エピソードまとめ

□エドワール・ルキエ
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ep.1 旅立ち
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【CHAPTER4 旅は道連れ】
999Y.C. ハザール商盟領 テル・テペ大砂海

「行くぞ」

「ん」

翌朝、二人はテントを畳み火の始末を終えたあと、再び砂漠を歩き始めた。


〔道中会話〕
「……昨日はよく眠れたか?」

「そこそこ」

「……あまり眠れなかったんだな?」

「そんなことない」


〔道中会話〕
「ふわ……」

「いいとこのお嬢ちゃんが、いきなりこんな砂漠に来りゃそうなるか」

「いいとこのお嬢ちゃんじゃない」

「あんな大金を、依頼料としてポンと出せるのにか?」

「あれはちゃんとあたし自身が稼いだものよ」

「あーはいはい。天才だもんな」

「むう」

「とにかく無理はするなよ?疲れたんなら意地はらずにそう言え」

「善処するわ」

「……善処してくれ」


〔道中会話〕
「……砂漠ね。どこまでも砂漠ね……」

「ああ」

「ねえ。なにか面白い話をして」

「雑に振るな……。そうだな……、"穿つ角は食むためにあらず"」

「……マイシュのことわざね」

「よく知っているな」

「"力をふるう意味を忘れるな"だったかしら」

「そうだ。雄大な犀の源獣ボザーク様の角は、敵を容易く貫く。だが肉を食わぬボザーク様は、生きるために他者を害する必要がない。ではその角を振るう理由はなにか?」

「"戦う意味を常に考えろ"、"転じて力に溺れるな"、"卑怯なことはするな"という意味もあったわね。それで?」

「リディが、力を求める理由や目的は、力を求めるに値することか?」

「……ええ、もちろんよ」

「そうか」


〔道中会話〕
「マイシュのことわざなんて、どこで覚えたんだ?」

「本」

「そうか」

「ことわざだけじゃないわ。ワースバードの外の世界のこと、それぞれの国の歴史や暮らし、それに影響を与えるマナや源獣のこと……。あたしは本で世界を知ったの。知識と発想からリアクターだって作れる」

「リアクターなんて帝国の最重要機密だろ。そんなことまで本に載ってるのか?」

「本に限らず、知識の仕入れ先はあるのよ。文通とかね」

「文通って手紙をやりとりするあれか」

「あたしの文通相手は、それこそ色んな所へ行って、見聞きした色んなことを教えてくれるわ」

「そうか」

「今回もその人が、教えてくれたことのおかげで、旅立つ踏ん切りがついたようなものだし」

「だいぶ調子が戻ったな」

「えっ?」

「さっきからよく喋る。昨日へばっていたのとは別人だ」

「おかげさまで体力はだいぶ戻ったわ。今はこの見渡す限りの砂漠を、どう気分を紛らわせて渡り切るかが問題よ」

「そのためのお喋りってわけか」

「そうね。疲れるけどこうして話しながら旅するのは悪くないと思うわ」



〔道中会話〕
「疲れた………」

「おい。さっきの威勢はどこに行ったんだ」

「疲れないとは言ってない。うう……もう喉が渇いて死にそう……」

「へばったままの方が静かで良かったか……」


〔道中会話〕
「ねえ、なにあれ?」

「うん?」

「砂丘の向こうになにか見えない?行ってみましょう」

「疲れたり張り切ったり忙しいな……」


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砂の山を滑り降りると目の前に緑の生えた水場が見えた。

「もしかしてあれ……オアシスじゃない?」

そう言ってリディが走り出す。

「喉の乾きが潤せそうで良かったな」

エドもリディの後を追う。
近づくと、そこそこ大きい水場だった。

「オアシスか。ここで少し休憩していこう」

「ん」

小さく頷いてリディがその場に座り込んだ。

「水を汲んでくる」

そう言って、水辺に近づいてしゃがんだエドは水筒に水を汲みそれからすぐに、腰の双剣を取って立ち上がった。

「どうし……」

リディが不思議に思い声を掛けかけたら、ぴょん、とカエルのような獣の──ヘケールが水場から飛び出してきた。

「ひゃっ」

驚いてリディは後ろに下がって、その傍にエド駆け寄った。

「来るぞ!ぼうっとするな!」

「してない……ちょっとびっくりしただけ」

立ち上がってリディは銃を取った。

「街の中にいたんじゃわからんだろうが、こういう不測の事態は外の世界じゃよくある。いちいち驚いていたらきりがないぞ?」

「む……。慣れるようにするわ」




獣討伐後。
「終わったか」

エドは双剣しまう。

「……もう大丈夫?」

「……喉カラカラだな。安心しろもういない。ほら、水だ。これで喉を潤しておけ」

エドはリディに近寄って先程、水を汲んだ水筒を手渡した。

「ん」

「少し休んだら出発するぞ」

「了解」

返事をしてリディはもう一度地面に座り直すのだった。

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「もう大丈夫か?」

「ええ、問題ないわ。念のために水も汲んでおいたし」

「賢明だな」

2人は再び、砂漠を歩き出した。

「ぶっきらぼうだけど、水を汲んでくれたり優しいのね」

「そんなのは……」

「護衛の仕事の範囲内?」

「そうだ」

「ふーん」

リディは意味ありげな視線を送るが、エドはそれを無視した。

「きゃっ」

「大丈夫か?」

80度くらいの急な傾斜を滑り台のように滑り落ちた。

「ん、平気」

2人は坂に身を任せそのまま下へ降りていった。

「ずいぶん長い下りだったな……」

「ねえ、エド……」

「なんだ」

「さっきの……楽しかったわね……。砂漠がずっとあんな感じだったらいいのに」

珍しくちいさな子供のようにワクワクとした様子でリディはそう言った。

「なにをのんきなことを……」

エドはそう言って呆れた。
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