エピソードまとめ
□Cross roads
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ep.1 波々斬ノ国の乱
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【CHAPTER2 気高さのカタチ】
998Y.C. 波々斬ノ国 海都オノコロ
時刻はセリア達が観光に出るちょっと前に遡る。
「まったく、赤猫の奴どこへ行ったんだ?」
王宮の外に出たアレクサンドラはやれやれと辺りを見回した。
「ジャハナ氏との会談を勝手に抜けるとは……。アウグストに探すよう言われたのはいいが……」
目撃情報がないか、とアレクサンドラは聞き込みを開始した。
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〔街中会話 王宮前男性〕
「突然他の国の人間を受け入れるようになるなんて……どういう心変わりなんだろうな。偉い人達の考えることは良くわからねえぜ」
「確かにな……」
〔街中会話 王宮前青年〕
「さっきの女性色っぽかったなあ……。街の中心の方へ向かったみたいだけど、勇気を出して声掛ければ良かった……」
〔街中会話 女性〕
「噂によるともうすぐ、ハザールの商人が来るらしいわよ。どんな商品を持って来るのか楽しみねえ」
〔街中会話 男の子〕
「この先はショッピングエリアと飲食街に分かれてるよ!お姉さんみたいなキレイな人は、やっぱりお買い物を楽しむのかな?」
「そうだな……。今回は、ちゃんと財布も持ってきたし、赤猫を見つけたあとに存分に楽しむとしよう」
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目撃情報を元にアレクサンドラは街の中心地へ向かった。
「……ここが、街の中心のようだな。左がショッピングエリアで、右が飲食街か……。どうせ赤猫のことだ。会議中にでも減って我慢できずに飛び出したのだろう。と、なれば飲食街の方を探した方がいいな」
赤猫ことラプラスが聞いたら、アンタじゃないんだからと怒りだしそうな話だが、勝手にそう決めつけたアレクサンドラの足は着実に右に向かっていく。
「では早速向かうか!波々斬グルメの堪能……もとい赤猫の捜索に!」
そう言ってアレクサンドラは右手側の扉を開けるのだった。
「異国情緒溢れる、料理の数々……。是非とも片っ端から食したいが……今は我慢だ。赤猫を見つけてからゆっくり楽しもう……」
そう覚悟を決めて扉を抜けたが、ふわ、と潮風と共にいい香りが流れてきた。
「……この匂いは!くそっ……今は我慢だ」
ラプラスを探すのが優先だ、とアレクサンドラは歩みを進める。
「これは美味そうだな……。いや耐えろ……耐え抜け、私……」
左を向いても、
「なっ!タイムサービスだと?駄目だ……。あとで正規の値段で買おう……」
右を向いても、アレクサンドラにとっては誘惑だらけだった。
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〔飲食街会話 おじさん〕
「ここでは、多国籍の料理を楽しめるようになったが、やっぱり自国の味が一番口に合うんだよなあ」
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「迷い蟹様だあ!迷い蟹様が出たぞ!」
そんな男性の大声が聞こえた。
「なんだ?」
アレクサンドラは急いで、声のした方へ向かった。
「あれは!」
青いカニのような獣がいて、海の傍に子供が追いやられている。
「ああ、早く、息子を助けて下さい!」
子供の母親と思わしき女性が、オノコロの警備兵にすがりついている。
「……残念ですが、我々にそれは無理です」
「な……!?」
兵の言葉にアレクサンドラは何故だと驚いた。
「迷い蟹様は源獣様の御使い。傷つけることはなりません」
「そんな!」
女性が泣きそうな声で叫ぶ。
「……くっ!ダメだ。ここで私が問題を起こしてはアウグストに……。帝国の外交に深刻な影響を及ぼす可能性がある」
「う、うわあああ!」
「……いや」
アレクサンドラは首を振り、剣の柄へ手を伸ばした。
「ここで、子どもを見殺しにすること、それこそ軍人としての……」
「……名折れだぜ!」
アレクサンドラの言葉を奪うかのように、そんな言葉を放ち、赤いポニーテールの少年が、刀片手に現れた。
「キミは?」
「自己紹介はあとです!子どもを助けて獣をぶちのめす。その目的が一致している時点で 今の俺達は……」
「ああ……紛れもなく、同志だ!」
アレクサンドラも長剣を構える。
「ですよね!」
少年が頷き、2人子供を助けるべく、獣に立ち向かうのだった。
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「……ふう。どうにか殺さずには済んだか」
「そうっすね」
獣を峰打ちにし、アレクサンドラと少年は息をつきながら剣を収め、子供の元へ向かった。
「怪我はないか、少年」
そう小さき男の子にアレクサンドラは声をかけた。
「う、うん。あ、ありが……」
「……いや、ホント良かったですよ」
子供がお礼を言おうとした所を、警備兵が遮るように大きな声でそう言った。
「迷い蟹様が"自発的に"帰られて」
「自発的?今のは俺達が……」
「こほん!"自発的に"帰られて!」
咳払いをし強調するように兵士はもう一度言い直す。
「ふ……。なるほど、そうか。ありがとう」
「な、なんの話です?」
アレクサンドラが微笑み、礼を言えば、兵はとぼけた。
「私は今ここに来たのでさっぱりですね」
兵のその言葉で、一緒に子供を助けた少年も意味を理解したようだった。
「……そういうことか!ありがとうございます!」
「いや、だからダメですって。そんな全力で感謝とか……!」
「あ……」
「ふふつ」
コントのようなやり取りにアレクサンドラは思わず吹き出した。
「えーと、んじゃ、俺達はこの辺で……」
「あ、あの!お二人にはなんと言ったら……」
子供の母親が近寄って来て頭を下げる。
「ご婦人今の話を聞いていたろう?私達には感謝は一切不要だ」
「なにせ、俺達は完全に無関係な観光客っすからね」
そう言って二人は、この場を離れる。
「……改めまして、俺はレオといいます」
歩きながら少年が名を名乗った。
「アレクサドラだ」
名乗り返すと、レオはこちらを見て目をキラキラとさせた。
「さっきはマジで、カッコ良かったっす。姐さん!剣技から所作から気高さまで、姐さんは俺の理想の……」
「その…い賛辞はありがたいのだが……姐さんはやめてくれないか?呼び捨てでいい」
「え?年上の尊敬する相手に呼び捨ては無理っすよ」
「なら、さん付けでもいい」
「了解っす。アレクサンドラさん。いやー、それにしても、戦闘したら余計に腹減ったな」
「腹?」
「実は俺、観光でメシ屋を探してまして。どっかいい店知らないっすか?」
「そうだな……。目ぼしい店はすでにチェックしているが……」
「マジっすか!じゃあ紹介して下さいよ!」
「店の紹介……他国の人間との友好関係を築く行為か……。これは充分に任務の範囲と言えるのでは?」
アレクサンドラはどこか自分に言い聞かせるように呟いた。
「い、いいだろう。私が案内しよう」
「っしゃあ!やったぜ!どのお店から行きますか?」
「私に任せておけ!後悔はさせないからな!」
そう言ってアレクサンドラは歩き出す。
「さすがっすね。じゃあ任せます!」
そう言ってレオは舎弟のように、アレクサンドラの後をついて行くのであった。