エピソードまとめ
□ガスパル・エルベ
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ep.1 国家の犬
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客室の扉を開けて見ると、どうやら中には誰も居ないようだった。
「噂の少将様のご到着はまだらしい。じゃ、先に少し調べておくか」
ガスパルはまず、部屋の奥の本棚を調べてみる。
「帝国に関する本ばかりだな。でもこの程度の内容は誰だって知ってるし、特に気になるものは……ん?奥に本が一冊隠されてる……?もしかしてこいつは……!」
手に取った本のタイトルをガスパルは見てみる。
「"パワハラ上司からの圧力に耐える技101 選"……ある意味掘り出し物だな。……一応、中を見とくか。一応ね」
次に調べたのは客室のテーブル。
「なんか机の上に細かい粉が散らばってるな。……もしかして帝国の研究に使われてる薬品かなにかか?……いやこれは……見覚えがある。ただのパンのカスだ。…………もしかして例の少将さん、いつもここに入り浸って お茶やパンを楽しんでるのか……?」
次にすぐそばのソファを調べる。
「こういう時は布の下に、なにか隠してたりするもんだけど。客室にそこまでの仕掛けを用意してるとは思えない。それに布もしっかり張られているし、特に怪しい所はないかな」
そうやっていると、急に扉が開き帝国兵達が入ってきてガスパルは慌ててステルスで身を隠す。
「相変わらずここの兵士どもは使えないヤツ揃いだな。だが、まあいい。司令室に置いてある"調査報告"があれば、こんな僻地の長ともお別れだ」
そう言って、少将と思われる男はソファに腰掛けた。
「司令室の調査報告ねえ」
テーブル近くの棚に寄りかかりながらガスパルは小さく呟く。
「どうやらこれっぽいな。うちの上司のお探しのものは」
「ああ。明日が待ち遠しいよ。作戦の成功とあの書類を手土産に、私は更なる高みへと昇る!」
「それほどのものなのですか、その"調査報告"とは」
「君達に詳細を話せないのがもどかしいよ。あれは極めて使い道の多い情報だ。帝国にとっても、連邦にとってもな」
「……へえ、それはそれは」
いい情報を聞き、調査報告を取りに行こうと動き出したガスパルの肘が棚の上にあった本に当たり下に落ちた。
「誰だ!」
ステルスの効果が切れ、帝国兵達に見つかった。
「ちっ」
「な……き、貴様……」
「あー、申し訳ないが……、全員ここで寝てもらおうか」
そう言ってガスパルは銃を構えた。
「貴様……なんのつもりでこんな……」
「まあ、隙だらけだったからねえ。いくら入口の警備を手厚くしたところで、民間人を入れるような隙を作ったらいけませんよ。こうやって簡単に潜り込まれちまうかもしれないし。次回の教訓として活かして下さい。……まあ、次回があるかどうかは、わかりませんけど」
「こ、この……やれ!やっちまえ!」
そう言ってベッカー少将が叫び、兵士達が一斉に襲いかかってきた。
ガスパルは飛び上がり、兵士の足元に弾を打ち込む。
そうすると創術が発動し、黒い渦から紫色の棘が飛び出し、兵士達の動きを拘束した。
そしてガスパルは順番に頭を撃ち抜いていく。
「なんとか他に連絡される前に制圧できたな。とはいえもう時間はなさそうだ。司令室とやらに行ってみるか」
帝国兵たちの死体を置いて、ガスパルは客室を出て右側の通路を進む。
その先の吹き抜けの通路からガスパルは下へと飛び降りた。
「ここは……さっき閉まってた門の先か?ここ以外の場所は調べ尽くしたはずだ。……ってことは、この先にあるのがきっと司令室だな」
真正面にある扉を開けると帝国兵達がいた。
「なんだ貴様!どこから入った!」
「……そりゃ、正面から堂々とね」
「な、なんだといったいどうやって……」
「説明したいところだけど、そんな時間もないんだよね」
そう言ってガスパルは兵達を撃ち落としていく。
「ふう。危ない危ない。騒ぎになる前にさっさと行かないとな」
そう言って奥の部屋の扉を開けた。
「さて、目標物はどこにあるのやら」
司令室の中に入り、ガスパルは中を物色した。
「……ふむ。これが大事な調査報告とやらか。貴族様ってのはわかりやすくていいねえ。さてさて、いったいなにが書かれているのかな?」
そう言ってガスパルは書類を確認する。
「……へえ。……これはこれは、なるほどねえ。そりゃあ、あの少将もうちの上司も血眼になるわけだ。なにせ……」