エピソードまとめ

□ラウル
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ep.1 自称考古学
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「おまちどうさまでーす」

どん、と目の前のテーブルに木製のジョッキが置かれた。

「お!来た来た!」

明るい茶髪に、空色の瞳を持った男は、目の前に置かれジョッキをすぐさま手に取り、中の酒をグイーっと一気に飲み干した。

「くう〜!生き返る〜!」

「もうちょっと味わったらどうです?」

おっさん臭い事を言っている彼に、ウエイトレスの女性が茶化すような風にそう声をかけた。

「はっはっは」

男は自身の胸に手を置いて笑う。

「1杯目はどうしてもがっついちゃうんだよ。ああ、ついでに」

男は顎に手を置いて、じいっ、とウエイトレスの子を見上げた。

「綺麗なお嬢さんにもがっついちゃうタチなんだけど………」

「おじさん、お酒も遊びもほどほどにしなよー?」

そう言って彼女は空になったジョッキをかっさらって、そのまま去って行ってしまった。

「おじさん………。これでも、まだ若い方なんだけど、そんな老けて見えるか?」

しゅん、とショックを受け項垂れる男の元に、コツコツと歩く音が聞こえて、目の前にまたジョッキが置かれた。

「ありがとう。でも、もう路銀がないから、これで打ち止めだなあ」

「だったら、連邦の傭兵に志願してみたらどうです?帝国との戦争で人手不足ですから、仕事はたんまりありますよ」

そう言って、ウエイトレスの女の子が見上げたのは、男の後ろに立てかけられた槍だった。

「いやいや、これは護身用に持ってるだけだから。戦争なんかに参加できる腕前じゃないの。お兄さん、こう見えて本業は考古学なのさ。遺跡なんかを調査して回ってるの」

「遺跡と言えば近くに新しいのが見つかったらしいですね。でも、今は戦争を優先して、そのまま放置されてるとか」

「へえ、そいつはまた、そそるねえ」

男は再び顎に手を置いた。

「それなら、いっちょ、このラウルさんがその遺跡調査へ乗り出そうじゃないか」


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【CHAPTER1 新発見の遺跡】
999Y.C. 森国シルヴェーア 鏡鉄遺跡


「ここが例の遺跡か」

自称考古学の男、ラウルは酒場のウエイトレスから聞いた遺跡へと足を運んでいた。

「新しい遺跡の発見なんて珍しいと思ってたけど、これほどの規模のものとは……。調査の手も入っていないなんて、これほど幸運なことはないよ」

ウキウキといった様子で、ラウルは遺跡への真っ直ぐの道を駆け出した。

「あー、先客がいるねえ」

遺跡の入口に、水色の大きなオタマジャクシのような獣、オタオタがいた。

「しょうがない。お兄さんの槍さばきを見せてやるか。戦う考古学者ラウルさんの腕前、とくと見よ………ってね!」

そう言って、ラウルは槍でオタオタを蹴散らしながら、遺跡の中へと足を踏み入れた。
長年放置されていたから、この遺跡も自然と同化し、木の幹や蔦が伸びて石壁を崩していたり、床に草が生い茂ったりしている。


「おおっ、と危ない!」

通路を進もうとして、ラウルは足を止めた。

「足元にロープとは……随分古典的な罠だねえ。……まあ遺跡なんだしそりゃそうか。でもこの状態で残ってるとなると………この先も気をつけて進んだ方が良さそうだね」


セルフツッコミをしながら、ラウルはそのロープの罠を超えて奥へ進んだ。

少し進むと正面に扉のある小部屋になっていた。奥の扉を開けようと、足を踏み込む。

「おっと!?床が光った!?」

床はどうやら9つのパネルに分けられているようで、ラウルが立っている1番手前の真ん中の床が光っていた。

「罠じゃあなさそうだな。先に進む仕掛けってところか?」

ラウルはもう一歩前に出た後、直ぐに後ろに戻ってみた。

「踏むと光ったり消えたりするのか。……では、ふむ、なるほどね。ってことは全部の床を踏めば……」

ブツブツと言いながら、ラウルは着実に1枚1枚、床を光らせていく。

「ビンゴ!」

全部が光った瞬間、ゴゴゴと音を立てて扉がスライドし、道が空いた。

「先に進めそうだ」

扉を抜けると正面の壁が、四角く窓のように空いており、真ん中の庭のような空間が見えるようになっていた。更に、向かい側の壁も同じように空いていて、少しだけ奥の部屋が見える。

「ん?奥に何があるような……ここからじゃよく見えないな、近付いてみよう」

左側の通路は太い木の根が尽きぬけ絡み合っていて通れそうになく、右側の通路を進んでいく。

「結構あちこち大きな柱が倒れてるみたいだが……これ大丈夫なのかね。もし調査してるうちに崩落したら、遺跡の中で生き埋めになって、いわゆるミイラ取りがミイラってやつに………」

想像してラウルはブルりと震えた。

「……おお怖っ!さっさと終わらせないとな!」


曲がり角で飛び出してきた無数の矢を槍をバトンのようにくるくる回し弾くことで難なく避けて、ラウルは先へと進んでいく。

「おっ、やっと少し近付いてきたか」

先程向こう側から見えていた部屋に到着した。
中庭の方の壁と反対側の壁が同じように抜けていて、ここからまた先が見えた。
先程気になった物もこの奥の部屋にある、壁画のような物だった。

「あれはもしかして………絵か?」

早く見てみたいとラウルは部屋の奥へと進んでいった。


「今までに比べて随分広い道に出たな」

今までが二人通れるかくらいの道だったのに対して、その3倍は広さがある。

「……もしかしたらこの先が遺跡の中心部かもしれないな」

通路の横に大きくて長い階段があり、ラウルがそれを登っていくと、そこが、先程見えた絵の部屋だった。壁一面に絵が描かれており、その部屋の中に先へと進む道はないようだった。

「おっと、ここで行き止まりか。どれどれ」

ラウルはルーペを取り出して、壁画に近づいて見た。

「ほー、こいつは……。だが……うーむ………」

壁画を見上げてラウルは何やら考え込む。

「あんな仕掛けのある遺跡の壁画にしちゃ、お粗末すぎる。こいつは、もしや………おっと!」

ラウルはヒョイと右側に飛んだ。
彼のいた場所に、ガウッとラドミードと言う緑色のトカゲのような獣が飛びついた。

「危ない危ない」

ぞろぞろと集まる、ラドミードとオタオタ、それにジャフラに、ラウルは急いで槍を構えた。

「まったく………。お兄さんがただの考古学者だったら死んでたよ。しかし、キミらにとっては残念なお知らせだけど。お兄さん、こう見えて戦える考古学者なのさ。そりゃあ人間様がいなくなれば、獣にとっちゃ格好のねぐらになるわな。まあだからっつって、襲ってこられても困るよ。こんないい感じの遺跡、お兄さんとしては、是が非でも奥に進ませてもらわないとね」


そう1人で喋りながら、ラウルは槍で獣達を薙ぎ払っていった。
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