エピソードまとめ

□ガスパル・エルベ
3ページ/8ページ

ep.1 国家の犬
─────────♢────────


「材料はこれでいいのか?」

パン屋に戻ってガスパルはライザーに持って帰った材料を渡した。

「随分と早いじゃないか。それに運搬も丁寧だ。意外なほどに仕事の手際がいいな。あんた……なんで無職だったんだ?」

「……まあ、色々ありまして」

「で、次はなにをしたらいい?」

「そうだな。じゃあ、配送をお願いしようか」

「もしかして砦に……」

「いや、村の人達に」

「……ですよねー」

「配って欲しいのは全部で5件。いけるかい?」

「ああ、もちろんだ。じゃ、行ってくる」

そう言ってガスパルはパン屋を出た。

「今度は配送か……この数だと村をぐるっと 回ることになりそうだな」

────────────────────

〔パンの配送 おばあさん〕
「おやおや、ガスパルさんパンの配達かい?じゃあ、私が頼んだ物もあるかな」

「ああ、確か……コッペパンですね」

「おおお、それだよ。ありがとう。いつも美味しいパンをありがとうって、ライザーさんに伝えておいておくれ」

「もちろんです!ありがとうございます」



「残り四つか……なかなか骨が折れそうだなこりゃ」


〔パンの配送 小太りの男性〕
「こんにちはー」

「あっ、もしかして配達ですか?ありがとうございます!初日にしてはいい働きっぷりですね」

「ははっ、そうでしょ?ライザーさんには店に集中してもらって、面倒な仕事は俺に任せて欲しいんだけどね。……例えば砦への配達とかもさ」

「うーん、それは難しそうですね。やっぱり軍の拠点だけあって警備が厳しいって聞きますよ。だからライザーさん以外の 配達は原則認めてないとか。なにかよっぽど、事情があれば許してもらえるかもしれませんけど」

「……なるほどね」



「よし、次で折り返しか。あと三つ……さっさと終わらせるぞ」


〔パンの配送 おじさん〕
「まいど」

「おっ、やってるなガスパル。なかなかサマになってるじゃねえか」

「アンタがライザーさんに口を利いてくれたおかげだよ」

「まあ、俺はただ話をしただけだ。このあとはアンタ次第だからな。嫌になって逃げ出したりしてくれるなよ?紹介した俺の顔に傷が付いちまうからな!」

「……ああ。もちろんだよ」

「んじゃ、配達のパンはありがたくもらっていくぜ!」



「あと二つ……。これだけ働きゃ、無職の汚名も返上できそうだな」


〔パンの配送 女の子〕
「あ、無職のガスパル。本当にパン屋さんになってる!」

「ああ、そうだ!ということはだ、俺はもう "無職のガスパル"じゃないってことだ」

「そっかー。パン屋のガスパルになったんだね。じゃあ、頼んでたクロワッサンちょうだい!」

「はいよ、毎度あり」


「よし、次で最後だ。この手際の良ささすがは俺だな」


〔パンの配送 女性〕
「あら、もしかしてパンの?」

「ええ。ライザーベーカリーの配達です」

「ありがとう。でも……本当にライザーさんのとこで働くことになったのね」

「はは……やっぱ、みんな知ってるんですね……」



「さて、配達はこれで終わりかな。……おつかいばっかりだけどまあ仕方ない。これも大事な"調理工程"ってね……。……そんじゃそろそろカールと話して"仕上げ"に入ってくとしますか」

────────────────────


ガスパルはパン屋の前に戻り、カールに声をかけた。

「あ、ガスパルさん」

「よう、カール」

「お父さんの様子どうだった?」

「……残念ながら今のところ命日の話は出てないな」

「……そっか。じゃあ、今年もやっぱり……でも仕方ないよね……お父さん忙しいから……」

「……なあ、カール。大事な人への大事な気持ちはきちんと口にした方がいい。致命的な後悔をする前にな。……母親を失ったことのあるお前になら、わかるだろ?」

「ガスパルさん…………うん。そうだよね……。ボク、お父さんに話してみるよ」

「いい子だ。お前は強いなカール。………昔の俺と違って」

ガスパルは顔を逸らしてボソリと呟く。

「ガスパルさん?」

「……なんでもないさ」

そう言ってガスパルは、カールのことを応援してると告げその場を離れた。
物陰に隠れて、カールがライザーに話しかけるのを待つ。

少し待てば、砦へ持っていくパンを荷台に積むためライザーが店から出てきた。

「……お父さん」

そんな父の背中にカールは声をかけた。

「なんだ、どうした?今日はうちを手伝わなくても……」

「お父さんが、お母さんの命日を忘れてるから!」

カールは声を張り上げた。
ライザーは仕事の手を止め、カールの傍に寄った。

「カール……。そうか……悪かったな。でも、父さんな、忘れてたわけじゃないんだ」

「え?」

「命日を二人で過ごすと、いつもお前、すごく寂しそうにするだろう?だから、命日がお前を縛るくらいなら、俺だけで……と思ったんだが、逆に寂しい思いをさせてしまっていたとは本当にすまなかった」

「お父さん……。ううん、ボクこそごめん」


そして、ここだと言わんばかりにガスパルは2人の前に出た。

「そういうことでしたらライザーさん。今日は改めてカールくんと、命日を"明るく"過ごしたらいかがです?」

「いや、俺もそうしたいのは山々だが、砦への配送がな……」

「そんなの、俺に任せてくださいよ」

「い、いや、しかし……」

「お父さん………」

じっと、カールがライザーを見上げる。

「……そうだな。わかった。頼めるかな、ガスパル」

「ええ、もちろん。お任せ下さい」

そう言ってガスパルは、ほくそ笑んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ