エピソードまとめ

□アウグスト・ヴァレンシュタイン
6ページ/17ページ

ep.1チェックメイト
─────────♢────────



「しかし珍しいな。お前が傭兵をスカウトするなんて、どこが気に入ったんだ?」

先を進みながらアレクサンドラがそう尋ねる。

「そうですね。あの向こう見ずさはさておき………。彼はあのボワティロンを豪快に吹き飛ばしましたからね」

「ああ。あれには驚いたな。凄まじい腕力だった」

「ですね。あんなアレクサンドラ級のパワーを持った少年を、誘わない手はありません」

「……いや待て、アウグスト。その言い方だとまるで、お前が元々私を大層な筋肉馬鹿だと評価していたように聞こえるのだが……」

「先を急ぎますよ、アレクサンドラ」

「おい」


アレクサンドラがツッコミを入れ、それから逃げるようにアウグストは森の奥へと前進していく。

木々が多く森が深くなったところで、人の気配を感じたアレクサンドラが、アウグストを守るように前に出て剣を構えた。

「わわっ!」

白い軍服を来た少女がつまづいたような様子で右の茂みから飛び出してきた。

「こんなところに人がいるなんて!」

槍を持った少女は、ぽよん、とその大きな胸を揺らすように小さく跳び、喜びを体で表した。

「しかも、なんだか凄く強そうです!うんうん、やっぱり持ってるなー私。なんとなく、こっちに逃げるべきとは思ったんですよねー。うん、完璧!狙い通り!」

少女は一人でなにやら盛り上がっていた。

「先ほどから貴女は何を仰って……」

「と、いうわけでえ………」

アウグスト達の方を見ていた少女はくるんと後ろを向いた。

「…お手伝いよろしくお願いいします!」

彼女がそう叫ぶと、ラドミード、ウリドン、オタオタ、ゴウリドン……沢山の獣達が、一斉に押し寄せてきた。

「はあ!?」

「いやあ、凄く助かりますよお二人とも!」

仕方なく共闘を強いられた彼らに、少女はそう言った。

「いいや、それはいいのだが、これはどういう……」

「あ、申し遅れました!私は帝国軍所属のアメリー・ロランス二等兵と申します!」

「なに?キミは我が軍の兵なのか?」

「はい!まだ研修中ですけど!あ、我が軍ということは、お二人も帝国軍の方ですか?」

「そのようなものです」

「なるほどー。じゃあ強さは折り紙付きですね!ジャンジャカ倒しちゃって下さい!」


獣討伐後。
「ところでなぜこんな所にお一人で?」

「実はこの近くで研修をしていたら、班の皆さんとはぐれまして!まったく困ったさんですよ。いい大人が揃って迷子になるだなんて」

「……自分側が迷子という認識ではないのか?」

……はあ、とアレクサンドラはため息を吐いた。

「では、私達と共に行くか?」

「それはお二人の任務をお手伝いしろと?」

「いや、単純に保護してやろうと……」

「それならこのアメリー・ロランスにお任せを!」

アメリーはアレクサンドラの話しを聞かず胸を張る。

「なにせ、私の任務達成率は、100パーセントを超えますからね!」

「いやだから……」

「いいじゃないですか。手伝ってもらいましょう。……私の見立てでは少々、面白いことになりそうです」

こそこそとアウグストがアレクサンドラに耳打ちする。

「お話、終わりましたか?では張り切って行きましょう!」

先行して行こうとするアメリーに、2人もついて行く。

「それで?これからなにを?」

「そういうことは普通、付いてくる前に聞くものだろう………」

「まあまあ。簡単に言えば森に巣食う巨大な獣、ボワティロンを探していまして」

「なるほどなるほど。そこで私の出番というわけですね!」

「なぜこんなに自信満々なのだ、この迷子は……」

「ですから私は迷子じゃないんです!私以外のみんなが2日間迷子なだけですから!」

アメリーの言葉に、アレクサンドラは足を止めた。

「……おい。今、なんと言った?」

「私は迷子じゃない?」

「そうではなくて……2日間……?まさかその間ずっと森をさまよっていたのか?」

「はい、そうですよ。あ、でも、その言い方には語弊がありますね。正しくは捜索活動をしていたんですけどね!」

「連邦兵や獣のたむろする、この森を2日間 単独で消耗もなく……だと?そんな馬鹿なことが……」

「なんの話ですか?獣に遭遇したのは先ほどの一度だけですし、あとは食料も休める場所もいっぱいあって過ごしやすかったですよ?」

「……アウグスト。この子はいったいなにを……?」

「ここでの2日間を快適に過ごした。それが彼女にとっての事実なんでしょう」

「サバイバル技術に長けているようには見えないが……」

「ええ、それでも彼女は生き残った。この地獄のような森で、偶然獣や連邦兵には遭遇せず、偶然、食料や休息場所は発見し続けた」

「どういう確率の話なんだそれは……」

「ふふ、面白くなってきたでしょう?」

「……まさかお前は、彼女の"これ"を……」

「ん?」

アレクサンドラがじっーと見つめると、きょとん、とアメリーは首を傾げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ