パラレル-

□たとえばこんな春の日に
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ぼんやりと眺めていた景色に、いつの間にか少しずつ見慣れた景色が混ざり出していた。
車内に自分が降りる予定のバス停名が流れ、下車ボタンを押したゾロは、抱えていたリュックを肩にかけ直した。



胸いっぱいに吸い込んだ空気に、土の匂いが微かに混じる。
見上げれば、随分と青みを増した空が天高く広がっていて、降り注ぐ日差しも心持ち柔らかだ。
自分と入れ違いにバスに乗り込んできた中学生が、ボタンのない学ランの胸元に花を飾っていて。
ああ、もうそんな季節なのかとゾロは口元を緩めた。
吹き付ける風は、まだまだ冷たいけれど。
仄かに温かい日差しにつられて、うずうずと背骨の辺りが疼いた。
『太陽に照らされて、幾重にも纏っていた衣を脱いだ旅人は、一番最初に何をした?』
答えは思い出せないけれど、衝動の赴くまま、ゾロはその場で大きく伸びをした。

「……いくら人通りの少ねぇ往来だからって、気ィ抜きすぎ、あんた」

背後からかかった呆れた声にぎょっとして振り向くと、いつの間にと思うくらいすぐ近くに金髪の男が立っていた。
目が合うと、堪えきれなくなったように、男の顔に、笑みが弾けた。

「おっ帰り!ゾロ!」

叫びながら抱きつかれ、ギュムギュムと抱きしめられ、頬を摺り寄せられ。
まるで大好きなご主人様を待ちわびた犬のように懐いてくる男に、ゾロも顔を綻ばせた。

「…ただいま」

照れくさくて小さく呟くと、瞼にチュッと口付けられた。
そのまま頬に鼻先に降りてくる唇に、思わず強請るように唇を開くと、微かに笑う気配がして、唇が重なった。
絡め取られた舌を優しく吸われて、意識が蕩ける。
抱きしめられた温もりも、唾液を滴らせるような口付けも。
田舎とはいえ、国道沿いの歩道の途中という何ともはた迷惑な場所で、こんな行為に耽る自分たちは「頭がイカレてる」と白い目で見られても何一つ言い返せやしない。けれど。
ゾロは男の後ろ頭に腕を回し、むしろ見せ付けるように男の頭を引き寄せて、その唇にむしゃぶりついた。
嗤いたいなら、嗤え。
見たいなら、勝手に見てろ。
半年ぶり、という感傷がそうさせたのかどうかは定かではないが、この男の傍に居られる今だけは、我慢などしたくないと思った。
久しぶりというには長すぎた、会えずに過ごしたあのジリジリと焦がれるような時間の長さを思えば、こうしている今でさえ切なさに胸がジクジクと疼きだす。

「…っサ…ジ……っ」

名前を呼べないもどかしさに首を振る。
それでもキスを止めるのは嫌でグズグズと舌に吸い付いていると、サンジが喉の奥で楽しげに笑った。

「…もう。うんなエロいキスかまされたら勃っちまうでしょ!送り狼ならぬ、お迎え狼になっちまうぜ?ガオーっ!て」
「狼って柄かよ…アホ犬じゃねぇの?せいぜい」
「あ、テメ、俺様を甘く見てるな?こんな美味そうな奴に、食って下さいと言わんばかりに潤んだ瞳で見つめられて大人しく指咥えて見ていられるほど、俺様枯れてないんですー」

涎垂れてるし、と白い指に拭われる。
…理性を抑えられないからアホ犬なんだろ、と一寸思わないでもなかったが、ただ従順なだけの犬なんて、そんなものは欲しくないのだ。
自分に欲情して、それを隠すことなくぶつけて、欲しがってくるこの男だからこそ、自分が愛して欲してきた男なのだ。
口元に触れている指を掴んで、パクンと噛み付く。

「…美味そうなだけ?」

チラリと見上げれば、あー、だの、うー、だの唸りながらサンジが首まで真っ赤になった。

「…すげえ好き。大好き。んもう、今すぐここで食っちまいたいくらい好き!!」

ぎゅうっと抱きついてくるサンジの背を抱き返しながら、ゾロはククっと笑った。




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