エピソードまとめ
□ファルク
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ep.1 孤鷹の双刃
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「ふんふんふふーん♪」
日の暮れたリュンヌの街の中を私服を着たアメリーは鼻歌を歌いルンルンで歩く。
その右腕は同じく私服に着替えたファルクの左腕に絡められていた。
「私達はー新婚さーん」
「だから、のんきに歌ってんじゃねーよ」
「いいじゃーん」
そう言ってアメリは足を止めて少し背伸びをする。
「ほら、クロードくんもお芝居しなきゃ」
ヒソヒソ話をするのにアメリーが身を寄せ、その豊満な胸がポヨンとファルクの腕に当った。
「ばっ!やめやがれっ!」
ファルクは腕からアメリーを外す為後ろに飛び退いた。
「……ったく、ユーゴめ。くだらねー策を考えやがる……。つーか、あの通行証じゃリュンヌには入れたが、ホテルは警備だらけで入れねえじゃねえか……」
「ね、クロードくん。ちょっといい?」
「あ?なんだよ?」
「こっちこっち」
アメリーはファルクを手招きホテルの横の路地裏へ入った。
「……私、考えたの。ホテルって掃除するお仕事の人いるでしょ?手始めにそこと繋ぎを作って、それから…………」
「めんどくせえ。チマチマやるよりゃ、この外壁を登って最上階から侵入。で、中将助け出して鮮やかに脱出!どうだ?」
「どうもこうも……。行き当たりばったりすぎるよー」
「ともかく、オレはこれで行く」
「クロードくん!ロランス隊の副官でしょ!隊長の私と二人で、もっと力を合わせて……」
「二人じゃねえッ!」
ファルクはドンとアメリーの後ろの壁に手を付く。
「オレはいつだって、一人で上手くやる。どんくさアメリーの出番はねえよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
アメリーは悔しそうに拳を握る。
「だから、オメエは宿で脱出経路を……」
「クロードくんのバカッ!」
そう言ってアメリーは目の前を塞ぐファルクの体を突き飛ばした。
「隊長はもう知りません!」
アメリーは滲んだ涙を手で払いながら走り去って行った。
「チッ……。…………さて、やるか」
ファルクはホテルの上を見上げる。
双剣を投げ壁に突き刺し、伸びたマナの紐を伸縮させて、上へ飛び上がった。
「……よっこらしょっと」
難なく屋上へ到着する。
「ハッ、余裕じゃねえか」
上から来るとは思われてないのか、屋上には警備も何もいなかった。
「じゃ、ここからお邪魔して……っと」
ファルクは最上階の部屋に繋がる天窓を蹴り破って飛び降りた。
【CHAPTER4 三羽 飛ぶ】
999Y.C. 森国シルヴェーア ホテル・ブルミラ最上階
「で、潜り込んだのはいいが……、中将はどこだ?……探すか。ここは誰もいなさそうだし、下の階だな」
最上階はレストランのようで、警備も何もいない。ファルクは見つかることなく下の階へ向かう階段を駆け下りた。
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999Y.C. 森国シルヴェーア ホテル・ブルミラ9階
「この階はどうだ……?……この向こうにいねえかな?」
ファルクは廊下を渡り、各部屋の扉の前に立ち聞き耳を立てる。
「……素敵な景色ね」
少し高めの男の声が聞こえた。
「…………そうだね。でもキミの方がもっと素敵だよ……」
今度は先程より少し低い男の声だった。
「……あらやだ嬉しい」
「なあ…………いいだろ?」
「ええ……もちろん」
「……ってなるはずだったのに!どうしてキミは現れないんだ!……もういい、僕は一人で生きていくんだ……」
「……ここにはいなそうだな…」
ファルクはもうひとつ先の部屋の前で聞き耳を立てる。
「……この向こうにいねえかな?」
「こちらご要望のあったルームサービスです」
「……あら本当。お手柄じゃない。支配人には貴方の頑張りをちゃんと伝えとくわ」
「そんな……大したことはしてないので…………」
「……そう?評価されればお給料もあがるでしょうに。私は……お客様が笑顔でいて下されば充分ですので……。また必要な物があればお申し付け下さい」
「偉いわねえ。じゃあ、次なんだけど……。テル・テぺ大砂海の砂で作った、砂風呂に入ってみたいわ」
「テル・テぺ!?……かしこまりました。少々…………お待ち下さい……」
「……ここにはいなそうだな……」
廊下を抜けた先のエレベーターロビーに入る。
「あ」
バッタリと連邦兵に出会した。
「なんだ貴様は?」
「オレ様は帝国の曹長…………い、いや。新婚が……好評の……しがない……客だ」
「……怪しいヤツめ。まさかダントリク中将の奪還に来た賊ではあるまいな?」
「そ、そんなわけねえだろ」
「ホントかあ?まあ、そんなヤツが来たところで中将の移送が決まった今となっては意味はないがな」
「中将の移送だと!?どこに連れてく気だ?」
「やはり貴様!帝国の……!」
「うるせえ!早く教えやがれ!」
「おい、侵入者だ!警笛を鳴らせ!早く中将を階下に連れて行くんだ!」
「くそっ、めんどくせえな……!結局こうなるのかよ!」
ファルクは双剣を抜き、向かってくる連邦兵と対峙した。
兵を倒すとビービーとホテル内に警報が鳴り響いた。
「今ので他の警備にも気付かれたか……急がねえと!」
ファルクは倒した兵を軽く蹴る。
「おい!中将はどこだ?」
「……ふん。もうこのフロアにはいない」
「んなこと見りゃわかんだよ。どの階にいんのかって聞いてんだ!」
「さあな……もう、このホテルにもいないかもな」
「チッ!下の階を探すしかねえか!」
ファルクは目の前のエレベーターのボタンをカチカチと叩くように押した。
「……んだあ?このエレベーター、ずっと1階のままじゃねえか。動力……止まってんのか?」
動かないエレベーターを諦めて別の道を探す。
「まさかすぐにバレるとはな……。完璧な一般客に成りすましたつもりだったが、連邦もなかなかやるじゃねえか」
ファルクはシャッターを開け、先の階段を下った。