*素敵頂き物SSのお部屋*

□めまい 2
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風呂上がりのゾロはサンジの服を借り、濡れた頭を拭きながらキッチンへとやってきた。
突然の訪問にサンジはいつだって嫌な顔をしない。
以前は思いもしなかったことを考えるようになったゾロは、小さく溜め息をつく。
四歳からのつきあいとはいえサンジは十三も年上の大人だ。
小学生の自分と一緒に居て楽しいとは、あまり思えない。
それでは他に行く当てなどないゾロは結局サンジの所に来るしかない。
家に帰れば今日こてんぱんに負けた父が何食わぬ顔で迎えるだろうが、それこそゾロには耐えられない。

「何突っ立ってるんだ。座れよ」
いつまでも動かないゾロに、サンジは笑って促した。
言われるがままにダイニングテーブルにつくと、身体の節々が傷む。
父の無慈悲な竹刀はゾロを痛めつけ、なけなしのプライドも傷つけた。
思い出すだけで腹が立ち、ゾロは眉間にしわをよせる。
なにより己の不甲斐なさに腹が立った。

「おっかねえ顔して飯を食っても美味くねえぞ」
テーブル一杯に並んだ料理の向こうでサンジが笑う。
「いただきます」
ゾロは表情を気にしながらスープを一口含む。
温かなスープはほんの少し切れた口内を痺れさす。
「口の中大丈夫か?無理して食うな」
僅かなゾロの表情の変化に気付いてサンジが言った。
だがゾロは平気だと言って食を進める。
いつも以上に食欲旺盛な様子だ。

「明日、学校だろ?」
「うん」
「飯食ったら帰るか?それとも泊まる?」
サンジはいたって穏やかな様子で、ゾロは戸惑う。
ついさっき、甘えるのはやめようと思ったばかりなのに。
それでも今日は帰りたくない。
帰りたくないんだサンジ。

「…泊まっていいか?」
「はは、いいとも」
サンジがとても自然に言ったことがゾロには幸いだ。
あれこれ聞かれないことも、有る程度放っておいてくれるのも。
そして必ずゾロを見ていることも。
ゾロにとって必要だった。

「久しぶりに一緒に寝ようか」
「嫌だ。サンジ寝言煩い」
「冷たいなあ」
拗ねたような口調のサンジは笑っている。
そしてゾロは小声でしょうがないな、と呟くのだ。

空っぽの胃袋が満たされれば、すぐさま眠気は訪れる。
箸を持ったままうとうとするゾロをサンジはからかう。

そして、ふたりぼっちの夜は更けるのだ。





end

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