エピソードまとめ
□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.1チェックメイト
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森の奥へ進んで行くと崩れて大岩が道を塞いでいた。
「これは……」
「これ以上先には進めなさそうですね……」
「あれ?あそこ通れそうですよ!あの先におっきい獣さんがいそうです。なんとなく!」
「いや、大きな獣はあんな所を通らないだろう……」
「どうでしょうね。まあ他にアテがあるわけでもありません。行ってみましょう」
アメリーの見つけた細道へ進んでいく。
「大丈夫か、本当に……」
狭い道を不安げにアレクサンドラは進む。
「私昔から捜し物は得意なんです!なんでもすぐに見つけちゃうんですよ!」
「ああ、そうだろうな。どんな捜し物もそのずば抜けた幸運で………」
「ええ!この……ずば抜けた洞察力で、スパッと解決です!」
「え?」
「え?」
「あー。……う、うん。そうだな。キミは"洞察力"が素晴らしいのかもな………うん」
「ふふ、頼りにしてますよ。アメリー・ロランス」
「はい、お任せを!」
細道を抜けた先の森を進むと、ボワティロンの姿が見えた。
「あ、いました!おっきい獣さん。やっぱり私の思った通り!」
「その"幸運"、ここまでとは………」
「うわわ!襲って来ました!」
「でかしましたアメリー・ロランス!では……」
「殺さず生かさずちょうど良くだろ?」
「はい、お願いします」
ボワティロンを倒す。
「これで良し………。ご苦労さまでした、アメリー。貴女のおかげでスムーズに任務達成できましたよ」
「ふふーん、いえいえ、それほどでも!これもすべては、この私の優れた洞察力のなせる業ですね!」
「あ、ああ……洞察力だな……うん。では次へ行こうか」
「あ、実は、そこにある小道が気になっていまして。たぶんそっちに行けば班の仲間と合流できそうなんです」
「そうか、ならばここでお別れだな」
「アレクサンドラ。良かったらアメリーに付き添ってやってくれませんか?いかな幸運に愛された彼女と言えど、このまま放っておくのも気が引けますし」
「それは確かに、そうだが……」
「いずれ帝国の宝となり得る逸材かもしれませんしね」
「それを言ったら、すでに宝であるお前を誰が守るというのだ?」
「大丈夫です。私は有能ですから。まあ、貴女がどうしても、私の側を離れたくないと駄々をこねるのでしたら……」
「さっさと行け!」
「……ではアメリー、お別れですね」
「……しかし不思議だな。キミのその幸運……。いや、幸福を掴む能力があれば、軍人の道など選ばずとも楽に幸せになれそうなものだが」
「ふえ?なにを言ってるんですか、アレクサンドラさん?大事な家族や国を自分の手で守れること以上に、幸せなことなんてないと思いますけど?」
「それは……」
「だから今私、こうして帝国軍で働けてとっても充実しているんです!」
「……そうか。……これまでの非礼を詫びよう アメリー・ロランス二等兵。キミは心から尊敬に値する誇り高き軍人だ」
「え?あ、ありがとうございます!」
「…アメリー・ロランス、またお会いしましょう」
「はい!お気を付けて」
「さて投薬すべきはあと一体ですか……。そう簡単に見つかるとは思えませんが………」
アウグストはアメリーとアレクサンドラと別れ、一人で森の更に奥へと進んで行った。
「おや、あれは………こうも立て続けに見つかるとは。アメリーの幸運が私にもおすそ分けされましたかね」
アウグストが見つけたボワティロンの所へ寄ろうとした時だった。
「ぬおおおおっ!」
雄叫びと共に、上から黒い鎧の男が落ちてきた。……ボワティロンの脳天に剣を突き降ろして。
「……バスチアン」
マナに還るボワティロンを前にアウグストただただ、彼の名を呼ぶことしかできなかった。
「相変わらずデタラメな力ですね……。さすがは"軍"を超える"個人"」
「自分はなにかまずいことでもしたか?」
「いえ、そういうわけではないのですが………」
「そうか」
「……それで貴方がなぜここに?」
「いや、ラプラスから聞いたのだが、なにやら重大な作戦にあたっているとか。それもお前の人生にとって大切な……。そう聞いたら出向くしかないだろう?」
「……ええと、そうですか……。……まあこうして合流できたことですし、共に参りましょうか」
「了解だ」
「理由はどうあれ来てくれて助かりますよ」
「礼を言う必要などない、狼将として当然の行動だ」
「だとしてもです。各方面に引く手数多の貴方が、手伝ってくれることに感謝を述べたかったのです」
「そういうものか」
「そういうものです」
「ふむ…。……ではこちらからも、ありがとう」
「なんですか急に」
「自分もまた、いまのお前の言葉に対し、感謝を述べたまでだ」
「……はあ」
どこかズレているバスチアンを相手に調子が狂いながらも、アウグストは奥へ進んだ。
「一つお願いですが、次にボワティロンに遭遇したら手加減してもらえますか?貴方の力では相手を粉砕してしまうので………」
「む……それは、褒められているのか?咎められているのか?」
「………褒めてますよ」
「ありがとう」
「……そこそこ長い付き合いですが、いまだに貴方は読み切れませんね」
「なにかまずいことでもしたか?」
「ですからそういう……、……もういいです。疲れました」
「なに?それは自分のせいか?ならば余計捨て置くわけには……」
「ああ、もう……。頼りにしていますよ、バスチアン」
「ああ、任せておけ」
そう話しながら進んでいたら、ボワティロンが上から降ってきた。
先程までの個体より幾分か体が大きい。
「あいつが目標か?」
「そうですね。これまでと雰囲気の違う個体ではありますが………」
バスチアンが刀を振るえば弾かれた。
「む…こいつは……?」
「どうやら物理攻撃が効かないようですね……。ここは私にお任せ下さい」
アウグストが放った巨大な魔弾がバリア破壊する。
「バスチアン、今です!」
「わかっている。仮に殺してしまっても叩き起してくれよう」
「なるほど……そう来ますか……」
ボワティロンを倒す。
「これでどうだ?」
「充分です。では……最後の"仕込み"を……」
アウグストはボワティロンに投薬した。
「今日の任務はこれで完了です」
「本当か?まだ、肩慣らしにもなってないが」
「はは……さすがはバスチアンといったところですか。あとは薬剤が森の獣に広がるのを待つだけなので、砦へ戻りましょう」
「そうか。では自分は次の任務へ向かうとしよう」
「そうですか。本当に引く手数多ですね……。ではご武運を」
「ありがとう。お前もな」
「はい、ありがとうございます」