エピソードまとめ
□ユーゴ・シモン
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ep.1 裏切り者
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「ふう」
部屋に入ったユーゴは、どさっ、と床に荷物を置いた。
「……なんだか、騎士学校時代を思い出すな。……うん、またイチから頑張ろう。絶対に譲れない、目的のために……」
「てめえか?連邦からの新参者ってのは?」
勝手に部屋の扉が開かれ、ガラの悪い人が入ってきた。
「……ああ。ユーゴ・シモンだ。キミは?」
「オレ様はテメエの先輩になるファルクってもんだ。"ファルク様"のでも呼ぶんだな、裏切り野郎」
「……よろしく、ファルク」
「……いい度胸じゃねえか」
そう言ってファルクはユーゴに詰め寄った。
「僕のことはユーゴと呼んでくれると嬉しいよ」
「ハッ、裏切り野郎で充分だろ?」
「……そう」
「おい、ちょっくら訓練に付き合えよ」
「訓練?」
「ああ……サシでの模擬戦闘だ」
「構わないよ。受けて立とうじゃないか」
「お、いいねえ!男見せるじゃねえか、裏切り野郎」
「ユーゴだ」
「オレ様に勝ったら覚えてやるよ。先に訓練所で待ってるぜ。ビビッて逃げんなよ?」
そう言ってファルクは部屋を出ていった。
「訓練所はさっきまでいた場所だな。ファルクか……。いきなり妙なヤツに目を付けられちゃったな……。逃げたと思われるのもなんだし急ごう」
ユーゴは部屋を出て階段を降りていった。
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〔兵舎内会話 階段下兵士〕
「ファルクめ……。表向きは新人と仲良くしとけって言ったのに……。……こうなったら、あいつの隊の隊長を呼んで来た方が……」
「ファルクの隊のですか?」
「そうそうちょっと厄介なヤツで……ってお前!……いや、なんでもないさ」
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訓練所へ着くと、先程宣言したようにファルクが待ち構えていた。
「準備はいいかよ、裏切り野郎」
「いつでも」
「けっ、すましやがって。オレはそういう野郎が一番嫌いなんだよ!」
「それはすまなかった。けれど僕はキミみたいなタイプ……」
「ああ?」
「……結構好きかな」
「ハッ!馬鹿にしやがって!行くぜえ裏切り野郎!」
ファルクは背中に背負った双剣を引き抜き、ユーゴも長剣を構えた。
「オレはお前みたいにポッと出てきて、苦労も知らずに上に行くヤツが大っ嫌いなんだよ!」
そう言ってファルクは双剣を振り下ろしてきた。
「それは僕も同意見かな」
ファルクの剣をユーゴは受け止めはじき返す。
「ハッ、オレにゴマすっても手加減はしてやらねえぜ!」
「……僕がただのご機嫌取りかは、戦いのあとにキミが判断してくれよ。僕もキミがどんな人間か見極めるからさ」
「……テメエ!調子に乗んなよ!」
2人の剣がぶつかり合う。
「やるじゃねえか裏切り野郎!」
「ユーゴだ」
「ふっ……頑固だなア、テメエも!」
「それはお互いさまだろ……ファルク」
「ファルク様だ」
「ふ……」
「へっ……」
「さて、次で最後になりそうだね」
「……だな。行くぜええええ!」
見合った2人の耳にどてどてと走ってくる音が聞こえた。
「すとおおおおおっぷ!」
大きな胸をブルンブルンと揺らした女兵士が飛び込んで来た。
「え?」
そしてそのままツンのめり、頭からコケた。
「へぐっ」
「……はあ」
やれやれと言うようにファルクはその女を見下ろして武器をしまった。
「た、大丈夫ですか?」
ユーゴも剣をしまい、倒れたままの女性に手を伸ばす。
「……は、はい〜」
ユーゴに引っ張られながら女性は立ち上がった。
それから彼女は腰に手を置き、仁王立ちした。
「喧嘩は"メッ"だよ二人とも!」
「いや、これは喧嘩というか……」
「もう、クロー……ファルクくんは少し目を離すとこれだから」
「っせえよ。保護者面すんなクソが」
「あ、あれ?キミはさっきの」
ユーゴはやっと、この女性兵士が、先程階段から落ちてきた人と同一人物だと気づく。
「先ほどはありがとうございます。ユーゴ・シモンくん!」
「はい……ってあれ?やっぱり僕の名前を?いったいどうして……」
「ああ?なに言ってんだ?そりゃこいつの立場なら名前ぐらい知ってるだろ」
「彼女の立場?」
「んだよ、テメェ、マジでなんも知らねえのな」
ん?とユーゴは首をかしげる。
「そっかそっか!じゃ、改めて自己紹介だね!私はアメリー・ロランス少尉!」
「はい、よろしくお願いします。アメリー・ロランス少……しょ、少尉!?」
「そだよー」
そう言ってアメリーは胸を張る。
「少尉さん、ちょっと偉いんだよ?」
「え、いや、ちょっとどころじゃ……」
「その反応だけは共感するぜ、裏切り野郎。だが、この分だとテメエは、もう一段階驚くことになるぜ?」
「どういう意味だ?」
「キミは今日から、この私が隊長を務める部隊……ロランス隊の一員として任務に励んでもらうから!同じ隊のファルクくんとも仲良くすること!わかった?」
「はっ、了解しました!」
反射で返事したユーゴはすぐさま固まった。
「……え、はい?」