エピソードまとめ
□エドワール・ルキエ
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ep.1 旅立ち
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【CHAPTER2 砂漠道中】
999Y.C. ハザール商盟領 テル・テペ大砂海
鉄門を開け先の見えない砂漠へ、2人は足を踏み込んだ。
「ところであんた……」
「リディ」
「なに?」
青年は首を傾げる。
「リディ・ドラクロワ。あたしの名前」
女の子はそう名乗った。
「……そうか」
「あなたは?」
「エドだ」
青年は短く答えた。
「ファミリーネームは?」
「ない。家族はいないからな」
「……そう」
「……とにかくあんた」
「リディ」
むっとしたような声でリディはそう言った。
「……リディ。護衛対象なんだから離れるなよ」
「善処するわ」
「……護衛の意味わかってんのか?砂の丘は足を取られる。登る時は前へ進むことに集中しろ」
「ん」
リディは小さくコクリと頷いた。
「それとすり鉢状の窪みには近づくな。やばい獣がいる」
「わかった」
リディはもう一度素直に頷いた。
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〔道中会話〕
「ところであんな大金酒場で出したら、どうなるかわからなかったのか?」
「うさんくさい連中に、お金だけ取られるでしょうね」
「わかってるならやるなよ……」
「でもエドは違うでしょ?」
「そりゃそうだが」
「心配してくれたの?」
「……別に」
「ふーん」
〔道中会話〕
「暑い……。果てしない……。砂漠ってどこまで続いてるの?」
「今なら引き返せるぞ」
「……いいえ」
「そうか」
「エドは徒歩の旅には慣れてるの?」
「ああ」
「どのくらい?」
「傭兵として並程度ってところだろ」
「ふーん」
「ワースバードにも歩いてきたの?」
「当たり前だ」
「なにかに乗ったりは?」
「そんな金はない」
「お金に困ってるの?」
「日々を生きるのに精一杯なだけだ」
「それを困ってるって言うのよ」
「あんな大金を、こともなげに出すヤツには、そう映るんだろうな」
「でもおかげで、こうしてお金で雇えたんだし、あたしとしては好都合だった訳ね」
「なんて言い方だ……」
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真っ直ぐかどうかも分からないが、ただただ砂漠を進んでいく。
「あっ!」
リディが急に声を上げて駆け出した。
「どうした」
リディはしゃがんで下に落ちていた物を拾いあげた。
「ただの石か……」
「おい、石なんかに気を取られるな」
「もしかしたら、貴重な石だったかもよ?」
リディは立ち上がってふてぶてしくそう言った。
「だとしてもだ。護衛を置いて行くヤツがあるか。頼むから前に出るんじゃない」
そう言ってエドはリディを守るように腕を伸ばし前に出た。
「こういうことがあるからな!」
二人の周りをぐるりと獣達が囲んでいた。
「……くるぞ!」
エドは双剣を抜いた。
「下がってろ!」
「援護するわ」
「ああもう……好きにしろ」
※リディから一定以上離れる
「エド、あなた、あたしの護衛でしょ!」
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「ふう……片付いたわね」
銃をしまってリディは一息ついた。
「ハア……もうとやかくは言わん。ただ勝手な行動だけはしないでくれ」
「善処するわ」
「善処してくれ」
〔道中会話〕
「一つ確認なんだが」
「なに?」
「列車を使わないのは、砂漠でなにかを探してるからか?」
「いいえ。さっきのはただ光ってたから、希少なものかなって」
「じゃあ他になにか砂漠に用があるのか?」
「いいえ」
「じゃあ、なんであれだけの大金を持ってて、列車を使わないんだ?」
「列車にはうちの親の手が、回ってるだろうから」
「親?……おい、まさか家出じゃないよな?」
「広義では家出かもね」
「おい」
「大丈夫」
「なにが大丈夫なんだ。戻るぞ」
エドは足を止める。
「嫌。依頼主の言うことが聞けないの?」
「家出なんだろ?だったら戻った方がいい」
「世の中にはね、戻らない方がいい家っていうのもあるのよ。エドにはわからないかもしれないけど」
「だが、家出の片棒を担ぐのは……」
「戻るくらいなら一人で砂漠を越えるわ。その場合護衛の代金は払えないけど」
「おい……」
「さらにそうなったらあたしは、さっきの連中みたいのに襲われるか、獣にやられるか……」
「わかったわかった。きっちり仕事はこなしてやるよ」
そう言って諦めてエドは砂漠を再び歩き出した。
「しかし、家出なんかで砂漠を歩くか?」
「だから広義ではって言ったでしょ。確かめたいことやるべきことができたから、親を振り切って家を出ただけ。どこにでもある普通の話よ」
「親を振り切るってのは普通じゃないだろ」
〔道中会話〕
「それにしてもあんた」
「リディ」
「は……?」
「あんたじゃなくてリディ」
「わかったわかった」
「これでいいか?」
「ん」
「その武器はリアクターか?」
「ええ」
「なぜ帝国の武器を?」
「帝国のじゃないわ。これはあたしが作ったの」
「……なに?」
「だってあたしは天才だから」
「簡単に作れるんなら連邦は苦労しない」
「凡人には天才のことなんて理解できないのね」
「連邦の兵士とかには見せるなよ?」
「そのくらいわきまえてるわ」
「どうだかな」
〔道中会話〕
「エドも随分強いのね」
「まあな」
「連邦のエンブリオを使うでもなく、帝国のリアクターを使うでもなく、あなたの強さの秘密はなんなのかしら?」
「さあな。長年の傭兵稼業で鍛えられたからだろ」
「傭兵……ねえ」
「なんだ」
「それにしては戦争には参加しないのね。戦の果てに手に入れる大金よりも、安全に稼げる小金のほうが魅力的なんでね」
「ふうん」
〔道中会話〕
「……お互いに詮素はなしだ」
「……はあ。これだけ歩いたのにまだ砂漠なのね………」
「大丈夫か?」
「……大丈夫よ。あたしは天才だもの……」
「なんだよそれ」