海賊-

□恋とはそう、奪うもの
1ページ/2ページ


「なあ、ゾロ?」
「ん?なんだルフィ」
「今日は俺の誕生日だ」
「うん?」
「だから今日は何でも貰える日なんだ」
「…そう、だな。…何か欲しいモン、あんのか?」
「ある」

言い切って、独特の強い眼差しが、にんまりと緩む。
一体何が欲しいのかと不思議に思って首を傾げると、伸びてきた薄い掌に頬を包まれた。
幼い子どもにそうするようにやわやわと頬を揉まれ、頬の肉が押しつぶされる感触に堪らず笑みが零れた。
滑々とした、まるで放熱しているかのように熱い、ルフィの手。
離せ、と苦笑を零しながら頬に触れる手に指をかけると、離れた腕が今度は柔らかく首に巻きついてきた。
そのまま眼を細めてじっとしているルフィの背中に、身体を支えてやるつもりで腕を回す。

「…何がしてぇんだ?お前」
「んー…わかんねぇ」
「はあ?」
「最近」
「…うん?」
「最近、ゾロ、サンジと一緒にいるだろ。夜とか」
「……ああ」
「仲いいのはいーんだ。仲間だから。でも俺がゾロと話すと、サンジすんげー機嫌悪くなるだろ。なんでだ?」
「……、」
「なんでゾロと話したら駄目なんだ?俺もゾロと話してぇ。そんでこんなふうに触りてぇ。なあ、なんでそうするとサンジが怒るんだ?だってゾロは」

ゾロは俺が見つけたのに。

初めて仲間にしたいと胸が震えた、何が何でも傍に居てくれなきゃ駄目だと欲した奴なのに。
なのにどうして自分は触れてはいけないのだろう。
もやもやするのだ。
あれだけ仲の悪そうに見えた二人が、いつのまにか同じ空気を共有し合って、小突きあいながら傍に居る。
小さな子どものようにニパニパと笑いながら、ごく自然にサンジがゾロに触れ、ゾロが自分には見せたことも無いような柔らかい眼をして擽ったそうに笑みを零す。
互いに傍に居るのが嬉しくて仕方ないというような二人を見て。
その空気に近づこうとした途端、近寄るなとばかりに威嚇してくるサンジを見て。
悔しいのか寂しいのかわからない、言い表せないもやもやで胸がいっぱいになって、息をするのが窮屈になった。
海の中に放り込まれた時の様に、心臓も肺も、活力を失っていくような感覚が身体を満たす。
日ごと強くなるその感覚に、このままでは息が止まると思った。

ゾロに触りたい。早く、早く。

大きくて、それでいて脆い鋼のようなその気配に触れて、確かめたい。
繋がったはずの鎖が、まだ消えていないことを。

……そういう気持ちを何と呼ぶのか、自分にはわからない。

それがまた酷く嫌だった。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ