エピソードまとめ
□リディ・ドラクロワ
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ep.1 天災となる天才
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「ひとまず難所は抜けたかしら。尾けられているような足音もない」
歓楽街を抜けながら少女は辺りを確認する。
「よし!駅に向かいましょう。列車に乗ってこの街を出れば、さすがに迫って来れないはず。…………本当に?」
疑心暗鬼になりながら、少女は歓楽街の北の門を押し開け、街道を進む。
「あの男のこと。どこまで手を伸ばしてても不思議じゃない。親としては、最低な男だけど、一代で莫大な財を築き上げた手腕は本物。天才たるあたしの親だもん。先を見越して駅に…………いいえ。ともすれば列車の行き先にも、もう手を回してるかも……。なんにせよ確認はしておかないと。もし駅が駄目だったら。その時は……」
そう呟きながら、少女は街道を真っ直ぐ進むのだった。
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〔街中会話 女の子〕
「おねーさん、ここにいたら危ないよ。今日はなんか色んな場所で、ドゴーン、バババ、ドドーンって、すごい音が聞こえるの」
「……そう。あなたも巻き込まれないように気を付けて」
〔街中会話 お姉さん〕
「あら、お嬢ちゃん迷子?」
「違うわ。そんな年でもないし」
「あらあら、ごめんなさいね。甘えたな弟がいるから気になっちゃって。この子もあなたくらい自立してくれればいいんだけど」
「……いいんじゃない。甘えられる相手がいるなら、甘えておくべきだと思うわ」
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〔道中台詞〕
「リアクター……大丈夫よね。テストと実戦が一緒になっちゃったけど、ちゃんと動いてくれてる。……良かった。これが想定通り動かなかったら、そもそもここまで来れてなかった」
「……さすがはあたし。天才ね。帝国の兵器をここまで自分の物にするなんて。でも急に負荷をかけたから、オーバーヒートが心配。あとでちゃんとメンテナンスしなくちゃ」
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〔街中会話 怪しいおじさん〕
「ヒヒッ……娘ちゃん」
「……なに?」
「今ならたったの50ガルド……。いや嬢ちゃんには30ガルドにしてやるよ」
「……なんの話?」
「ククッ……まあ最後まで聞きな。こいつは美容やダイエットにもいいし、摂取すれば気持ちよくなれる……」
「……まさか……」
「ナッツだ!ハザールの厳しい環境で育った実は栄養満点!寝覚めもスッキリと評判の優れものさ!」
「……間に合ってるわ」
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「駅が見えてきたわ。列車に乗ればハザールから出られる。それまで絶対に気を抜けない。……いいえ。この国から出ても、あの男ならどこまででも……。……もし本当にそうなったら、あたしはいつまで逃げればいいのかしら。ずっと?永遠に?」
駅に向かって歩きながら少女は首を振った。
「……いいえ、違うわ。いずれにせよ永遠なんてない。だってもう、すでにこの世界は…………」
そう言って駅前の広場に足を踏み入れた。
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〔駅前会話 おじさん〕
「駅にキミみたいな女の子がいるなんて珍しいな」
「……旅の者よ」
「それならなおさらだ!言葉は悪いが……よく生きてこれたね。外は獣だらけじゃないか。僕達、商人でさえ手を焼いてるのに、キミみたいな子どもが旅をしてるなんて驚きだよ。どうやら同行者もいないようだし」
「……それなりに強いから」
「……それはきっと運がよかっただけだ。悪いことは言わない戻る場所があるのなら、帰った方がいいよ。キミのためにもね」
「ご忠告ありがとう。……でも、獣なんかより恐ろしいものもあるの」
〔駅前会話 アムル天将領から来た2人組〕
「あっつー!本当暑すぎるねここ!すでにイザミルの気候が恋しいかも〜」
「でもでもバザールには絶対行くでしょ!?」
「オアシスも見なきゃ!すっごく綺麗だって聞いたし!高い列車代の元取らないとね!」
「……でも帰りもあれに乗るのか……」
「私達のお尻、無事でいられるかな……」
〔駅前 左側の門〕
「おっとここは通行止めだ」
「……どうして?」
「線路整備の道具が置いてあるんだよ。娘ちゃんには危ないし興味ないだろ?」
「興味はあるけど……。そういうことなら仕方ないわね」
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「お嬢ちゃん、乗るのかい?」
駅に近づくと、駅員のおじさんが声をかけて来た。
「……ええ、そのつもり」
「それなら早くしてくれ。もうすぐ出るよ」
「いたぞ!」
後ろから大声でそう聞こえた。
「くっ!」
「あんた……追われてるのか?そいつはマズいなすぐに列車に乗るんだ!」
「……どうしてそんなに列車に乗せたがるの?」
少女は警戒して尋ねる。
「そ、そりゃ女の子が危険な目にあってたら無視は…………」
おじさんは途端にしどろもどろになった。
「それにどうしてあたしだと思ったの?」
「え?」
「ここにはあたしの他にも人がいるのに、どうしてあたしが追われてると思ったの?」
「……チッ。勘のいいガキだな。こうなったらしょうがない。おい!捕まえろ!」
少女の警戒は正しく、男は父親の手の者だった。すぐさまおじさんから距離を取り、後ろからやってるくる男達に銃を向けた。
「危なかった。あのまま列車に乗ってたら、逃げ場のない狭い車内で捕まってた。後から来た連中は、列車のことを聞いてなかったのね。焦って変な反応を見せてくれたおかげで助かった」
そう言って少女は引き金を引いた。