エピソードまとめ
□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.1チェックメイト
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997Y.C. 森国シルヴェーア ヴェルヌ砦
アウグストは夜にはヴェルヌ砦へ戻り、クレー大佐の部屋に来ていた。
「……例の"仕込み"。つつがなく完了いたしました」
「そうか、これでようやく………、この森の獣どもを我が支配下に置けるのか」
「その通りでございます。クレー大佐」
「……ああ、実に感慨深いよ。またこいつを扱える日が来るとはな。もうすぐ、忌々しいヤツらを獣に……」
獣に食われるとは、なんと惨めな死に様だな
脳裏に焼け付いた記憶と今の情景が被って見えた。
「もうすぐだ。もうすぐ……」
クレーは後ろで恐ろしい顔をして口元を歪めたアウグストに気づいてはいなかった。
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【CHAPTER4 断末魔】
997Y.C. 森国シルヴェーア ヴェルヌ砦
「あれから一日経ちましたが、"仕込み"はうまく発動したようですね……。……"仕上げ"のため、クレー大佐の元へ参りますか……」
就寝用テントを出て、アウグストはクレーの部屋へ向かった。
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〔砦内会話 砦入口付近の帝国兵〕
「あ、宰相様!外の状況はご覧になりましたか?連邦軍が混乱している今が好機とばかりに、ほとんどの兵が戦地へ向かっていきました!勝利は目前ですね!」
〔砦内会話 3人の研修生〕
「うわーん、研修怖かったよおー」
「ちょい、軍人が泣くなよ」
「でも命があるって素晴らしいっしょ!こんなクソみたいな砦も天国に思えるっしょ!」
「うん。これも全部アメリーのおかげだよー」
「ちょい待てよ。もとを正せばあいつが迷子になって、それを俺達で探していたから、こうなったんだろ?だから"おかげ"じゃなくて"せい"な"せい"」
「どっちにしろあの森を生き残ったんだから、俺達、最強の同期っしょ!」
〔砦内会話 テント前で話し合う2人〕
「おい戦況はどうなってるんだ?」
「我々を苦しめていたシルヴェーア兵が、次々と獣にやられているそうです」
「なに?獣にだと?ヤツらも森のすべてを知っていたわけじゃなかったか」
〔砦内会話 食事処前一人でいる帝国兵〕
「くっくっくっ、やっぱり勝ちが決まっている 戦は楽しいな!これだから戦争はやめられないぜ!」
〔砦内会話 昨日心配事をしていた帝国兵〕
「……ああ助かった。森へ研修に向かわせた見習い兵達が、戻って来てくれるとは正直思っていなかったよ……。これで最悪な事態は免れたな。ホントどう責任を取らされるか 不安だったよ……」
〔砦内会話 アレクサンドラ〕
「アメリーのお仲間、見つかったようですね」
「ああ。彼女が言っていた小道の先に本当にいたんだよ。まったく凄い子だ。それで……お前の方はどうだったんだ?」
「ええ、概ね問題ありませんでしたよ」
「そうか。なら良かった」
〔砦内会話 アメリー〕※レシピ取得
「あ!アウグストさん!私の班皆さん無事でしたー!」
「おお、それは良かったですね」
「はい!本当に良かったです!これで研修の続きができますよ!」
「……いや、それはやめておいた方が……」
「大丈夫です!これを食べてから行けば、元気100倍なので!」
「アウグストさんも、ぜひ作ってみて下さいね!」
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「……ん、なんだ?」
進行する4人の連邦兵たちが、不穏な気配に足を止めた。
そこに獣たちが襲いかかった。
「な……!こんなことあるはずが……!」
森国の民である彼らが、獣の出る場所を理解してないことなんてないはずだった。本来出ないはずの箇所に現れたガルルに驚いた連邦兵達は、不意をつかれ獣たちの餌食となった。
「うわあああああ!」
悲鳴が上がるその様子を遠く離れた建物の上から見下ろすのは、クレー大佐。
「くく……可哀想になあ。可哀想になあ!かはははは!」
「上機嫌ですね、大佐」
そう言いながらアウグストはクレーの部屋に足を踏み入れた。
「おお、アウグストか。見ろ、この光景を。憎きシルヴェーア兵どもが獣に食われるさまは、実に愉快痛快だろう?がはははは!」
「そうですね………そんな大佐に朗報がございまして。実は敵軍の将を私の独断で秘密裏に……この森の奥地に拘束してこざいます」
「なんだと?それはつまり……」
「ええ。この素晴らしい光景を遠巻きにして眺めるのではなく、目前で……」
「くくっ、さすがは平民上がりの宰相様だ。人の悦ばせ方を、よく心得ているようだな」
「もったいないお言葉です、大佐」
そう答え、アウグストは口角を上げた。
「では、参りましょうか……」
アウグストはクレーを連れ出し、建物の外にでる。
「さて、森へ向かいましょうか、大佐」
「ああ……うずく……うずくなあ……」
2人は北の門へ向かった。
「おい、お前。私は少し宰相殿と出てくる」
「は?」
門番の男は口をぽかんと空けた。
「お言葉ですが、大佐。敵軍はほぼ制圧済みとはいえ、この状況下での行動は………」
「お前の目は節穴か?これ以上ヤツらが刃向かってくるわけがなかろう」
「ですが……」
「たとえ生き残りの一人や二人がいたとて、この百戦錬磨の宰相殿がおられるのだぞ。お前達に囲まれているより、よっぽど安全と思わんかね?」
「……確かにそれは。ただ、やはり………」
「ええい、口答えするな!行くぞアウグスト!」
「畏まりました」
「大佐!」
門番の制止も聞かず、2人はラドミア森林に足を踏み入れた。
997Y.C. 森国シルヴェーア ラドミア森林
「こちらです、大佐」
「こうして自ら戦地に赴くのも久し振りだな。とりわけ、圧倒的な勝利を目前にした戦場は実に心地が良い。はっはっはっ」
森を進めば、獣達に身体を貪られている連邦兵の死体がゴロゴロと転がっていた。
「獣に食われるとは、なんとも惨めな死にざまだな。人の死にざまはその者の生きざまに似ていると言うからな。さぞかしくだらない人生だったのだろうな!」
「………おっしゃる通りです。だから大佐のような方の最期は……」
「もちろん帝国どころか世界中を震撼させ、後世まで語り継がれるだろうな!はっはっはっ」
「……そうですね」
「それで?その拘束した敵将というのは、どこにいるんだ?」
「そう焦らないで下さい。煮るなり焼くなり……例の"玩具"で遊ぶなり、大佐の思うがままなのですから……」
「それもそうだな」
はっはっはっ、とクレーは高笑いを上げた。
「それにしても、人間というものは変わらないものだな」
「と言いますと?」
「たとえどんな地位に就こうと、持って生まれた申しさは消えることがないということだ。アウグスト、お前のようにな。はっはっはっ」
「………はい。私もそう思います………」
そう答えたアウグストの瞳の奥の炎に、クレーは気づいてはいなかった。
「大佐は……、"ナハトガル"という村を覚えていますか?」
「あ?どこだって?」
「林檎の産地であり……、……9年前、地図から消えた村です」
「9年前だと?ああ、あの猛獣兵器化実験で"事故"にあった村か。上からの指示とはいえ、田舎くんだりまで出向くのは正直面倒でしかなかったな」
「……そうですか。まあそのおかげであのような……、名もなき人群れが阿鼻叫喚する、極上の絶景が見られて儲けものだったがな!がっはっはっ!」
「……そう……ですか」
アウグストはクレーを昨日アメリーが見つけた抜け道の奥へと連れていった。その更に奥は2メートル程度の崖になっていて、下にはまだ広い森が続いている。
「森のかなり奥まで来たが、憐れな"魔物のエサ"は、いったいどこにいるんだ?」
「おかしなことを仰いますね、大佐。エサならもうすでに、到着しているじゃありませんか」
「どういうことだ?」
クレーはこの下にでもいるのか?と崖を見下ろした。
「……これから、先日、私が申し上げました通りのことが起こるだけですよ。そう……増長した愚か者が、阿鼻叫喚の地獄へと叩き落とされるのです」
そう低い声で言いながら、アウグストはクレーを崖の下に突き落とした。
なんとも情けなく、クレーは受け身を取ることも出来ずに、そのまま落ちた。そして太ったその身体を起こすのはなかなか用意では内容だった。
「き、貴様……!?」
地にうつ伏せのまま、クレーは上を振り返った。
だが、呑気にそちらを気にしている場合ではなかった。
ずしずし、と言う足音とエサを前に唸る獣声に、クレーは慌てて、その重い上半身を起こした。
「くっ……!」
急いで懐の獣操縦装置を手に取り、一生懸命トリガーを引く。カチカチ、カチカチと何度も握りしめるが、獣達は何事もないようにクレーへと1歩、また1歩と近づいていく。
「ああ。申し訳ありません。それは私がフリーゼ所長に頼んで、特別に作っておいてもらった、"ハリボテ"の操縦装置でした。本物はこちらです」
そう言ってアウグストは懐からクレーの手にしているものと全く同じ見た目の装置を取り出した。
「な……なぜだ、アウグスト」
「なぜ?……そうですね。端的に言うならば………貴方が貴方のままだったからですかね。今も、9年前も」
「…待て。ま、まさかお前、あの村の……!」
「気づいていただけたようでなによりです」
アウグストは悦んだように声をうわずらせた。
「あ、あれは事故だ!仕方なかったんだ!」
膝を付いたまま、ずりずりと崖方へとクレーは縋り付く。
「仕方ない?妻子を目の前で獣に食い散らかされた、あの絶望を……」
アウグストは装置を持った右手をギュウと握りしめた。
「"仕方ない"で済ませろと」
「…黙れ黙れ黙れっ。田舎の痴れ者があああ!」
そうクレーが叫んだ瞬間。彼の後ろにいたボアティロンがその右足に噛み付いた。
「あ、足がああああ!!」
ぐちぐち、ぶちゅぶちゅ、という音がクレーの悲鳴と共になり響く。
「さて、大佐。そろそろ私は失礼しますね。なにせこれから、貴方の部下に報告しないといけないのですよ………大佐が"野生の獣"に襲われました……とね」
アウグストは嘲笑うかのように目を細めた。
「ま、待て、アウグスト……」
「ただ、まあ、野生の獣がやることですからね。これは本当に事故………そう。"仕方のないこと"ですよね」
ほくそ笑み、アウグストは来た道を戻ろうとした。
「やめろ、やめてくれ………アウグスト……いえ、宰相様!」
「おっと、危ない。忘れるところでした。これだけは言わせてください」
そう言ってアウグストは振り返った。
「な、なんだ?なんでも言ってくれ」
「……大佐。獣に食べられるとは、なんとも惨めな死に様ですね」
「ぎ……アウグストォォォ!!」
アウグストが立ち去る後ろで、大型のボワティロンが、クレーに噛みつき、ゴキュ、という音を鳴らすのだった。