エピソードまとめ
□アナマリア・マルシュナー
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ep.1 籠を飛び立つ鳥
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「ご無事でなによりです!」
部屋の窓から出て庭に出たものはいいが、あちらこちらで火や煙が上がっていた。
「博士、どうなっていますの!?」
「説明している時間はありません!庭園に抜け穴がありますので、すぐに向かいましょう!」
【CHAPTER2 崩れる日常】
999Y.C. ジルドラ帝国 アナマリア皇女邸
燃え盛る庭を3人は進んで行くと、前方に白い鎧の兵士と、ピンク髪の女が見えた。
「……駄目です。姫様、シャルル、隠れて下さい!」
博士が慌てて止めて、3人は生垣の後ろに身を隠す。
「まだ見つからないのお?」
やけに露出の高い服を着た、ピンク髪の女がそう言って声を張り上げる。
「早くしなさいな。アナマリアを見つけるのよお」
そう兵士たちに言いながら女は去っていく。
「そっちは探したか!?」
「近くにいるはずだ。早く見つけて殺せ!」
ドタドタと兵士達も走って去っていった。
「抜け穴はガゼボの奥にあります」
ヒソヒソと博士が小声で2人にそう告げる。
「さあ、急いで向かいましょう!」
博士が2人を立ち上がらせ、3人は急いで庭の奥へと向かう。
「……なんだかわかりませんが、殺されてなるものですか!絶対に逃げ切りますわよ!」
アナマリアは、いつ敵と遭遇してもいいように、刀の柄に手を置いて走った。
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〔道中会話〕
「うー、臭いですわ。"鼻を通る息吹こそ生きる証"……こういう意味でしたのね………。わたくし理解しましたわ!」
「あ、煙は吸うと死んじゃうらしいです」
「駄目ではありませんか!」
「おしゃべりはあとです。今は早くこの場を抜けましょう」
〔道中会話〕
「まだ見つからないのか!?」
「早く探し出せ!」
「……なぜ、そんなにわたくしを探しているのでしょう」
「…………それは、抜け穴に着いたらお話いたしましょう」
〔ガゼボの奥の生垣に空いた隠し通路〕
「こんな所があったなんて……。屋敷のことならなんでも知ってると思っていましたが、わたくしもまだまだでしたわね!」
〔隠し通路2つ目〕
「お嬢様、楽しそうですね!」
「だって、こんな経験したことありませんもの!博士の言う抜け穴は、まだ先ですの?」
「……いえ、もうじき到着しますよ」
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隠し通路を抜けた先は、生垣に囲まれていてポツンと物置小屋が一つ建てられていた。
「これが博士がおっしゃっていた抜け穴ですのね」
小屋の前の地面にマンホールがあった。
「ええ。なぜこんなことになったのか……手短にお話しましょう」
ここなら少しは安全だ、と博士は話を始めた。
「……先ほどあなたのお父上が亡くなられ、新たに別の男が皇帝になりました」
「……え?」
アナマリアもシャルルもポカンと口を開ける。
「その新皇帝アウグストが、姫様の命を狙っているのです」
「そんな……」
シャルルが心配そうにアナマリアを見つめる。
「この地下道を抜け、道なりにずっとお進み下さい。長い道のりにはなりますが、吊り橋を渡れば帝国の外…………シルヴェーアへ着きます」
シルヴェーアは、ここジルドラ帝国の南東に広がる国。
「屋敷の外どころか帝国の外に繋がっているんですの!?でも……博士は?」
「私はまだ、帝国でやり残したことがございます」
「残るのですか?危険です」
不安そうな顔をした2人の肩を博士はそっと抱いた。
「大丈夫」
安心させるようにそう言って、博士は離れる。
「どうぞ、外の世界を楽しんできて下さい」
アナマリアにそう告げた後、博士はシャルルを向く。
「シャルルも達者でな。……姫様を頼む」
「はい」
シャルルが強く頷いたのを見て、博士はマンホールの蓋を開けた。
「さあ」
アナマリアとシャルルは穴の中に飛び込み、博士は急いで蓋をした。
立ち上がって振り返った彼の元に、ヒールが砂地をザクザクと踏みつける音が聞こえた。
「お別れの挨拶はすんだかしら?」
ピンク髪の魔女が、そこには立っていた。