エピソードまとめ

□アレクサンドラ・フォン・ゾンネ
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ep.1太陽
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石像の後ろに隠してあった細い通路を下って行ったら地下牢に続いていた。

「……妙ですね。この婉曲的なやり口……、どうも作為めいている気がしてなりません」

「考え過ぎだろ」

「そうよ。回りくどさを策にするなんて、いてもアウグストちゃんぐらいでしょ」

「私ならば……ですか……」

「興味深いですね」


〔道中会話 拷問室〕
「おや、随分楽しそうな部屋ですね」

「どういう趣味をしているんだまったく……」

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拷問室に居た兵士たちを殲滅した後、3人は奥に続く出入口へと足を進めた。

歩くアウグストの足元に緑色に光る紋章が浮かび上がった。

「アレクサンドラ!」

「っ!」

アウグストの叫びに反応し、アレクサンドラはすぐさま隣のラプラスの腕を引っ張り後ろに飛び退いた。

「えっ、ちょ……」

そしてアレクサンドラは、そのまま掴んでいたラプラスを放り投げた。
床に倒れたラプラスをそのままに、アレクサンドラは、障壁に囲まれたアウグストの元に駆け寄る。

「やられましたね……。規模は小さいですが、障壁創術です……。まあ、創術士もいないようですし、その内解けますよ」

「そうか……」

「行って下さい、アレクサンドラ」

え?とアレクサンドラはアウグストを見つめる。

「もちろん、術が解けるのを待ってくれても構わないですが、その場合、私はもうじき追いついてくるであろう、本隊と合流して……敵残存兵の徹底的な殲滅を開始しますよ?」

「なっ!アウグスト、お前は……!」

「私は常に、自信が最善と判断する行動を取るまでです。……貴女はどうなんですか、アレクサンドラ」

アウグストの言葉にアレクサンドラは拳を握った。

「……行くぞ、ラプラス」

「なんでアタシが白犬なんかと……」

「頼む……」

「……わかったわよ」

仕方がないとラプラスは立ち上がり、2人はアウグストを置いて奥の通路へと走って向かうのだった。


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「ラプラス……」

前に進みながら、アレクサンドラはラプラスを呼んだ。

「人としての正義と故国の安寧……、果たして重いのはどちらだろうか……?」

「そんなの知るわけないでしょ?」

「……そうだな。進むしかないな」

答えは得られず、それでもアレクサンドラは前に進んだ。

2人は奥の広間にでた。
広間は幾つもの大きな支柱が立っていて、その奥には他の塔に繋がった跳ね橋がかかっていた。


「お、おい!ヤツらが来てしまったぞ?」

支柱の後ろで煌びやかな制服を来て帽子を被った少年が隣の支柱に向かって囁いた。

「お前の策で足止めできるのではなかったのか?」

「そのハズだったのですが……困りましたね」

隣の支柱に隠れていたプラチナブロンドの同じく制服を着た青年がそう呟き、顎に左手を当て、右手で左肘を支える。

「どうしましょうか?マクシムさん?」

マクシムと呼ばれた少年は、えっ、と身を反らした。

「ぼ、僕に聞かれてもだなあ……」

腰に手を当て、マクシムは考える。

「お前達がこの砦の将か?」

アレクサンドラが大声で尋ねると、2人は支柱から身体を出した。

「え、いや、将というか、先んじて逃げ出した将の代わりを務めてるというか……」

「そうです。臨時なんですよね」

「ふむ……?事情は知らないが、既にこの砦は我々、帝国軍が制圧した。これ以上無駄な殺生をする気はない。命が惜しくば大人しく退け」

「そうしたいの山々なんだが……」

マクシムは肩を落とす。

「……おい、どうなんだ?」

青年の方へマクシムは顔を寄せ、尋ねた。

「そうですね……」

青年は顎を指で挟んで悩む素振りを見せた。

「……あと少し、時間が欲しいですね」

「そう来るだろうと思ったよ、まったく」

マクシムは肩を落とす。

「くそっ……行くぞ!」

「ええ!」

マクシムが背に背負っていた弓を構え、青年も長剣を抜いた。

退治するアレクサンドラは長剣を抜き、ラプラスは弓を構えた。

「あらあら、やる気満々みたいねえ。無駄に張り切っちゃってカワイイわあ」

「油断するな。彼らは恐らく……」

10代の学生のようだが、少年らの特徴は他の戦地でも話に上がっていた。

「わかってるわよ。こう見えて連邦の精鋭、"ブレイズ"ってのでしょ?」

ラプラスはマクシムの左のふくらはぎに付いた緑色の石─エンブリオを見て目を細めた。

「ああ、実力は本物だ。他の連邦兵とは一線を画している」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

「こ、この僕にかかれば、狼将如き敵ではないぞ!」

素直に礼を述べる青年と、震え声でそう言ったマクシムを見て、ラプラスは、あは、と笑った。

「見栄張っちゃって可愛いこと」

「ただ、歯ごたえのある相手は嬉しいぞ!」

そう言ってアレクサンドラは閃光のように飛び出した。



剣と剣がぶつかり、お互いの見方をサポートするように矢が飛び交う。

「マクシムさん、大丈夫ですか?」

「だ、誰に聞いているんだ?余裕に決まっているだろう!」

「あーあ……。さすがに鬱陶しいからそろそろ全力で……」

「ああ。狼将の本気を見せてやろう」

「……こ、これは少々マズいぞリュシアン!」

「……リュシアン?」

マクシムが叫んだ青年の名に、ラプラスは小首を傾げた。






アレクサンドラの剣撃を寸前で避け、リュシアンとマクシムは距離を取った。


「さて……そろそろ大丈夫でしょう。負傷兵の撤退作業は完了したはずです」

「……なに?お前達はその時間を稼ぐために……」

「そうだ!早々に逃げ出した将に代わり同胞達の命を救って……」

「そういうのはあとにして、私達も撤退しませんと!」

「そ、そうだな。命拾いしたなお前達!」

そう言ってマクシムは少し背を反らし見下ろしながら指を指した。

「は?ちょ、待ちなさ…」

「では、お二方。これにて失礼いたします」

リュシアンが懐から閃光弾を取り出して下に叩きつけた。
眩い光に、アレクサンドラは目を瞑り、ラプラスは腕を前にやり目を庇った。

「……逃げられたか」

「……なんだったのよ、あの二人。それにリュシアンとかいう子、どこかで……」

ラプラスは長い爪を生えた指を顎に添える。

「どうした?」

「……なんでもないわよ。それにしても、敵将はうち漏らすわ、負傷兵の撤退は許すわ、散々な成果だったわね」

「……ふ、そうだな」

アレクサンドラは口元を緩めた。

「なんで、そこで笑顔なのよ、白犬」

「さあ、どうしてだろうな」

「なにそれムカツク。あーあ、もう限界」

うーんと、ラプラスは伸びをした後、歩き出した。

「じゃ、アタシもそろそろ撤退するわねー」
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