすぎて、待ちきれなくなって飴を食っちまったんだろうなぁと思うとなんだか可愛らしくて、
思わず噴出してしまった自分を、男が胡乱な眼で見上げてくる。
仏頂面もイイとこのその面も、今は全く凄みがない。
それどころか可愛いとすら思って、本能の赴くまま、グリグリとその萌黄色なんていうおかしな色の頭を撫でてやった。
この色が自前だなんて笑ってしまうが、指先に触れる綿毛みたいに柔らかな手触りは、口に出して言ったことはなくとも昔から自分のお気に入りだった。

「…ぁにすんだよ」
「ふん、不貞腐れても可愛いだけだぜマリモちゃん」

ツンツンと頬袋をつつくと、コロンと音を立てて頬袋が消える。
マリモと言われて拗ねたのか、視線を背け噛み砕くにもまだあまりにデカすぎるそれを持て余し気味に口中で転がすゾロに、ゆったりと唇を寄せる。
逆さまのキス。
唇を舐めると仄かに林檎の味がして、もっとそれを味わいたくて舌先で歯をノックする。
歯茎をなぞりながら下唇に歯を立てると、吐息を零して唇が開かれた。
すかさず舌を潜り込ませて甘い唾液を啜る。
暫く飴玉を互いの舌で舐め転がしながら溶かしていたが、ユキが自分を構えと二人の間に顔を寄せてくるので、笑ってキスを解いた。
さり気なく飴玉を奪い去って、ユキを肩に乗せて立ち上がる。
匂いにつられて口元に鼻先を寄せてくるユキにチュウをすると、下から見上げてくる視線が険しくなる。

「…飴返せ」
「メシ出来たからメシ食え」
「返せって!」
「取り返せば?ほら」

キスでも何でもして取り返していけばいい、という意思表示であーんと口を開ける。
一瞬拗ねたように唇を噛み締めたゾロが、ふいに素早く身を起こして。
ユキごと後ろ頭がデカイ掌に包まれたと思った瞬間、噛み付くように唇を貪られた。
甘い唾液が絡まりあう。
飴が互いの口中を転がる。
懸命に舌を絡ませてくるゾロの眉がもどかしげに寄せられるのを見て、にんまりと口元を緩めてこちらからも舌を吸い上げてやる。
そうすると、気持ち良さそうに鼻にかかった吐息を零してゾロが首筋に縋ってくる。
口付けを深めて飴ごと唾液を流し込んでやると、飲み下しながらかくんと膝がくずおれた。
んにゃっと短く鳴いてユキが肩から飛び降りるのに苦笑しながら、力が抜けてしまったゾロの背をゆっくりと撫でる。
くっつけあった胸から伝わってくる早くて大きな鼓動に、柄にもなくこちらまでなんだか照れてしまう。

「…ゾロ大胆。ね、そんなにチュウ、したかったの?」
「……うるせぇ」
「ユキにジェラシー?」
「…んなんじゃねぇ…っ」
「…素直じゃねぇなぁ…」

こんなにホッペ染めちゃって。こんなにドキドキしているくせに。
恥ずかしがりやでぶっきらぼうで、素直じゃなくて気分屋で。
そのくせこちらがちょっとでも背を向けたり関心のないそぶりを見せたりすると、途端に拗ねて甘えて爪を立ててくる。
まるで猫みたいな奴だと溜息をつきながら、視界の端で毛繕いするユキを眺める。

「…お前なんか…」
「…ん?」
「…飴玉と、ユキしか眼中に無ぇくせに」

呟いて悔しそうに表情を歪めるゾロを、驚いて見つめる。

「…俺なんか、どうでもいいくせに」

肩口にへばりついて小さく呟かれた言葉に、じわりと胸の奥が疼いた。



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