エピソードまとめ
□ガスパル・エルベ
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ep.1 国家の犬
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【CHAPTER2 潜入開始】
「さて、そろそろ本職の方の開店といきますか。例の砦は右の門を出た先だったな」
ライザーから砦への配送を承ったガスパルは、パンの配送よう荷車を引いて村の門の外へ出た。
「素直に入れてもらえりゃいいけど……ま、ここまで来たら、あとは押し切るまでだわな
。……と言っても武器は持ち込めないが……その辺はあの鬼畜上司がなんとかしてんだろ」
砦への道中を進んでいけば、男の子がいた。
「あ、ガスパルおじさん」
「よお、こんなところでなにしてるんだ?」
「この先の砦を見てたんだ。あそこに軍の人達がたくさんいるんだよね」
「ああ、そうだな」
「どんな所なんだろう……一回入ってみたいなあ」
「はは、そいつは難しいな。砦に一般人を入れることはまずない」
「そうだよね!だから僕思ってるんだ。ライザーさんはスパイなんじゃないかって!」
「え」
「きっと本当は軍人なんだけど、村の人を装って僕達を監視してるんだよ!」
「……さ、さすがに考え過ぎじゃないかねえ……」
男の子と別れて、ガスパルは砦の門の前へ辿り着いた。
「なんの用だ?」
砦の前に立つ帝国兵が武器を向けた。
「ライザーベーカリーです。パンのお届けにあがりました」
「ライザーベーカリー?お前が?」
「はい。ライザーさんの代わりに参りました。こちら書状です、ご確認を」
そう言ってガスパルは書状を兵士に手渡した。
「確かに、問題はないようだが……。ではパンだけ置いていけ。あとはこちらで……」
「あっ!そうだ兵士さん。うちの新作のパンもうご試食されましたか?実は素材を廉価なものに変えておりまして。もしこの素材の使用許可がいただければ、今よりお値段を2割は下げられるのではないかと」
「なに2割だと?」
「ええ。ですから上官様と中でご相談させて頂きたく……」
「……そういうことであればいいだろう」
「ありがとうございます」
「だが、武器の所持は確認させてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
そう言ってガスパルは両手を上げ、兵士は彼のボディチェックをした。
「……なにもないな。よし、通れ」
そう言われ、ガスパルは前へ進む。
「おいお前」
「は、はい、なんでしょう?」
ガスパルはバレたか?とドキリとしながら足を止めた。
「次からは多少の武器を装備しておけ。この辺は獣が出るからな」
「あ、はい。そうですね」
ホッとしつつガスパルは扉を開け、砦の中に入った。
998Y.C. 森国シルヴェーア バイヌセット砦
「……ふう。第一段階突破と。落ち着ける所で"あいつ"に連絡しておくか」
そう言ってガスパルは丁度よさそうな岩陰を見つける。
「よし、この辺でいいな」
ガスパルは耳元に手を当てる。
「あーあー、こちらガスパル。聞こえてるか鬼畜上司」
「誰が鬼畜上司かね。作戦中は"パスト"と呼びなさい」
「はいはい、パストさんよ。言いつけ通り砦内に侵入したぞ。どうよこの手際」
「ああ、良くやった…………とでも褒めて欲しいのか?これだけの期間をかけて、その程度の進捗でか?正気の沙汰とは思えんな。追加指示を出す気も失せる。しばらく支援なしで動くがいい」
「あ、おい……!ま、マジで切りやがったあの野郎。仕方ない。とりあえず偽新作パン配って情報収集しつつ……配送先の食堂に向かうとするか」
真っ直ぐ進み、砦の建物内に足を踏み入れると正面に、ピンク色の大きな獣が柵の中に居た。
「げ、なんだアレ」
「ああ。パン屋の関係者か。あれはキャサリンちゃんだ」
「きゃ、キャサリンちゃん?あの猛獣が?」
「そうだ。彼女には気を付けた方がいい。ありゃうちの番犬代わりでな。慣れない人が近づくと…………掃除が大変だ」
「なんつう表現だよ」
「冗談じゃなく、マジで危険だって話だ。ま俺達一般兵にはあまり関係ない話だがな。キャサリンちゃんに近づいてまで、あちらの区域に行く理由がない」
「そうなのか?」
「ああ。だってあそこには主にお偉いさんの部屋とか、重要書類等しか……。……いや、とにかく用がないってことだ」
「……なるほどね」
食堂はあっちだと教えて貰って、キャサリンちゃんの前の右の通路へ歩いていく。
「重要書類の置き場があの奥ってことは……。キャサリンちゃんを、どうにかしないといけないのか。……腹痛いわあ」
先に進むと、道が別れていた。左手の方の道へ行こうとしたら兵士に止められた。
「ん?パンの配送だろ?この先は武器庫だ食堂はこっちじゃねえぞ」
「へえ……そんなものがあるなんて、さすがは帝国の砦だな」
「……い、いいから早く食堂に行け」
「はいはい、どうも一」
向こうだ向こうと指さされた方へ大人しく向かう。
「どうもー、ライザーベーカリーでーす」
そう言って、食堂の門を開いた。
「あぁ、ご苦労さんその辺に置いといてくれ」
「へーい」
兵に言われた通り適当にその辺の机にパンを置き、ガスパルは食堂を出て、その廊下の隅っこへ行く。
「……さて身軽になったはいいが、堂々とうろつく理由も失ったな。どうしたものか……と。おい聞こえるかパスト」
耳に手を当て通信機を触る。
「武器の話か?武器庫の木箱に用意してある」
「……もしかしてあんた、キャサリンちゃんのこと……」
「知らないわけがないだろう」
「武器があるのはありがたいが、そもそもそんな工作ができるヤツがいるなら、俺が潜入しなくても良くね?」
「そこに武器を入れたのは、協力者であって諜報員ではない」
「……つまりはなにも知らない末端ってことか?」
「そういうことだ。当然、協力や手引きは期待するな」
「……なかなかハードだねえ」
「では武器を回収し番犬を超えろ。その先のことは追って指示する」
「……また先に切りやがった。ま、いいか。じゃぼちぼち……。俺の本領発揮しちゃいますかね」