エピソードまとめ
□エドワール・ルキエ
12ページ/13ページ
ep.2 英雄の条件
─────────♢────────
〔道中会話〕
「アナマリアは冒険に憧れてるんだよな?」
「ええ、そうですわ」
「そいつを否定するようで悪いが、冒険てのはいいもんばっかじゃない。むしろ嫌なことの方が多い」
「嫌なこと……ですの?」
「例えば、今だってそうだ。この先で待ってるのは生存者じゃなく、悲しい現実かもしれん」
「か、悲しい現実?まさか……」
「その可能性だって充分あり得る。それはアナマリアにもわかっているだろ?」
「うう……。考えたくはありませんけれど……」
「冒険が悪いこととは言わん。だが辛いこともあるって話だ」
「エドはわたくしが冒険することに反対ですの?」
「それを決めるのはオレじゃない。続けるのもやめるのもあんた次第だ」
「わたくし次第……」
「だが、これだけは覚えておいてくれ。辛いんならやめてもいいんだってことを」
「やめていい?」
「ああ、それは逃げなんかじゃない。他の生き方をして、幸せになる道だってあるんだしな」
────────────────────
アナマリアと会話をしながら、エドワールは鉱山の奥の方へ進んでいくと、赤い角の生えた大型の獣が目に入って、足を止める。
「エド!奥に誰かいますわ!」
そう言ってアナマリアが、獣の先、鉱山の岩と岩の隙間に隠れている男を見つけた。
「取り残された鉱夫か……!だが……、あいつをどうにかしないといけなさそうだな」
「でしたらどうにかするまでですわ!」
そう言って2人は剣を取った。
「この状況下で生きていたか。あの鉱夫運が良いな」
「まだですわ!帰るまでが冒険!油断するには早いですわ!」
「確かにその通りだ。まずはこいつを倒すぞ!」
「ええ!」
そう言って2人は、獣─フラマドーラへ挑んでいくのであった。
────────────────────
「無事か?」
フラマドーラを倒し終わると岩陰に隠れていた若い鉱夫が出てきた。
「ああ。助かった。なんとかここに逃げ込めたんだが、身動きが取れなくなってな……」
あんな巨大な獣が居ては、民間人では岩陰から出るに出られなかっただろう。
「三班の鉱夫だな?中に取り残されているのは、あんたで最後か?」
「そのはずだ」
「ということは脱出できれば、全員生還ですわ!」
「こんだけの大惨事で、死者が出ないってのは奇跡だな」
ほっと息をつくのもつかの間、ドンッと大きなものが崩れ落ちた音が聞こえた。
「い、今の音は……?」
「坑道のあちこちで崩落が起きてる。ここもいつ崩れるか、わかったもんじゃない。とっとと脱出するぞ」
「わたくし達のあとに付いてきて下さいまし!」
そう鉱夫に声をかけ2人は走り出す。
「急いで、ここから出るぞ!」
グラグラと鉱山が揺れる頻度が早くなっているのを見て、急いで来た道を戻る。
「ひっ……!」
一段と大きな揺れが起こり、鉱夫が悲鳴をあげた。
「上ですわ!」
「チッ!」
エドワールとアナマリアは、上から降ってきた大岩を瞬時に前に避けた。
しかし、揺れに悲鳴をあげていた鉱夫は避ける事ができなかった。
「おい!無事か!?」
「エド!また獣ですわ!」
エドワールご岩の向こう側に声を投げ掛ける後ろでアナマリアが声を上げた。
振り返って見れば、獣が群がっていた。
「くそ!なんて間の悪い……」
「獣をお願いできますか!」
「構わんが、なにをする気だ?」
「あの方を助け出しますこの剣で!」
そう言ってアナマリアは腰の刀の柄に手に取った。
「本気か?」
「わたくしの覚悟を信じて欲しいですわ!」
真っ直ぐとアナマリアはエドワールを見た。
「わかった。そっちは任せるぞ、アナマリア!」
アナマリアに任せ、エドワールは双剣を握り獣に向かっていく。
「すうーはあー」
アナマリアは岩の前で身を引くくし、深呼吸をした。
「なにをしてる?」
「精神集中ですわ。ただ一太刀に全霊を注ぐ……。集中力を切らさないためにも、獣をわたくしに近づけさせないで下さいまし!」
「ああ、任せろ!」
アナマリアの方へ行かないように獣を倒して回っていれば、上から岩が落ちてくる。
「くっ!落石まで……!アナマリア、大丈夫か!?」
声をかけるが返事はない。
「……アナマリア?」
振り返って見れば、彼女は先程と同じ状態のままじっと刀を構えていた。
「こっちの声が聞こえないくらい集中してるってことか。オレも目の前の敵に集中しないとな!」
そう言ってエドワールは、落石を避けながら獣を切り裂いていく。
「集中してるところ悪いが、まだなのかアナマリア!落石に獣……どんどんヤバイ事になってるぞ!」
「もう少し……あと少しですわ!」
「あと少し…ね。了解だ」
彼女を信じ、エドワールは敵を倒していくのだった。
「はああああっ!」
アナマリアが唸るように叫び、シャキンという音にエドワールは振り返った。
斜めに斬られた岩の上側が、滑り台の上を滑るように、滑っていき落ちる勢いで粉々に砕けた。
「さすがだな……」
これには獣を倒し終えたエドワールも関心した。
「ふう」
息をついてアナマリアは刀を鞘に収めた。
「す、凄え……」
岩の向こう側にいた鉱夫は無事だったようで、唖然と斬られた岩を見つめていた。
「さあ、急ぎますわよ!」
「あ、ああ……」
エドワールも驚きを隠せないまま頷いて、鉱夫と共に3人で出口を目指すのだった。