エピソードまとめ
□バスチアン・フォルジュ
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ep.1 強者
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司令室に入れは、中に長い白髪の男──│宰相アウグストが待ち構えていた。
「失礼する」
「ああ、バスチアン。来てくれましたか」
「任務か、なんだ?」
「……話が早いのは助かりますが、さすがに端的が過ぎますね。ラプラス辺りと足して2で割ってもらえると、ちょうどいいのですが……」
「人を足して2で割る装置が開発されたのか?それは興味深いな。試せと言われれば謹んで……」
真顔でバスチアンがそう言えば、アウグストは困ったような顔をした。
「……私が悪かったです。ありませんよ、そんな装置」
「そうか。ただ、昨今の情勢を鑑みるに、そういった研究があっても不思議ではないと思うがな」
「……貴方は突然、ドキリとすることをいいますね。……まあ、いいです。本題に入りましょう。本日貴方には、単騎で、荒野地帯方面の敵拠点の調査、ないしは制圧……。つまりは威力偵察を頼みたいのですが行けますか?」
「問題ない。昨日と同じだ」
「毎度、無理をかけてすみませんね。なにやら不穏な陣を張られているようでして。下手な者を派遣しては悪戯に被害を出すだけかと……」
「……その通りだ。やはり、お前はいいな」
「……その脈絡なく褒めるのやめてくれませんか?」
「では早速任務に出る」
「……相変わらず、マイペースな人ですね。なんにせよ、くれぐれも頼みましたよ」
「御意」とバスチアンは頷くのであった。
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999Y.C. 森国シルヴェーア ディランブレ戦傷地帯
《ユール連邦軍 威力偵察任務》
「今回の戦場。一見、いつものと変わらぬようにも思えるが……問題があるとすれば、向こう岸に設置された拠点と弓兵部隊か。あそこに無策で進軍しては、悪戯に被害を出す結果になっていたろうな。アウグストの読み通りか。川向こうからの援護射撃が予想されるが…………なに、やれないことはないだろう」
そう言ってバスチアンはひとり荒野を進んだ。
向かってきた連邦兵を幾人か倒した先で小さな吊り橋を渡り、その先に進めば今度は大きな吊り橋を見つけた。
「……む。あの橋は使えないか……」
近づいてみれば橋はこちら側のロープが切り落とされ向こう岸にだけ繋がった状態で宙ぶらりんになっていた。
「この陣を崩すためにも、拠点側へ渡りたいものだが……」
他の道はないか、と探す中、バスチアンは近くにあった天然の岩柱に目をつけた。
「この柱………使えるかもしれないな。……切り倒してみるか」
はあっ、と気合いを入れ、バスチアンが岩柱にひと太刀入れれると、スパンと斜めに切れた柱が向こう岸へと倒れた。
「ふむ。こんなものか」
完成した岩の橋を渡っていれば、向こう岸から弓矢が飛んできた。
「案の定迎撃してきたか。大した脅威ではないがさすがに煩わしいな」
飛んできた矢を刀で容易にたたき落としながら、バスチアンは目の前の拠点へと奔走した。
〔連邦 第1拠点〕
「なっ!?橋を落としたのにどうやって?」
「ないものは作る、それだけだ」
「くそっ……。ただ、これだけの援護がある陣に単騎で突貫してくるとは、蓋を開けてみれば所詮は武力だけの馬鹿だ!聞いていた通り、これは行けるぞ!」
「聞いていた通りだと……?」
〔拠点兵長出陣〕
「皆の者、恐れるな!帝国最強と名高い黒狼将であろうと、今こそ討つ好機なのだ!将軍の言葉を信じて立ち向かえ!」
「……なんだ。このどこかで見た流れは。まさかとは思うが……。おい、貴様達を焚きつけた将の名を言ってみろ」
「そんなこと答える必要などない!」
「自分はここで無為に、時間を浪費するつもりはない。吐かぬのであれば……」
〔拠点制圧後〕
「馬鹿なこんなハズでは……デムラン将軍は好機だと………」
「この無為な浪費を重ねるやり口………やはりヤツだったか。デムラン……。いくらこのような陣を敷いたところで、自分相手にはほとんど意味をなさないということはヤツもとうに気付いているだろうに。……まあいい。自分が甘く見られているだけかも知れぬしな。ならば、今度こそ、速やかに排除することとしよう」
〔道中台詞〕
「……それにしても、ヤツはいったいなにがしたいのだろうか。昨日は自分の首を取って、栄誉と報酬を手にしたいと言っていたが、そんなもの戦場に求めるべきではなかろう。戦場における任務は、ただ自軍に利することを考えるそうあるべきではないのか……」
「……いや、どうなのだろうな。確かにどの兵も手柄、手柄と欲をかいていた。今回の任務だけでなくこれまでも。そんな兵は大勢見てきた。もしかしたらその方が、"人間らしい"のやも知れぬな。まあ、自分のような人間には関係のない話だ」
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〔連邦軍 第2拠点〕
「来たぞ、黒狼将だ!自分が罠にかけられているとも知らずに憐れなものだ!だが手は抜かない!ここで貴様を討ち故郷に錦を飾ってみせる!」
「……そうなるといいがな」
〔拠点兵長出陣〕
「怯むな!将軍の言葉が事実ならば、ヤツは昨日デムラン隊によって深手を負わされているはず!今こそ好機なのだ!」
「自分に深手か……。あの男の口八丁には一周回って感心させられるな」
〔拠点制圧後〕
「錦を飾って……母さんに楽な暮らしを……」
「……茶番だな。あまりに酷い茶番だ……」
〔道中台詞〕
「ただ……自分の欲のためではなく、家族のために戦う者もいる…か。家族……同じ家に住み生活をともにする者達……。帝都ハイガルデンを家とするならば、そこに住む民は家族同然……。アレクサンドラなら、そんなことを言いそうだが、自分にとっての家族……故郷……。……戦場には不要な思案か。今は、目の前のことのみに集中するとしよう」