雲の上のピアニスト

□導かれし旋律
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「ひ!!雲雀さん!!すぐ帰りますから!!!」
「もう遅いよ」
「ぎゃぁぁぁああああぁぁああ!!!」


下校時間は午後19時。
この時間を過ぎれば僕に咬み殺される。だから部活をやっている生徒でも18時50分には下校をするというのに.....。外はすっかり暗い。どうしてこうも気付かないのか。

応接室から1番近い図書室に残っていた生徒を咬み殺し、家庭科室、理科室、美術室、各教室、体育館....と、いつものように僕は見回りをした。

他に生徒はいなさそうだ。
今日の下校時間狩りは1人だったかなと考えていると



〜〜♪♪♪


「?」


応接室から1番遠い音楽室からピアノの音色が聞こえてきた。
誰だ?咬み殺してやろう。

僕はわくわくしながら足速に音楽室へ向かった。


最初は遠くてどんな音楽かは分からなかったが、音楽室へ近づくにつれて音楽がわかってきた。哀しげな悲壮感のある、美しいピアノの音色。音楽芸術に疎い人でも伝わる孤独感。

それはとても重い音楽だった。
咬み殺そうと思っていた僕の足取りは、徐々に音楽に引き込まれるかのように吸い込まれて行った。



「!」

音楽室の扉の小窓を覗くとピアノを弾いているのは小柄な女子生徒だった。しかも彼女は泣きながら......。


僕は扉の前で暫く耳を澄ました。
近くで聴くとより自分の気持ちが和らいでいくのが分かる。彼女のピアノは癒しの力がある。


音楽が終わり、彼女はこっちを見た。
僕の姿を見て驚きつつ涙を拭った。

僕は扉を開けて音楽室に入る。


「もう下校時間だけど」
「あ......すみません!」

彼女は慌ててピアノの蓋を閉じて鞄を持ち、「さようなら!」と笑顔で帰って行った。




いつもならこんなすぐには帰さない。
咬み殺すのに。
僕は彼女のピアノに機嫌を取られてしまったのか。こんな事は有り得ない。
彼女が去って、不思議な夢から覚めたような感覚になった。


まあいいか。次会ったら咬み殺そう。
僕も応接室に戻ってから帰ることにした。
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