エピソードまとめ
□アメリー・ロランス
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ep.1 ラック ハードラック ガール
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「あ、アメリーお姉ちゃん!」
アメリーが食堂のキッチンに入ると、女の子─リサが名を呼んだ。
「お昼に買って来てもらった、お魚のことなんだけど……これ頼んでた種類と違わない?」
「あ、それはね。魚市場の外れで声をかけられたの。魚を仕入れ過ぎて困ってるから、格安で引き取ってくれませんかって」
「え……?」
「三匹でたったの10ガルド!安いよね!いっぱい買ったから、お腹いっぱい食べれるね〜。お姉ちゃんは買い物上手♪」
るんるんのアメリーにリサは白い目を向けた。
「……それ騙されてる。売れない魚をお店からタダで引き取って、なにも知らない人に売りつけてるんだよ!」
「な、なんとーっ!?」
「なにを騒いでいるのですか?」
アメリーが大きな声を出して驚くと、老婆が近づいてきた。
「へぐっ、院長せんせえ〜。アメリーはまたドジを踏んじゃいましたあ〜!」
そう言ってきてアメリーはやってきた老婆に泣きついた。
「このお魚、鮮度は大丈夫そうなんですけど、味にちょっとクセがあって小さい子達には難しいかなって」
「どれどれ?」
院長はリサの手元の魚を覗き見た。
「……ああ、レインツナマズですね」
「知ってるんですか?」
アメリーが尋ねると、院長は頷いた。
「この辺りでは馴染みがなく人気のない魚ですけど、ワイン蒸しか香草揚げなら誰の口にも合う、ごちそうになりますよ」
「そうなんですか!?」
リサが驚くと、院長は微笑んだ。
「はい、手に入りにくい魚なので、むしろラッキーでしたね」
「よ、よかったあああ〜」
アメリーはホッと一息ついた。
「よーしっ、お姉ちゃんも手伝うから一緒に作ろ〜♪」
そう言ってアメリーは腕捲りをした。
「はあ〜ナマズおいしかったあ〜」
料理も食事も終わり、アメリーはお腹をさすった。
「でも料理はあんまり、うまくいかなかったなあ。リサがなんとかフォローしてくれたからよかったけど……」
そう言いながら食堂から出る。
すると出たところでちょうど院長に出くわした。
「アメリー、お手伝いをお願いしてもいいですか?今、倉庫の整理をしているのですが、井戸の近くにある荷物を倉庫まで運んでほしいんです」
「なんとっ!了解ですっ!院長先生のためなら喜んでお受けします!」
「ありがとうございます。……くれぐれも怪我をしないよう、注意してくださいね」
「だ、大丈夫です!今回は絶対!だからこのアメリーに任せて下さいっ!」
そう言ってアメリーは食堂の横にある井戸へ向かった。
「これが院長先生の言ってた荷物だよね」
井戸の傍のスツールの上に置かれた、小物のたくさん入った箱を見つけた。
「せっかく里帰りしたのにドジばっかり。この倉庫のお片付けで挽回しなきゃ。よーし、やるぞー、えいえいアメリー!」
アメリーは両手で箱を持ち上げて、歩き出した。
「倉庫は確か……左の奥の方だったよね。……大事に運ばなきゃ!そーっとそーっと……」
倉庫までもう少し、というところでアメリーはつんのめった。
「わわっ」
そのままアメリーは前方に転んでしまった。
「痛ったあ〜!ううっ、なにもない所でつまづくとか……」
起き上がりながらアメリーは、先程まで運んでいた荷物を見た。
「ああ、大事な箱、壊れちゃった………」
バッキリと真っ二つに割れた箱の底に、キラリと光る物があって、アメリーはそれを手に取った。
「なんだろうこのコイン?帝国のお金とは違うみたいだけど………」
各国で使われている通貨、ガルドとは紋様や大きさが少し違った。
「はっ、そんなことより院長先生に謝りに行かなきゃ!」
そう言ってアメリーはコインを握りしめたまま、急いで走り出す。
「……で、どうするんだ院長さん。こちとら商売だから金を貸せと言われりゃ、いくらでも貸せる……けどよ。担保も保証人もねえとなると厳しいぜ?」
食堂の方へ走っていたらそんな声が聞こえて、アメリーは足を止めた。
食堂の入口から少し離れたところで、院長と見知らぬ男性が話をしているようで、アメリーはそちらに近づいて行った。
「…あ?誰だお前は」
「アメリー?」
「……お金の為に保証人が必要なんですか?それなら……帝国軍の少尉という身分では不足でしょうか?」
「意気込みは買うがね。養護院一つ支えるには、星も貫目も足りねえよ少尉殿」
「そんな……。頑張って出世もしますから!」
アメリーは両手の拳を胸の前で握って見せる。
「駄目なもんは駄目だっ……て」
男はアメリーの拳の隙間から見えた光るものに気がついて目を見開いた。
「……おい、その手に持ってるヤツ。かなり年代物のコインじゃねえか?」
「え?」
これが?と言うようにアメリーは手を開き持ってきたコインを見つめる。
「……それは恐らくわたしの父の遺品。価値ある品なのですか?」
「おいおいおい、世間知らずかよ院長さん!この手のものは好事家に高く売れるんだぜ」
「本当ですかっ!」
「それにしても………、このタイミングで掘り出し物が見つかるたあ、えらくラッキーな話だな。おかげで俺も用無しだ」
「ありがとう、アメリー。助かりましたよ」
「え?もしかして私、お手柄?やったあ、えへへっ♪」
そう言ってアメリーは喜んだのであった。
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〔養護院内会話 女の子〕※レインツナマズのワイン蒸しレシピ
「あ、アメリーお姉ちゃん!今日のご飯、リサちゃんと作ったんでしょ?おいしかったよ」
「ホント!?よかった〜!まあ私は洗い物くらいしかしてないんだけど……」
「そうなの?でも懐かしくなっちゃった。私が前にいた所で、よく食べてたお魚だったから」
「えっと……。レインツナマズ……だっけ?
「そうそう。……死んじゃったお母さんに教えてもらったレシピがあるの。大人の味だから大きくなったら作ってみなさいって」
「……そうだったんだ」
「うん。でもまだ私は子どもだし……、せっかくだからお姉ちゃんにも教えてあげる!」
「ええっ、いいの!?ありがとー!今度またあの魚見つけたら作ってみるね!」