エピソードまとめ

□ファルク
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ep.2 亡霊を喰らう鷹
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痛む左腕を右手で抑え、足を引きずりながら15歳のファルクは山を登っていた。

「くそっ……」

紫の綿毛の様な丸い花が転々と咲く岩場の壁に、オレンジ色の逆だった髪をした少年が背を預けるように座り込んでいた。

「ジョイス!」

ファルクの首に巻いたドクロ柄のバンダナと同じものを額に巻いた彼は、ゆっくりとその顔を上げた。

「……ああ、ファルク……か。獣……一匹、そっちに行っちまったろ。少しばかり……読みが外れた。俺もまだまだだな……」

弱々しく離すジョイスの傍にたどり着いたファルクは、彼の肩を掴む。

「バカ野郎!さっさと逃げりゃよかっただろ!」

「そうだな……。まったく俺らしくもない。けど、団員を守るのも……団長の務め…だろ………」

そう言った後、ジョイスは、ゴホッ、カハッ、と苦しそうに咳をした。

「待ってろ!今手当てを……」

「いや……。もう、間に合いそうも……ない………」

「うるせえ!ふざけたことぬかしてんじゃ………」

引っぱたくぞ、と言わんばかりにファルクが手を振りあげた途端、強風が2人を襲った。
その風は上から吹いてきて、2人は顔を上げた。

そこには、黒い翼を持った鷹の様な大型の獣が居た。

「な……んだよ、コイツ…」

「……逃げろ、ファルク。お前一人じゃ無理だ…………」

「もしかして、こいつが………」

ジョイスのこの怪我を負わせた獣。

「く……」

ファルクはギリと獣を睨みつける。

「舐めんなあっ!」

ファルクはジョイスを守るため立ち上がり、双剣を抜くのだった。


【CHAPTER1 永訣(えいけつ)の夢】
997Y.C. ジルドラ帝国 雷鳴山


「オレとジョイスは二人で千人……。いや、それ以上の働きをする最強の傭兵団……。こんなシケたトコで、くたばるワケねえんだよ!」

ファルクは双剣を獣─グレルフェーダに投げ突き刺し、双剣から伸びた伸縮自在のマナをバネ代わりに使って上へ飛び上がった。

「ジョイス……死ぬなよ!金も身分も経験もなんもねえ、無名の二人で天下に名を轟かすってイカれた夢物語……。まだ終わっちゃいねえだろ?」

上に飛んだファルクは、グレルフェーダの体に刺した双剣を自分の手に引き戻して、それを今度は大きく振りかぶってグレルフェーダに叩き付け、地に落とした。

「……見せてやろうって言ってたじゃねえか。戦いの時に現れ終われば消える。シャバには生きられない、亡霊の意地をよ……」

がむしゃらにグレルフェーダと戦いながら、ファルクはずっとジョイスに呼びかける。

「なあジョイス……聞いてんのかよ……!」

返事を返さないジョイスに焦りながら、ファルクはグレルフェーダに渾身の一撃を浴びせた。

「やっぱオレ達は最強なんだよ!」

悲鳴を上げ倒れるグレルフェーダを前にファルクは、急いで後ろを振り返った。

ジョイスは頭が下がっていて目をつぶっていて、ファルクは急いで彼に駆け寄った。

「はは……凄いな……。さすがは亡霊戦団の最強戦力……」

ファルクが傍によると、ジョイスはゆっくりと目を開けてそう呟いた。

「なあファルク……。お前は…なにになる……?今はまだ亡霊だが………、名を上げれば……変わる………。朝が来て……日が差せば、亡霊は消え……生まれ変わる……。そろそろ……朝が来ても…いいよな………?」

「当たり前だ!もう目の前だ!それで二人で一緒に……!」

「……ああ。必ず……朝を見ろよ……、ファルク……!」

そう言って、ジョイスは瞳を閉じ、頭がガクっと下がった。

「……ジョイス?おい、ジョイス!?」

ファルクが何度も呼びかけるが、それ以上ジョイスから返ってくることは無かった。

「……なにもねえオレとお前で、なにもかも掴んで手に入れる。そう誓ったじゃねえか、ジョイス………。ジョイスよう……!」

ジョイスを見つめるファルクの横で、風が紫の綿毛を揺らすのだった。
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