パラレル-

□それはある日の素敵な接触
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空気の揺れる気配に、ふわりと意識が浮上する。
くっつきたがる瞼に負けて眼を瞑ったままでいると、明るい陽射しが当たっていた顔に、傍らから影が落ちた。

「黒猫さん、眠ってるのね…」

呟きにそっと薄目を開けると、傍らに腰を下ろしたロビンが眼を細めて自分を見つめていた。
スカートの膝の上には、いつもゾロが風呂上りに身体を拭くときに使っている、淡いブルーのタオルケットが載っている。

「…濡れたまま飛び出して行ってしまったからこれを持ってきたのだけど、もう必要ないみたい」

持ってくるのが遅すぎたのね、と呟くその顔が、穏やかに笑んでいるのに何故だか少しだけ寂しそうに見えて、ゾロは不意打ちを喰らったようにギクリと鼓動を速くした。
ロビンがバスタオルを持ってくるのが遅れたのは、恐らく自分が水浸しにしてしまった廊下を掃除していたからだ。
風呂から上がった直後は、早くこの場から離れたい、これ以上触れられたくないとそれしか考える余裕が無かったけれど、気持ちが落ち着いた今なら、ろくに身体も拭かないまま自分が走り回ればどんなことになるかは嫌でも想像がつく。
ロビンを困らせる為にわざとそんなことをしたわけでは決して無いが、己がロビンを避けているのもロビンの手を悪戯に煩わせてしまったのも事実で、ゾロは酷く居た堪れない心地になりながらキュッと尻尾を縮こまらせた。

「ぅ…ん……」

絡まりあっていた尻尾がキュッと引き攣れ、スピスピと寝息を立てていたサンジが、寝息を止めてもぞりと小さく身動ぐ。
起きるかな。ゾロはピクリと髭を揺らした。
もしサンジが眼を覚ましたら、自分も一緒に眼を開けてしまおう。
そしてじっと自分を見つめてくる静かな眼差しと、ちゃんと対峙しよう。
固唾を飲んでゾロがその瞬間を待つ中、寝惚けながらサンジがほんの少し頭を浮かせた。
眼を瞑ったまま徐にゾロの腹をぺろぺろと舐め、湿った毛に額を擦り付けたかと思うと、満足そうにまたスピスピと寝息を零しだす。

………いや、起きろよお前。頼むから。

こいつはこんなに寝汚い奴だったろうか、と己のことを棚に上げて思わず脱力しながら、ゾロはツッコミなんだか助けを求めているんだかよくわからない呟きを胸の中で呆然と零した。

「ふふ、白猫さんは黒猫さんのことが大好きなのね」

微笑ましそうにくすくすと笑みを零したロビンが、そっと指先でサンジの顎の下を擽る。
夢現に気持ち良さそうに喉元を晒してゴロゴロと喉を鳴らしだすサンジの、まるで今にも涎を垂らしそうなほどの気の抜けっぷりに、ゾロは胸の内でげんなりと溜息をついた。
駄目だ、幸せそうなアホ面にどんどん磨きがかかっている。
これではますます深く寝入ってしまって、いつになったら目覚めるものか知れたもんじゃない。
眠っている間ならばともかく、緊張に身を硬くしたままいつまでも同じ体勢でいたせいか、サンジの頭の下敷きになった腕や腹が段々と鈍い痺れを訴えてくる。
このままロビンの視線をひしひしと身に受けながら寝たフリを続けるのは、気力的にも身体的にもそろそろ限界だと悟ったものの、眼を開けるタイミングをなかなかつかめなくてゾロが途方に暮れそうになったそのとき。
ふいに花の匂いのする指先が額の辺りにふわりと触れてきて、その突然の感触にゾロは反射的にビクリと身を強張らせた。
思わず眼を見開くと、ロビンが困ったような笑みを浮かべてスッと手を引っ込める。

「ごめんなさい、お昼寝の邪魔をしてしまって……」

申し訳無さそうに首を傾げて謝り、ロビンがそっと立ち上がる。
名残惜しそうに数瞬自分とサンジを見下ろすと、ロビンはブルーのバスタオルを抱き締めて静かにリビングを出て行った。





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