エピソードまとめ

□アメリー・ロランス
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ep.1 ラック ハードラック ガール
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カモメの鳴く空の下、広大な海の上を大きな帆船が進んでいく。

その甲板の上で手すりを掴み海を眺める軍服の少女がひとり……。

るんるん、と海を眺めていた彼女は、懐からあるものを取り出そうとして腕を引っ張ったらそこらから色んなものが飛び出した。
お財布に、その財布から飛び出たガルドに、飴玉に、シーリングスタンプの押された手紙に、様々な物が辺りに飛び散った。

「ちょちょちょー!」

ただ、飛びった物は勢いよく引っ張ったためか幸運な事に前面の海ではなく甲板中に落ちてくれた。
少女は慌てて、散らばった物を拾い集める。


「あらあら、大丈夫?手伝いましょうね」

「ひゃっ、た、助かります〜」

少女が顔を上げて礼を言えば、声をかけてくれたおばあちゃんは持っていた杖を下ろしながらゆっくりと膝を折り曲げその場にしゃがんで、ふふふ、と笑った。

「あなたとってもラッキーよ。……ほら」

そう言っておばあちゃんは少女にシーリングスタンプの押された手紙を手渡した。

「あっ!院長先生からの手紙!」

ずりずりと膝を床に付けたまま少女は移動して、おばあちゃんから手紙を受け取った。

「私の手の中にね、ちょうど飛び込んできたの」

おばあちゃんは杖を持ち直してゆっくりと立ち上がる。

「ありがとうございますっ!本当に……!」

少女も立ち上がって頭を下げる。

「その制服と階級章……あなた軍人さん?」

「はいっ、私……いえ、小官は」

ビシッと少女は背筋を伸ばした。

「ジルドラ帝国軍所属、アメリー・ロランス少尉ですっ!」

「まあ、少尉さん?お若いのにたいしたものだわ。軍人さんがいてくれると、この船旅も頼もしいわね」

「はいっ。帝国の平和は、このアメリーにお任せです!」

「いたいた!おばあちゃん」

後ろからそんな男の子が聞こえた。

「あら、ハンス。どうしたの?」

おばあちゃんがそう言えば、銀髪の男の子がタッタッタッと傍にかけてきた。

「母ちゃんが呼んでるよ!そろそろ食事にしようって」

「もうそんな時間?じゃあ、行きましょうね」

そう言っておばあちゃんは杖をついて歩き出した。その横に男の子も寄り添った。

「少尉さんも、どうか良い旅を」

おばあちゃんは1度足を止めてそう言ってアメリーに頭を下げて行った。

「はい!良い旅を!」


ブンブンとおばあちゃんに手を振った後、アメリーは、あれ?と首を傾げた。

「私、なにしようとしてたんだっけ?えっと………そうだ、手紙手紙!」

先程拾ってもらった手紙をアメリーは急いで開封した。

「院長先生って心配性!」

そう言ってアメリーは両手で持った手紙をブンブンと横に振った。

「里帰りで私の立派な姿を見せたばっかりなのにぃ〜」

ぽん、とその豊満な胸の上に手を乗せる。

「……立派、だったよね?」

数日前の自分を思い返しながら、アメリーは少し首を傾げるのだった。

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【CHAPTER1 私のふるさと】
999Y.C. ジルドラ帝国 アルザ養護院


数日前、アメリーは自分の育った養護院に里帰りしていた。


「戦場では有能でかわいく健気な少尉ちゃん!けど故郷に帰れば綺麗で頼れる、アメリーお姉ちゃん!見てなさい。重い洗濯物だって余裕の笑顔で運べるんだから!」

そう言って、カゴの容量を超えた山盛りの洗濯物を抱え、養護院の庭に建てられた物干し竿の所まで向かう。

「……よっ、ととっ……どうわあああ〜!」

洗濯物で前があまりよく見えて居なかったアメリーは案の定なにかに躓き、前のめりにコケた。


その様子を見て、10歳前後の男の子と女の子がアメリーの傍に寄ってきた。

「へぐっ、ごめんねえ……」

涙を流すアメリーを置いて、二人の子供はいそいそと落としたカゴと洗濯物を拾い集めていく。

「みんな、妙に手際いいのねえ………」

「手際いいつーかさあ。……なあ?」

男の子は後ろで洗濯物を拾っている女の子に投げかける。

「うん。アメリーが運んでる時からみんな注意してた……」

「あうう、院長先生っ!」

彼らより遥かに年上のはずのアメリーは、目の下に手を置き泣いた。

「子供達は私を見て、立派に育ってますううう!」


えぐえぐと鳴くアメリーを置いて子供達は洗濯物を全て拾い終わった。

「あっ、でもラッキーだったな、タオルにくるまったたま落ちたから、洗濯物ほとんど汚れてねえや」

「よかったあ……」

「まあアメリーのタオルだけは、ぐちゃぐちゃだけど」

「へぐう……。あとで洗い直すよ〜」

「そういえば、さっきアメリーのことリサ姉ちゃんが探してたよ」

「え、そうなの?」

「うん。ここはやっておくから行ってきなよ」

「いいの?ありがと〜!じゃあ、お願いね!」

2人にこの場を任せアメリーは右手にある養護院を目指した。

「リサはご飯の当番だから、キッチンにいるはずだよね。頼まれてたお魚は、ちゃんと渡したはずだけど。どうしたのかなあ?」



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〔養護院会話 コケた男の子〕
「いてて……転んじゃった」

「大丈夫?ケガしてない?たしかどっかに、包帯があったはず……。ええっと……ええっと……、どこだっけ……」

「……そんなにおおげさに、しなくても大丈夫だって。こんなん舐めときゃなおるし」

「でも……それよりアメリー、服泥で汚れてるぞ」

「あ、これはさっき転んだ時にやっちゃって………」

「そのままにしておくとシミになるから、ちゃんと水につけてシミ抜きしときなよ。院長先生に洗濯板、借りてくれば?」

「う、うん。みんなしっかり者だあ……」


〔養護院内会話 軍人ごっこ〕
「はっ。アメリー・ロランス少尉殿!おつとめご苦労様です!」

「あはは、なにそれ軍人ごっこ?」

「アメリーだって、もう軍人だろ……っていうか少尉ってホントにホントなのか?軍人になるってのも驚いたけど……、まさか少尉なんて……全然信じられないんだよなあ」

「えー、なんでなんで?お姉ちゃんだってやればできるんだよ!みんなには見せたこと、なかったかもしれないけど……つよーい敵だって、すぐにやっつけちゃうんだから!こう、バビュンと!ドゴン、ヒューッと!」

「………全然説得力ねえ……」



〔養護院内会話〕
「あっ、アメリーだ久しぶりだね!」

「うん、久しぶりー!また会えてうれしいよっ」

「えへへ、わたしも!……でもアメリーはもう軍人さんなんだよね。軍人さんは階級で呼ばなきゃいけないんでしょ?じゃあ"ロランスしょーいどの"って呼ばなきゃダメ?」

「あはは、今まで通り"アメリー"でいいよ!」

「そっか……。なんか変な感じだなって思ってたからよかった!」


〔養護院内会話 キッチンの女性〕
「アメリーちゃん久し振りだねえ。あんたが出ていって、ここも少し静かになったよ」

「ええっ、そうなんですか!?お姉ちゃんがいなくなって、みんな寂しいのかな……」

「……そういう意味じゃないんだけどね。でもあんたがまさか、兵隊さんになるなんてねえ。……ここのことを考えてなんだろうけど、あんまり無茶するんじゃないよ」

「はいっ!でもダイジョーブです!私はみんなの頼れるお姉ちゃんですからっ!」

「……本当に気を付けるんだよ。カワイイ顔に怪我でもしたらいけないからねえ」

「えっ!カワイイって言われちった♪私は少尉、帝国少尉♪若い、カワイイ、頼もしい〜♪」

「軍に入ってシャキッとしたかと思っていたけど…………全然変わってないねえ」
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