エピソードまとめ
□ラプラス
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ep.1 魔女の気まぐれ
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【CHAPTER2 魔女と黒き戦士】
997Y.C. ジルドラ帝国 レインツ荒涼地帯
〔道中会話〕
「今回の目的地だがこの先の石鳴りの道という名の洞窟で良かったか?」
「そうよ。そこにちょっと欲しいものがあるの」
「それは任務に必要なものなのか?」
「任務う?違うわよ。ただのオシャレよ、オシャレ」
「オシャレ……」
「あら幻滅した?付き合うのやめる?」
「いや、貴女にとって大事なことならば、自分はとことん付き合おう。命を賭して」
「……いやそこまでしなくていいわよ」
「そうなのか?難しいな」
「それが難しいのはバスチアンちゃんだけよ……」
〔道中会話〕
「ていうか、あなたもたまにはオシャレとかしたらいいんじゃないの?」
「自分がか?どのようにだ?」
「え?……そうねえ。せっかくいい体してるんだから、それを見せつける感じとかじゃない?」
「体を見せつけるか……ではなにも身に着けない、というのはどうだ?」
「………いいんじゃない新しくて」
「そうか。ならいつかやってみよう」
〔道中会話〕
「そういえば、帝都で争っていた男達だが……確か、民間人への略奪行為を繰り返し、貴女が告発した者達、だったな」
「そうだったかしら?」
「逆恨みというやつか」
「あんなの日常だからなんでもないわ」
「ふむ。日常か」
「………なにか文句ある?」
「いや、そういうこともあるだろう」
「ふーん。……あなたのそういうとこ好きよ」
「む。それは、どういうところだろうか?後学のために具体的な解説をもらえると……」
「そういうとこは大嫌いね」
「む、その点も併せて……」
「ああ、もう面倒ね」
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荒涼地帯を歩いて進んでいると、急にグラグラと地面が揺れた。
「な、なに!?」
「…ラプラス!」
バスチアンが珍しく声を張り上げたと思ったら、ラプラスは彼の腕に姫抱きにされていた。
バスチアンが走り抜けた後ろで、ドシンと大岩が落ちた。
「ありがと、バスチアンちゃん」
そっとバスチアンはラプラスを地面に降ろす。
「お礼にお姉さんがいいことしてあげようかしら?」
「いいことか……ふむ。では援護を頼む」
そう言ってバスチアンは刀を抜いた。
2人の周りを地震で刺激された獣達が囲っていた。
「アタシ相手になんて注文よ。そうじゃなくてえ」
「無理を言ったか?」
「無理とかじゃなく……。……まあいいわ、やるわよ。でも援護に回るのは貴方の方よ」
そう言って、ラプラスは弓を構えた。
「この子達地鳴りで起こされたのかしら?随分と不機嫌そうだこと邪魔だから全滅させましょ」
「ああ」
獣討伐後、2人は道を塞いでいる落ちてきた岩の前に立つ。
「それにしても困ったことになったわね。バスチアンちゃん、壊せる?」
「造作もないことだ。……ハアッ!」
パッカンとと大岩が斬られ道が広がる。
「やあん。凄いじゃない、さっすが〜」
「これもすべては貴女のご指導あっての賜物だ」
「いつの話してるのよ。アタシ思い出話嫌いなのよねえ」
「失礼した」
「いいわよ、別に」
そう言って2人はまだまだ先の洞窟を目指した。
〔道中会話〕
「ねえ、あのさあ」
「なんだ?ヒマだからなにか面白い話して」
「……ぐっ!?」
「えっ、なに?なんでそんな致命傷受けたみたいな反応なのよ?」
「いや……自分の人生史上最大級の危機でな」
「……どれだけ口下手なのよ。大丈夫大丈夫。ちょっとした雑談でいいから」
「雑談か……そうだな……。昨日は……」
「うんうん」
「天気が………」
「うんうん」
「……良かったな」
「うん………なんかごめんね」
「く……不甲斐ない。恩人に与えられた任務に、なんの成果も出せぬとは……!」
「いやホント……ごめんね」
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「ねえ、そろそろ、洞窟に着くんじゃない?」
洞窟前の獣避けの柵が見えてきた。
「なにやら兵士がいるな」
「嫌な予感がするわね、ちょっと話してみましょ」
柵の門を開け、洞窟の前に来るとどうやらさっきの地震で周辺の岩が落下したようだった。
「入り口が完全に埋まっているな。これはさすがに自分でも無理だ」
「そっかあ、残念ね」
「この岩を砕けるよう鍛錬を重ねてからならば……」
「……そんなに待ってられないわよ」
そう話2人の元に1人の帝国兵が駆け寄ってきた。
「現在この洞窟は封鎖中で……って、狼将様方!?」
事務的にそう言った帝国兵は、2人の顔を見て驚いていた。
「はあい。ね、通っていいかしら?」
「は、はい。もちろん………いえ、駄目です!」
ラプラスに惑わされそうになりながらも、すぐ様男は首を振った。
「随分とお堅いじゃない。アタシが頼んでもだめえ?」
「その……先ほどの地鳴りで大規模な落盤事故が起きまして、今は進入はできない上に、中に取り残された人員もいるみたいで……」
「ふーん。その間抜けはどうでもいいけど、入れないのは困るわね」
「一応この鍵で右手の門を開ければ、その先に洞窟へ続く別の入り口があるのですが……」
「そんなのあるなら早く言いなさいよ」
そう言って兵の手の上に乗った鍵をラプラスはかっさらう。
「ただ、そちらは凶悪な獣が住み着いており、獣対策の罠もありますので……」
「じゃ、行って来るわねえー」
「え、あ、はい!もし生存者を見かけたら……」
長い兵士の話を無視して、ラプラスは右手側の門へと向かう。
「これが、兵士ちゃんの言ってた門ね。じゃ、早速、鍵を開けてえっと……」
鍵を開けて扉を押せば、ギイッと音を鳴らして開いた。
「そ、そこのお方!」
「わ、なによお」
先に進もうとしたラプラスの手を、杖を付いた老人が引っ張った。
「まさか、洞窟に向かわれるのか!?」
「そうだけど?なんなのよ、あなた。邪魔しないでくれる?」
ラプラスの言葉に老人は、ハッとして手を離す。
「邪魔だなんてとんでもない!むしろ実力者と見込んで頼みがあるんじゃ!」
「ねえ、おじいさん。アタシ達のこと知らないわけ?アタシ達は帝国の……」
「聞いて下され!」
老人は悲痛に叫ぶ。
「そっちがね」
「洞窟の中に、息子が取り残されておるのじゃ!家督を継ぐべき長男が!礼ははずむ……だからどうか助けてやって下され!何卒息子を……長男を!」
「知らないわよお。行きましょ、バスチアンちゃん」
「……いいのか?」
「なにが?まさか、このアタシに人助けをしろってえ?あはは、ジョーダン。似合わないからそういうの」
「そうだろうか?自分は特に似合わないとは……」
「ほら、無駄口叩いてないで行くわよ」
「承知した」