エピソードまとめ
□ガスパル・エルベ
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ep.1 国家の犬
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葡萄染色の長い髪を後ろで結った髭面の男は右耳に人差し指を当てていた。
「……要件は以上だ。では健闘を祈る」
低い声のそんな言葉が最後に聞こえ、彼は耳から指を離した。
「……ったく、毎度のことながら、あの鬼畜上司め……。なーにが、"お前なら簡単な任務"だ」
そうボヤいて、男はその場から少し前に出て、崖っぷちを見下ろした。そこには砦の門を守る沢山の帝国兵達が居た。
「あのえげつない警備体制。ネズミ一匹入る隙間ありゃしない。俺の"能力"勘違いしてんじゃないだろうな」
覗かせていた頭を引き、男はその場に隠れる。
「……ま、一度請け負った以上はキッチリやりますけどね。さて、どうしたもんか……」
悩む男の耳に、ガラガラと車輪の回る音が聞こえた。
「ん?」
また、崖の下を覗くと、荷車を引いた男がやってきた。
「まいど!ライザーベーカリーです」
「ああ。毎日ご苦労様。おい、いつものパン屋だ。門を開けろ!」
「み、民間人を入れた?」
あっさりと開放された門を見て男は驚いた。
「しっかし毎日美味いパンが食えて俺達も幸運ですよね」
「少将は貴族なだけあって、美味いものに目がないからなあ」
門番の兵士たちがそんな会話を繰り広げる。
「……なるほどね」
「しかし、あのパン屋も不憫だな」
「え、なにがですか?」
「お前知らないのか?実は近々な……」
「……やれやれ、参るなあこういうの。でも、ま、ある意味、俺にお似合いの役回りか」
そう言って男はゆっくりと立ち上がった。
「……じゃ、今回も張り切って、汚いお仕事と行きますか」
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【CHAPTER1 好青年】
998Y.C. ジルドラ帝国 ジナーホルツ村
「さーてと、まずは爽やかな朝の挨拶といきますか」
黒いシャツにワインレッドのパンツを合わせ、水色のスカーフをゆるく巻いた男は、宿を出てまずパン屋へ向かった。
「おはようございます、ライザーさん。やあ、今日もいい天気ですねえ。こんな日はのんびり散歩でも……」
「くだらん前置きはいらねえよ。今日もパンの切れ端もらいに来たんだろ?」
「へへ、いつもすみませんね」
「なにがすみませんだよ。朝一でたかりに来ておいて」
「たかりだなんて人聞きが悪い!店の前でこんな香りしてたら、誰だって我慢できなくなりますよ。さすが帝国一のパン屋!香りまで帝国一!」
「相変わらず口だけはよく回るな、あんた。まあでもそれだけじゃ、仕事は見つからないみたいだが」
「痛いとこ突きますね。でも違いますよ。俺が仕事を見つけるんじゃない………。仕事が俺を見つけるんです」
「……あんたそんなだから、無職なんだろうなあ。うちの一人息子には、こうはなって欲しくねえもんだ」
そんな話をしていたら、ちょうどよくパン屋の中から銀髪の男の子が出てきた。
「おはよう、ガスパルさん」
「よおカール。親父さんってばひどいんだぜ。もっと客に愛想良くてもいいのになあ。ま、将来的にお前が継ぐならそこは安心か」
「え?う、うん……まあ……」
「……おい、あんた。こんなとこで油売ってていいのか?今日も職探し頑張りなよ。宿代もそろそろ俺ないんだろ?」
「そうなんですよ。どこかの優しいパン屋さんが雇ってくれれば……」
チラリ、とガスパルがライザーを見れば彼はふい、と顔を逸らした。
「おっと、次のパンが焼き上がる時間だ。じゃあな」
「……へーい。切れ端、ありがとうございましたー」
パン屋の奥に戻って行くライザーを見送って、ガスパルはパン屋を出る。
「……さて。こちらもそろそろ最後の仕込みといきますか。ひとまずあの二人について ちょいと調べてみるかな」
そう言ってガスパルは村を練り歩いた。
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〔村内会話 杖を付いたお爺さん〕
「おお、ガスパルくんかい。この前は荷物運ぶのを手伝ってくれてありがとうね」
「いえいえ、気にしないで下さい。どうせ暇人ですので」
「まだ仕事は見つかっていないんだねえ。キミのような男なら雇いたい人間も多いだろうに」
「はは……それがさっぱりで」
「もし本当に困ったことがあれば、言っておくれよ。少しの間くらいは泊めてあげられるからね」
「そいつは助かります!でも……甘えてもいられませんから頑張りますよ」
「はは、応援しておるよ」
〔村内会話 パンカー〕※パン耳のカリカリソテーのレシピ
「……あなた、いつもパンの耳ばかりもらってるわよね」
「はは……まあいつもちょっと金が……」
「わかってるじゃない!あなたのような人こそ真のパンカーよ!」
「パ…パンカー?」
「パンを愛する者、という意味よ!パンの耳には無限の可能性があるわ。愚民達は硬いとか言って捨ててしまうけど、耳にこそ!美味しさやロマンが詰まってる!」
「は、はあ……」
「ふふ。新たなるパンカーとの出会いを記念して、とっておきのレシピをあげる。これでさらにパンの耳の可能性を感じられるはずよ。必ず作ってちょうだい」
〔村内会話 酒場のお姉ちゃん〕
「あらあ。ガスパルちゃん、今日もお仕事?
「こらこら。仕事ないの知ってるくせに」
「ふふっ、そうだったわねえ。でも今日もお店に来てくれるんでしょ?」
「んー、どうしようかなあ……君の口車に乗せられて金がどんどんなくなるからなあ」
「あはは、だってそういうお仕事だもの」
「そりゃそうか。でも……ちょっとだけサービスしてくれたら行く気になるかもしれないな?」
「サービス……ね。考えておくから今日は絶対に来てよね?」
「……本当に考えてくれるのかな?」
〔村内会話 宿屋〕
「あんたいつまでウチに滞在する予定なんだ?」
「あー……まあできればずっと……ですかね」
「ずっとお?だったら早く仕事を探すんだな。金払えなくなったらすぐ追い出すぞ」
「ひどっ!こんなにひいきにしてるのに!」
「金持ってねえ客に、ひいきにされても嬉しかねえよ。……つーか本当に、ずっとこの村にいるつもりなら、ウチにいるんじゃなくて どっかに家借りたらどうだ。もちろんそれにも金が必要だが………。そんときゃ、ちょっとは協力してやるよ」
「……はは、ありがとうございます」
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〔イベント会話 子連れの奥さん〕
「あらガスパルさん、こんにちは。相変わらずフラフラしているようだけど、ごはんはちゃんと食べているの?」
「ライザーさんにお裾分けをいただいてなんとか」
「あらあら、いいわね。彼のパンは本当に美味しいもの。でも最近のカールくん少し心配だわ。10歳っていう多感な時期のせいかしら。お店が砦にパンを卸すようになったあたりから、ライザーさんとぎくしゃくしているみたいなの。元々は仲睦まじい父子だったんだけど」
「ライザーさん、早くに奥さんを亡くされたんでしたっけ」
「ええ。でもカールくんは本当に真っ直ぐないい子でね。父親が立派だと、子どももちゃんと育つのねえ」
「……なるほど」
「あら、つい話し込み過ぎたわね。職探し 頑張って」
「ええ、それじゃあまた!」
「いい感じに情報が得られたな。この調子でもう少し探ってみるか」
〔イベント会話 女の子〕
「あ、無職のおじさんだー」
「うん、その呼び方やめようか。ガスパルねガスパル」
「わかったよ、無職のガスパル」
「こんなに決まらない二つ名、俺初めて聞いたよ。ところでパン屋の息子、カールくんのことなんだけどさ。キミの友だちだったよな?」
「そうだけど」
「最近なにか悩んでいたりしないかな?」
「うーん、ちょっとわかんない。……あ、でもお母さんの話はしてた!なんかもうすぐ"めーにち"で……、"今年は忘れてないかな"って」
「……なるほど」
「えっと、もういい?」
「ああ。ありがとう、助かったよ」
「うん。じゃあね、無職のガスパル」
「その呼び方定着させるのだけは絶対やめてくれ」
「"式"の成立にはあと少しってとこだな。もうひと押ししておくか」
〔イベント会話 おじさん〕
「ちょっといいかな」
「おお、ガスパルなんだい?悪いが仕事ならねえよ」
「いや、そうじゃなくてさ。一つ相談なんだが………ライザーさんに恩返しするには、なにをしたらいいと思う?」
「ああ……。アンタ随分世話になってるもんな。それなら配送の一つでも手伝ってやったらどうだ?」
「そうしたいのは山々なんだが、俺に仕事はくれないからなあ」
「まあ、よそ者に大事な商品を預けたくねえからだと思うが……。今となっちゃアンタは、よそ者って感じでもねえだろ。よし、わかった!俺があとで口利いといてやるよ」
「お!それは助かる。よろしく頼む。これで恩を返せるよ」
「へへ、そういう律儀なの嫌いじゃねえよ。んじゃ、職探しの方も頑張れよ」
「ああ。律儀……ね」
「これで"材料"は概ね揃ったな。じゃ"調理"の工程に入るとしますか。まずはカールか……」