エピソードまとめ
□Final
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ep.Final 英雄の雛鳥達
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〔道中会話〕
アウ「博打の行く末に興味がある……ですか」
ユ「なにか?」
アウ「今回の博打は先ほど話した通り法王の殺害計画ですよ?それを不敬と咎めるどころか、その成否に"興味"を抱くなど、明らかに腹に一物抱えていそうですねえ?」
ユ「……はあ。これだから貴方は苦手です」
アレ「わかる、わかるぞ」
アウ「恐縮です」
〔道中会話〕
ユ「僕からも一ついいでしょうか?」
アウ「なんでしょう?」
ユ「実際のところ、僕らの故郷ル・サントの惨劇に帝国は関与しているのですか?」
アウ「これは随分と直球ですね」
ユ「駆け引きの段階は、とうに過ぎているでしょう?」
アウ「それは確かに……」
〔道中会話〕
アウ「……いいでしょうこの際です。私が宰相として知りうる、すべてを明かすとしましょう」
ユ「え……?」
アウ「なんですその反応は?」
ユ「あ、いや本当に聞けるとは、思えなかったので」
アウ「現状ではそれが最善ですからね」
ユ「アウグストさん……」
〔獣の群れ〕ガルル、オタオタ、ワービー、ガルグラン
ユ「な、なんだ!?」
アレ「恐ろしく気が立っているようだな……」
アウ「先ほどの爆発の影響でしょう。法王にマナを過剰供給されたレオくんと、法王のマナから抗ったユーゴくんが剣を交えたことで、一帯のマナが激しく乱れていますから」
ユ「あの爆発が……僕達の……せい?」
アウ「とにかくここで躊躇っていては、互いの目的は果たせません。やりますよ、ユーゴくん。大事な話はそのあとで」
ユ「……了解です!」
獣討伐後。
アウ「なんとか撃退できたようですね」
アレ「まったくお前との任務はいつもこんなだ……」
ユ「そうなんですね………」
〔道中会話〕
ユ「先ほどの話……。帝国宰相の貴方が、すべてを明かして下さるなら、僕も覚悟を決めましょう。それがレオやセリアにとって最善となると信じて」
アレ「レオ達の?どういう意味だ?」
ユ「……結論から先にお伝えすると、僕は二人と共に連邦外への亡命を考えています」
アレ「なっ……!」
アウ「……これは有意義な話になりそうですね」
〔道中会話〕
アレ「なぜお前は亡命など?」
ユ「そこは単純ですよ。連邦が信用できなくなったこれに尽きます」
アウ「これはまた随分と急な話ですね。以前会った時はそこまでの不信を感じませんでしたが?」
ユ「そうですね。こうなったきっかけは……最近僕の幼少期の記憶が、蘇ったことにあります」
アレ「記憶?」
ユ「はい……。僕の故郷が滅んだ日の記憶です」
アレ「そうか……しかし、まだわからない。それが連邦への不信とどう繋がる?」
ユ「それは……」
アウ「思い出したのですね?ル・サントを滅ぼしたのが帝国軍ではなく…………連邦軍だったと」
ユ「……はい」
アレ「な、なんだと?なぜ、連邦がそんな……」
ユ「理由はわかりませんが、あれは間違いなく帝国のフリをした連邦の人間でした」
アウ「それを幼少期に目撃したものの、最近まで忘れていたと」
ユ「忘れていた……というより、恐怖で封じられていました。秘密を知った僕をした人物………。僕らの教官、リゼット・レニエによって」
アウ「……なるほど。それは、亡命を図りたくもなりますね」
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ユーゴは、崖の上からル・サント村の方を見て立ち止まった。
村の方は、大きなマナの結晶の様なものがふよふよと渦巻いて飛んでいるのが見えた。
「……正直、連邦の意図が、理解できなかったのですが、今日の法王の振る舞いを見て確信しました。ル・サントの惨劇はまだ終わっていない。今でも禍々しい悪意の雲が、僕らの未来を閉ざしている。そう思えてならないんです」
ユーゴはくるりと振り返って、アウグストを見た。
「……だから確認させて下さい。帝国は本当にル・サントの惨劇に関与していないのかを……」
「……していませんよ。少なくとも私が参照できる軍の記録の中に、襲撃任務の資料も隠滅の痕跡もありませんでした。宰相である私が言っても信用できないかもしれませんが。ほぼ確実に帝国は無関係かと」
「そうですか………」
「あまり納得いっている様子ではありませんね?」
「いえ、あの………すみません。僕はもうなにを信じていいか……」
ユーゴはそう言って俯いた。
「わかりますよ……。ですから今、私にできることは……」
アウグストは懐に左手を入れた。
「……精々これだけです」
そう言ってアウグストは懐から、真ん中にボタンの付いた赤いリボンを取り出して見せた。
「それは……?」
「……娘の遺品です」
「なっ!?」
驚いてユーゴは顔を上げる。
「アウグスト、お前……」
アウグストの隣に立つアレクサンドラも初めて見たのか、目をかっぴらいていた。
「今一度宣誓しましょう。ユーゴ・シモンよ。我が帝国はル・サントの件に一切関与していない。そのことを私が保証します」
アウグストは真っ直ぐユーゴを見つめる。
「立場や信仰や祖国ではなく………我が娘の遺品にかけて」
「アウグストさん……」
「……今はこれで納得してくれますか?」
「はい……はい………」
ユーゴは震えた声で返事をした。
「信じ……ます。信じ……たいです……」
「ならば良かった」
今にも泣き出しそうなユーゴの返事を聞きながら、アウグストはリボンを懐に戻した。
「アウグスト。今の話は……」
アレクサンドラは、アウグストの娘の事を初めて知ったようだった。
「さて、そろそろ行きましょうか、二人とも」
アウグストはアレクサンドラの話を無視して進んでいく。
「あ、ああ………」
アレクサンドラは戸惑ったように頷いて、その後ろをついて行く。
「……帝国への亡命……か」
ユーゴは、ギュッと拳を握った。
それから、アウグストとアレクサンドラの後に続いて行くのだった。
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