海賊-

□「As well as」6/30UP
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カツン、と音を立てて床に滑り落ちたフォークを拾おうとして。
伸ばした指先が、同じように拾おうと横から伸びてきた白い指と触れ合った。
あ…、と思うよりも先にフォークを拾い上げた長い指が、鮮やかに翻って離れていくのを、ゾロは少し息を詰めて見送った。
白くて、節の長いサンジの手。
その手が、触れると驚くほど冷たいことを、自分は知っている。
水切れで少し荒れた指先や、骨っぽい節なんかをサンジは気にしているようだが、そんなことは全く問題ないと思えるくらい純粋に、奇麗な手だとゾロは思う。
生かすために、殺す手。
ただ己のためだけに殺し続ける自分とは、あまりにも違う手。
自分のものでもないその手を、宝物のように愛しく思う自分は、相当おかしいと思うけれど。
棚から新しいフォークを取り出したサンジが、視界の先でこちらに振り向いた。
その瞬間意味もなく鼓動が跳ねて、そんな自分の反応に、舌打ちしたい気分になる。

「…ほらよ、今度は落とすんじゃねぇぞ」

不機嫌さを隠しもせずに突きつけられたフォークを受け取る。
礼を言おうと口を開きかけた時には既に、サンジはナミの方に顔を向けてしまっていて、結局そのままゾロは口を噤んだ。
ため息をついて、僅かに肉の残った皿に視線を落とす。

―――そう、いつものことだ。

サンジが自分に向ける、あの睨むような冷たい瞳も、苛立ったように棘を隠しもしない態度も。
いつも、それこそ仲間となった当初から繰り返されてきたことで、いい加減少しは慣れてきたと思っていたけれど。
……それでも。
礼の言葉など端から期待していない、それこそ視界に入れるのも煩わしいとばかりに顔を背けられてしまうと、いくら鈍感と笑われる自分でも、さすがに、少し、辛い。
全く反りが合わないことも、まして自分に好かれる要素など全くないと自覚していても、自分が仲間だと思っている人間にこうまで嫌われているのかと思うと、あまりにも居た堪れなくて、どうしていいのかわからない。

ゾロは、そっとフォークを動かした。
口の中に頬張った、肉の味を噛み締める。
あの手が作り出すものは、こんなにも温かくて、美味いのに。
自分だけに向けられる、あの冷たい瞳を思い出せば、胸の奥がジクジクと膿んだように痛み出す。
鼻の奥がツンと熱を持って、視界が白み出す。
鼻が詰まって味がわからなくなってしまったことを残念に思いながら、機械的に食事をする。
零れそうになる涙を必死に隠しながら、もう何も考えるな、と自分に言い聞かせる。
早く食べ終えて、少しでも早く、キッチンを出て行こう。
そして船尾か見張り台にでも行けばいい。
これ以上サンジの視界に入らないように。

……これ以上サンジに嫌われないように。



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