エピソードまとめ
□バスチアン・フォルジュ
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ep.1 強者
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【CHAPTER3 手合わせ】
999Y.C. ジルドラ帝国 ラスタック砦
「デムランを逃がしはしたが……威力偵察の任は充分に果たせたはずだ。一度アウグストに報告を入れるとしよう」
ラスタック砦へ戻ってきたバスチアンは右奥にある司令室へと向かった。
〔砦内会話 子ども達〕
「お、おじちゃん……。あの……」
「なんだ?言いたいことがあるならはっきりと言え」
「……う、ううん。なんでもない………」
「遠慮する必要はない。お前達はもう自由なのだからな」
「じゃ、じゃあ……その…………助けてくれてありがとう」
「それがお前の言いたかったことか?ならばこちらも返そう。お前達は自分の誇れる戦果だ。ありがとう」
「うん……」
〔砦内会話 子ども達の付近にいる帝国兵〕
「バスチアン様、その……」
「なんだ」
「あ、いえ、あそこにいる子ども達は……」
「自分が連邦から解放……いや"略奪"した」
「そ、そうでしたか」
〔砦内会話 備蓄庫前帝国兵〕
「戦況はどうだ?」
「はっ!昨日も黒狼将様に、多くの拠点を制圧していただいたおかげで、我が軍の勝利は目前かと!」
「そうか」
「黒狼将様ばかりに戦闘を任せてしまい、なんだか申し訳ないですが……」
「気にするな。先陣を切り開くことこそ狼将の務めだ」
「そうですか……敬服いたします!」
〔砦内会話 司令室前帝国兵〕
「お帰りなさいませバスチアン様!宰相様なら中にいらっしゃいます!」
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「ああ、バスチアン。首尾はいかがでしたか?」
司令室に入るなり、アウグストがそう声をかけた。
「敵陣は一通り潰しておいた。あとは狼将でなくとも抑えることが可能だとは思うが、それも明日の自分の任務として完遂しよう」
「さすがですね。やはり貴方は頼りになる」
「ただ与えられた任務をこなしているだけだ」
「それがなにより凄いことなのですがね。まあいいです。他に報告すべきことはありませんでしたか?」
「……ふむ。報告というより、一人の知己として少々相談したいのだが……」
バスチアンから出た、相談、という言葉にアウグストは驚きを見せた。
「い、意外ですね……なんでしょうか?」
「狡猾で下劣な将への最も有効な対抗手段はなんだ?」
まるで自身のことを言われているようだと、アウグストは少し顔をひきつらせた。
「……それを私に聞きますか……」
「で、どうなのだ?」
「………一概には言えないというのが、正直なところですが。参考までにこの私が最も苦手とするものを、お伝えさせてもらうならば…………」
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アウグストから話を聞き終えたバスチアンは司令室をでた。
「……なるほど。さすがはアウグストだ。為になったな」
「バスチアン様!」
大声で名を呼び、帝国兵の1人が駆け寄ってきた。
「不躾な頼みで申し訳ないのですが……」
「なんだ」
「その……喧嘩の仲裁にご助力いただきたく……。酒場でちょっとした、小競り合いが起こってまして……」
「………その仲裁を自分にしろと?」
「も、申し訳ありません!」
「いや、それは構わないが、なぜ自分に?」
「……暴れている者がとても我々の手に負えず……」
「ふむ。なんという者だ?」
「傭兵上がりのファルクです。一部じゃ、狂犬と揶揄される厄介者でして……」
「ああ、あの者か。わかった。協力しよう」
そう言ってバスチアンは歩き出した。
「ファルクか……。武の才に関しては申し分ないのだがな……。酒場にいると言っていたか……」
酒場へ向かうと、白いロープを着た帝国兵がぶっ飛ばされていた。
「ぐあ……っ」
「ざまあねえなア、おい」
そう言いながら、目付きの鋭く金の髪の上の方は地毛の黒髪が見えている少年が、歩み寄り倒れた兵を見下ろした。
「"学も品もない傭兵上がり"には、負けねえんじゃなかったのかよ」
「野蛮な犬めが!これだから出自もロクにわからない、養護院上がりの連中は!」
「今なんつった、テメェ」
ああ?と少年は兵にガンつける。
「……そこまでだ」
「バ、バスチアン様!」
倒れていた帝国兵は慌てて飛び起きる。
「い、いや、あの、今の出自がとうこうは、その決して貴方様のことでは……!」
「余計なことを言うな。下がれ」
「は、はい!」
帝国兵は慌てて立ち去っていき、バスチアンは少年と対峙し武器を取った。
「ははっ、いいねえ!コクローのおっさんが相手してくれるたあ、最高じゃねえか!この胸くそ悪さも吹っ飛ぶっつーもんだぜ!」
「そうか」
「じゃ、行くぜえ!?折角なんだあんたも楽しめよなあ!」
「……善処しよう」
「ははっ、下っ端の雑魚のおもりたあ、相変わらずしょーもねえ仕事まで引き受けてんのな。お勤めご苦労様なこった」
「………お前も相変わらずのようだな」
「んだよ、説教かよ」
「いや、自分に協調性を語る資格などないだろう。だがこれ以上の諍いは、我が軍にとって損害しかもたらさない」
「損害だあ?けっ、頭のよろしいこった。それでオレが引き下がると思ってんのか?」
「……だろうな」
「ははっ!いいねえ、いいねえ!最高じゃねえか!」
〔※その場から離れようとした場合〕
「んだア?逃げる気かおっさん!」
〔戦闘後〕
「…ふむ。そろそろ止めておくか」
「あ?なんでだよ?」
突っかかるファルクにお構いなしにバスチアンは刀をしまった。
「おい、なにしてんだよ、おっさん。本番はまだまだこれからだろうが!」
「いや、ここで仕舞いだ。限界だからな」
「ああ?なにがだよ。オレはまだまだ……」
「………己の得物を見てみろ」
「あ?」
ファルクは素直に自分の持っている双剣を見て、眉間に皺を寄せた。
「……ああ、こりゃ、ひでえな………刃が欠けちまってる」
「来い。武具屋に向かうぞ」
そう言ってバスチアンは歩き出す。
「んだよ…?しゃーねーな」
ファルクも双剣をしまい、バスチアンの後に続いた。
「おい、おっさん。武器直したら続きやってくれるんだろうな?」
「それはどうだろうな」
「あんたがやらねえっつっても、オレはやるからな!」
「好きにしろ」
そう言い放ちながら、バスチアンは武器屋へ向かうのだった。
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〔砦内会話 喧嘩を見ていた帝国兵達〕
「ファルクのヤツ……帝国最強の兵士とやり合えるなんて……!」
「狂犬ぶりもあそこまで行くと……ちょっと凄いな……」
「ああ、なんか……いいもの見たな」
〔砦内会話 酒場の店主〕
「いやあ、助かりましたよ。喧嘩の仲裁をしていただいて。お礼に一杯やっていきませんか?」
「すまないが明日も任務があるのでな」
「だったら今日飲んでもいいじゃないですか。戦士の休息ってやつですよ」
「休息ならば足りている」
「でしたら時間がある時に、いつでも飲めるよう、レシピだけでもお教えしますよ。これでしゅわしゅわな気分になって下さい!」
「……しゅわしゅわ?」
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「武具の修繕。確かに承りました」
武器屋にファルクの双剣を預ければ、店主はそういって受けとった。
「明朝には終わらせておきますので、また、お寄り下さいませ」
「たのむ」
「んだよ、すぐ直らねえのかよ!じゃあやっぱ返してくれ。オレは続きがしてーんだ!」
「駄目だ。戦士にとって武器は己の一部。それを軽んじるような者と合わせる刀はない」
「……くそっ。わーったよ。……頼んだぜ。ちゃんと直さなかったらぶっ殺す!」
「は、はい。お任せ下さいませ!」
店主に双剣を任せ、2人は武器屋から離れる。
「しかし、コクローのおっさん。今日は刀の冴えがイマイチだったじゃねえか」
「そうなのか?」
「……おいおい、気づいてなかったのかよ?馬鹿強えのは相変わらずだけど、珍しく、気が入ってねえ、印象だったぜ。……んな状態のおっさんにさえオレはまだまだ及んでねえんだけどよ……」
「ふむ。そうか……。自分はお前との手合わせ、悪くなかったぞ。……ここ最近で一番、気持ちのいい戦いだった」
「あん?なんだよ、舐めやがって。こっちはおっさん喜ばせたくてやってるわけじゃねーぞ」
「そうか。だが、感謝する」
「知らねえっつーの。てか、次こそぶっ倒すからな」
「それは楽しみだ」
「うっし。じゃあな、おっさん!明日こそ完璧な状態で気持ち良く戦うとしよーぜ!」
そう言ってファルクは駆けて行った。
「ああ。そうだな。明日こそは。"自分の戦い"をさせてもらうとしよう」