エピソードまとめ

□Cross roads
15ページ/16ページ

ep.1 波々斬ノ国の乱
─────────♢────────



三人が源獣ワタムスビのそばに近づいて行くとそこには、1人の男が立っていた。

「……ここから見るワタムスビ様は、いつ見ても美しいですねえ。そうは思いませんか?レオくん、ユーゴくん?」

そう言って振り返った男の顔に、レオ達は見覚えがあった。

「……貴方は」

「ク、クゼのおっさん?なんであんたが……」

「……ジャハナ」

三者三葉に声を上げ、アウグストの言葉にレオとユーゴは驚いた。

「え?」

「先刻まで私が会談していた偽ジャハナ……。それもまたこの男です」

「なんですって?」

「それを言ってしまいますか。いただけませんねえ。……帝国宰相アウグスト・ヴァレンシュタイン」

今度はレオだけが驚いた。

「て、帝国宰相!?本当ですか、アルベルトさん!」

アウグストは素直に、ええ、と頷いた。

「貴方の狙いはなんなのです?無知な鎖国派を焚きつけ、源獣を害すこと……。その行為はまるで……、故国の破滅を願う者のようですが?」

「いやいや、破滅だなんて心外だなあ。愛国者を騙る皆さんは、僕の意図を勝手に解釈し過ぎなんですよ。僕は心からこの国を愛しているんだ」

「……は?」

「障壁がない状態で我が国が世界とぶつかり……華々しく散る!気高く盛大に!ただそれだけが僕の望みなのです」

「……なにを言ってるんだ国を愛してるんじゃ……」

「愛しているからこそですよ。この国の終焉に相応しいのは……、"無為な消失"などではなく"気高き散華"なんです」

「わっかんねえ……。あんたがなに言ってんのか全然わかんねえよ!」

「……まあ、常人はそうでしょうね」

「……ああ、でもな。ただ一つわかるの波々斬ノ国が……そこに生きる人達が……今、とんだ馬鹿野郎のせいで滅びかけてるって事実だけだ!」

レオはクゼを止めるため刀を抜いた。

「結局あんたは、自分の考えを一方的に押しつけてるだけじゃねえか!んなもん全然気高くねえ!」

「そうです。滅びの美学など、軽率に持ち出すべきじゃありません!」

ユーゴも長剣を抜いた。

「あたかも国のためのようなことを言っていますが、結局のところ貴方は個人の妄執で動いているように見える。国を担う人間としては救い難いですね」

アウグストも杖を構えた。

「どうとでも言って下さい。なんにせよ、僕にはあまり時間がありませんので」

そう言ってクゼも槍を掲げた。








「く……まだです。まだ終わりではありませんよ……!」


膝を付いたクゼは何かの装置を手に取って、ボタンを押していく。

そうするとレオ達の後ろの砂浜に置かれた大型の装置2台が音を立てて主砲を動かした。
そして、それにマナエネルギーが充填されていく。

「……なっ!」

「……仕方ありません。兵器は私が対処しますので、クゼの方はお願いしても?」

「わかりました……」

ユーゴが頷けば、アウグストは兵器の元へと走っていった。

「なあ……クゼのおっさん。もう、この辺で……」

レオは説得に入る。

「この辺で、だと……?」

クゼはゆっくりと立ち上がる。その顔は歪んでいた。

「……僕が愛する、この美しき波々斬ノ国のため。こんなところで、負けていられないんだあ!」

クゼがそう叫ぶと、黄色いマナが彼の身体から放出された。
そのマナの放出される姿を、レオとユーゴはよく知っていた。

「……これはエンブリオ!?」

自分達が使っているのだから見間違うわけがなかった。

「……ええ。独学でいくつか埋めておりまして」

「馬鹿なことを……!そんなことをすれば貴方の命はもう……!」

だからさっき、クゼはもう時間がない、といったのか。

「たいした問題ではありませんよ。あくまで僕の目的は……この国と共に散ることですから!」

そう言ってクゼは水の創術を放った。


「ぐあ!」

エンブリオで強化されたクゼは強く、レオが吹き飛ばされた後、ユーゴも弾き飛ばされた。

「……うう」

「……これでおしまいです。この国も……キミ達も……」

槍を向けながら、クゼは倒れている二人に歩み寄る。

「……ん?」

ゆっくりと体を起こす、二人の様子に異変を感じ、クゼは足を止めた。

「……な、なんだ?この力は……」

レオの右肩から赤いマナと青いマナが吹き出て混じり合い黒いそれがまるで片翼のようになっていた。
そして、レオの左にいる、ユーゴの左肩にも全く同じものが現れていた。

「キ、キミ達はいったい……!?」

立ち上がり剣を握るレオとユーゴにクゼは後ずさりをする。

「俺達はまだ……負けてない。まだ……いける。なあ……ユーゴ」

「ああ……レオ。クゼの暴挙を止めるんだ……僕達の故郷のような悲劇を起こさせないために……」

二人は剣を強く握り、再びクゼへ立ち向かって行った。



「……どうやら兵器は停止したようだね」

充填音がしなくなったので、アウグストが停止を成功させたのだろう。

「つーか、あの人が帝国の宰相だったとはな。ユーゴは知ってたのか?」

「ごめん……」

「……まあ、いいさ。お前にはお前の考えがあったんだろうからさ。それに今討つべきなのは帝国じゃねえ。目の前の身勝手な暴君、ただ一人だ!」



「……やはりやりますねえ、キミ達は……」

「クゼのおっさん……。今ならまだ引き返せるんじゃねえか?」

「引き返す?どこへです?僕が生きる場所はこの国だけ……。ならば死に場所もこの国だけなんですよ!」

「くそっ……あんたはホントに……大馬鹿野郎だな!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ