パラレル-

□それはある日の素敵な接触
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酔っ払ったシャンクスが突然我が家に奇襲をかけてきたのは、モンプチと煮干(ロビンはラザニア)の静かな夕食の後、ロビンが珈琲を飲みながら本を読み、顔を洗うサンジの傍でゾロが満腹になった腹の毛を舐め始めたときのことだった。
何の前触れも気配も無く突然リビングに姿を現して自分を抱き上げ、問答無用に頬を擦り付けてくるシャンクスに、一体こいつはどこから降って湧いたのかとゾロは顰め面をしながら不審に思い、サンジは天敵のゴキブリを見つけたときのようにブワっと毛を逆立てて、不快を顕に冒頭の如く何度もシャンクスに挑みかかってはその都度かわされていた。

「…鍵は閉めておいたはずだけれど」
「俺様に開けられない鍵は無ぇんだよ、ロビンちゃん」

読んでいた本を閉じて呟いたロビンに、食えない笑みを浮かべてシャンクスが囁く。
真顔でそれを聞いたロビンが、眼を細めて尋ねた。

「それはたとえば、深層心理に埋もれてしまっている心の鍵でも?」
「そこに他者の侵入を許す鍵穴があって、中を覗くことを許してくれるならね」
「もし、鍵穴を見つけられなかったら?」
「その時は、相手が気を許してくれるのを気長に待つさ。鍵穴が見つけられないってのは、つまりは自分がまだ相手からの信用を得られていなくて、相手が自分に対して警戒してる状態だからね」
「………」

ロビンの視線が、シャンクスの顔に前足を踏ん張って顰め面を背ける自分の姿をちらりと捉えた。

「…気長に待つと言いながら、嫌がってる黒猫さんを無理やり抱っこするのは、あなたのポリシーに矛盾するのじゃなくて?」
「臨機応変。待つことが無意味な相手には、多少強引に迫らないと事態は何も進展しないんだよ、ロビンちゃん」

ふふんと不敵に笑って、ロビンに見せ付けるように頬を押し付けてくるシャンクスに、いいかげんゾロの忍耐力がぶち切れた。
何が臨機応変だ、偉そうに。自己満足を押し付けられるのは、いい迷惑だ。
翡翠色の眼にギンと殺気を宿して、ゾロは思い切りシャンクスの顔を蹴った。
鋭く突き立てた爪で抉るように皮膚を引っ掻き、抱き締めてくる力が緩んだ隙を突いてフローリングの床へと着地する。
素早くロビンの背後に駆け込むと、ロビンが驚いたようにほんの少し眼を見開いた。

「大丈夫?黒猫さん」
「頭にきたから引っ掻いてやっただけだ。俺は別に何ともねぇよ」

ふん、と鼻から息を吹き、ロビンを見上げて答える。
言葉は通じないながらも表情で言いたいことを察したらしいロビンが、ホッと頬を緩めた。

「痛っ、俺は大丈夫じゃねぇよロビンちゃん」
「あんたは自業自得だ、変態オヤジ」

手の甲で血を拭って情けない声を出すシャンクスを白い眼で睨んで、サンジが消毒だと言わんばかりに、シャンクスに頬擦りされた頬をせっせと舐めてくる。
爪を汚す血が気持ち悪くて舌で舐めとろうとすると、ロビンが濡れ布巾を差し出してくれた。

「舐めない方がいいわ、お腹を壊すといけないから」
「…ナチュラルに黴菌扱いって、酷ぇなオイ」
「あなたも早くおウチに帰って傷を手当てして貰った方がいいわ。小さな傷ほど案外痛くて治り難いものだもの」
「ハイハイ、今日のところは大人しく退散しますよ。これ以上ゾロちゃんに嫌われたくないしね…」

溜息をついて苦笑を浮かべたシャンクスが、よっこらせと立ち上がる。
ロビンの肩越しに見下ろしてきた眼と眼が合うと、シャンクスがふにゃりと頬を緩めて手を振ってきた。

「じゃあね、ゾロちゃん。また来るね」

語りかけてくる声に、名残惜しげな色が滲む。
敏感にそれを感知したゾロは、スッと視線を逸らした。
その声も笑顔も偽らざる本物で、この男が自分を気に入ってくれていることもまた本当で。それをゾロも知っているから、どんなに男の過度なスキンシップに我慢できずにブチ切れても、最後の最後で結局許してしまう。
「また来るね」と囁かれる声に、小さく尻尾を揺らしてしまう。

「ほら帰るんだろ、出口はあっちだ、とっとと帰りやがれ!」

フーフーと不機嫌にせっつくサンジに追い立てられるように、苦笑を浮かべながらシャンクスがリビングから出て行く。
玄関から出て行くまで見張るつもりなのか、鼻息荒くサンジもシャンクスの後を追って出て行った。





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