エピソードまとめ
□Cross roads
12ページ/16ページ
ep.1 波々斬ノ国の乱
─────────♢────────
「…よし。どうやら一通り片付いたみたいです」
辺りを確認した後、ユーゴは剣を仕舞った。
「そのようですね。では…!本題と行きますか」
「それって"人捜し"というヤツですか?」
「はい。その通りです。恐らく壮年の男性だと思うのですが……」
「恐らく?」
どういうことだ、とユーゴは首を傾げた。
「先ほどの戦闘の音を聞きつけて、また敵が来てしまうかもしれません。その前に手分けして辺りを調べてみましょう」
「わ、わかりました。しかし……探すと言っても人がいそうな場所は……」
アウグストは離れ木箱が積まれた箇所を調べに行った。
「ここなら人一人くらい、隠せそうですが……いませんね……。すでに殺され処理されていれば話は別ですが……。いえ……彼の"利用価値"を思えば、その可能性は低いでしょうね……」
考え込んでいるアウグストを置いて、ユーゴは洞窟の先にある扉を開いてみた。
少し奥に続いて居たが、木箱や樽などが置いてあるだけで、人を隠すようなスペースはない。
どうしたものか、と辺りを見渡すと、明らかに洞窟の壁の一部が不自然な色をしていた。
「…ん?この壁……最近、塞がれたような形跡があるな……。一度アウグストさんに報告してみよう」
自然出てきた洞窟の壁と違い明らかに塗り固められた壁だったので、ユーゴは急いでアウグストを呼んできた。
「なるほど…。確かに、これは妙ですね。この違和感に気付くとは、お手柄ですよ、ユーゴくん」
「あ、ありがとうございます。ただ……かなり頑丈な壁のようで、普通の力では崩せそうにありません」
「ふふ……なら普通の力でなければいいのでしょう?私にお任せ下さい」
アウグストはそう言って杖を構える。
「最大まで溜めた力で吹き飛ばしてみせますので」
「それは……凄そうですね」
「では……暫しお待ちを……」
アウグストは杖を高く掲げ、赤いマナをチャージして球体を生成していく。
「いたぞ!侵入者だ!」
部屋の中に男たちが、押し入ってきた。
「もう増援が……!?」
ユーゴは長剣を抜く。
「……ここは僕が時間を稼ぐので、貴方は壁の方をお願いします!」
「それはありがたいですが……良いのですか?貴方の本来の目的は仲間の安全確保のはず。帝国宰相を命がけで守る理由はないでしょうに」
「確かに"帝国宰相"を守るのは、ブレイズとしてありえないです。でも……悲劇の阻止に向けて共に行動する同志を見捨てたら、それこそ気高い戦友達に顔向けができませんよ!だから今は貴方を、僕は全力で守り通します!」
「…ふ。そうですか。敵国の私にも、そう言い切れるとは……面白い子だ」
「では、ここは貴方に委ねさせていただきます」
「はい!任せて下さい!」
ユーゴはアウグストを守るように前に立ち、剣を振るった。
「アウグストさん!」
そろそろ限界だというようにユーゴが叫ぶ。
「……わかっています。貴方のおかげで充分な力を溜めることができましたよ」
アウグストの掲げる杖の上には大きな大きな球体が出来上がっていた。
「はああっ!」
アウグストが杖を振ると、球体はまっすぐ飛んでいき、壁をぶち抜いた。
それからアウグストはユーゴのフォローに周り、何とか追っ手を払い除けることに成功した。
「やりましたね!」
「ふふっ……言ったでしょう?これはすべて貴方が命を懸けてくれたおかげ………。同国の人間であれば勲章ものです」
「喜んでいいんですかね、それは……」
アウグストの本音かジョークか分からない言葉にユーゴは少し困った。
「さて……壁の奥へ参りましょうか」
「は、はい!」
壊した壁の奥へと進めば、3〜40代くらいの男性が倒れてるのを発見した。
「……これで"確定"ですね」
「アウグストさん。その方は……」
「彼ですか?先程から何度か話に出ている……、"ジャハナ"ですよ」
「え?貴方と会談していたという……」
「そっちじゃありません。……本当のジャハナです」
「は?で、では、貴方は誰と会談を……」
「……誰と…、ですか。ふふ……そこですよねえ。ただ、今はそれよりも、この方を都へ連れ帰ったら……サザナミ洞窟へ急いだ方が良いかもしれませを」
「……そういえば連中、障壁の強化がどうとか……」
ユーゴは先程話の途中だった事を思い返した。
「我々が提供したのは、マナの増幅技術ではありません。源獣からマナを削り出す研究の過程で実現した、純粋な"破壊"の………使いようによっては、源獣の心臓を穿てるほどの凶悪な兵器の技術です」
アウグストはそう、淡々と言い放つのだった。