エピソードまとめ
□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.1チェックメイト
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【CHAPTER3 コントロール】
997Y.C. 森国シルヴェーア ラドミア森林
アウグストは杖を、アレクサンドラは長剣を構え、強い獣がでると噂の森の中を進んでいく。
〔道中会話〕
「……相変わらずだったなクレー大佐は」
「それはそうでしょう。人はそう簡単には変わりませんよ」
「そうだな。……ところで、私達は、"仕込み"とやらを行うようだが、具体的にはなにをするんだ?もし知識や技術を要する作業ならば、悪いが力になれないぞ?」
「ご心配には及びませんよ。作業自体は極めて単純です」
「そうなのか?」
「ええ。なにせ、この森に巣食う強力な獣三体程度に接近し、例の機密兵器を使用するのに必要な薬品を各個体に投与をするだけですから」
「獣に投薬を?」
「はい。単純な作業ですよね?」
「ああ、それは単純だな。……単純に最悪だな」
「と、言いますと?」
「とぼけるな。それはつまり強力な獣と戦いながらも、その上で殺すことなく投薬する際を上手く作れ……、という無理難題だろう?」
「……頼りにしてますよ、アレクサンドラ」
「お前というヤツは……。……はあ。この感じ、軍部時代を思い出すよ」
「ふふ、確かに」
「笑いごとではないぞ、まったく」
「いつも苦労をかけますね」
「……まあいいさ。おかげで私もここまで来られたのだからな。そして、ここまで来たからには、もう、どこまででも付き合うさ」
「頼もしい限りです」
「それにしても、護衛もなしにこのような危地を訪れるとは……。"宰相"だという自覚を持てないのか?」
「妙なことを言いますね、アレクサンドラ。護衛という話をするならば、貴女のほど安全な場所もそうないでしょう?」
「そういうことではなくてな……。………ああ、もういい。お前のことだから、理由もなしに出張って来ているわけでもないのだろう?」
「よくわかってらっしゃる。これだから私は
、アレクサンドラが好きなんですよ」
「……ふん、言ってろ」
そうこう話している道中の門の先に、巨大な鰐の様な濃い緑色の獣を見つけた。
「あの獣は……?」
「ボワティロンですね。非常に凶暴な獣です。ちょうどいい。あれに投棄するとしましょうか」
そう言ってアウグストが門を開けた。
「ではアレクサンドラ殺さず生かさず、ちょうど良くでお願いしますよ」
「……了解した」
アウグストは魔弾を射出し、長剣を片手に突っ込んでいくアレクサンドラの後方支援にまわった。
適度に獣を弱らせたあと、アウグストはその体に薬を打った。
「よし、これで大丈夫なはずです」
「あと二体のボワティロンに同じことをするんだな?」
「では、次へ参りましょう」
アレクサンドラの言葉に頷いた後、アウグストはそう言って歩き出した。
「それにしても、無理難題でも確実に、こなす辺りはさすがですね。白狼将のアレクサンドラさん」
「やめてくれ。どんな二つ名があろうと結局ただの軍人さ。だが、お前は今やこの国の……」
「関係ありませんよ。確かに"軍人"でこそなくなりましたが、帝国の繁栄を願う、その想いに変わりはありませんから」
「帝国の繁栄を願う……か。結構なことだな。……で、その心は?」
「今後も隙を見ては、貴女達とともに任務に出る気満々です」
「お前なあ……」
「実際、私は文官としては元より、武官としても有能ですからねえ」
「自分で言い切るか」
「客観的事実ですよ。とにかく、そんな人材を無為に机に縛り付けておくなど……それこそ我が国にとって大きな損失ですよね?」
「それらしいことを言っているが、要は内勤のみでは物足りないだけじゃないか」
「さすがお見通しですね。これだから、私はアレクサン…」
「……ほら行くぞ」
「この先の地帯は……ヴェルヌ砦の兵と連邦軍が交戦する、主戦場になっているはずですね」
「獣をに加え、連邦兵か……。想像以上に厄介な場所だな」
「まったくですね。乱戦状態になると自軍の刃が味方に……ということも考えられます」
「……そうだな。互いに気を付けよう」
そう言っていた矢先、緑色の軍服を来た集団に出くわした。
「やっぱり出ましたね、連邦兵」
「そうだな。悪いがここは我々の正義をさせてもらう!」
そう言って2人は連邦兵達と対峙した。
「おらあ!」
そんな声と共に目の前の連邦兵達がぶっ飛ばされた。
「え?」
「どうしたどうした、一晩程度でもうお疲れか!?」
威勢のいいそんな声と共に森の奥から双剣を持った、金髪で頭の上の方は黒い髪が見える10代の少年が現れた。
「……あれは?帝国兵ではないようだが……」
「おそらく、大佐が言っていた傭兵団の者かと」
2人は唖然とその少年を見つめる。
「はあ……はあ……。……オレはこんなところでくたばってるヒマはねえんだよ。そうだよなあ、ジョイス!」
そう大声で言って少年は空を見上げた。
そして、その大声につられて獣が雄叫びをあげて飛び出してきた。
少年はすぐに気づいて飛んで避けた。
「……ボワティロンか!」
アレクサンドラの言う通り、現れた獣は探し求めていたボアティロン。
「仕方ありません……。彼を援護しましょう」
「アウグスト、お前……」
「彼の相手取っているボワティロンを、万が一にも殺されてしまわれて困ります」
「……お前はそういうヤツだってな。……まあいい、いくぞ!」
2人はもう一度武器を構え直し少年の援護を始めた。
「なっ!?アンタらどこから……?」
「加勢しますよ、少年」
「はあ?おいオッサン、余計なことしてんじゃ……!」
「無駄口を叩くな二人とも!」
「ほらほら少年、お静かに」
「いや、今二人ともって………」
「殺さず生かさずちょうど良くですよ!」
「わかってる!」
「いったいなんだってんだ……!」
少年は困惑した様子だったが、そのまま暴れ回るボワティロンを相手にそんな暇さえなくなった。
どうにか殺さずに、ボワティロンが力尽き倒れた。これで投薬が出来る。そう思った中、双剣を背にしまった少年がボワティロンに近づいていく。
「っしゃあ、トドメだ!」
そう言って彼はボワティロンを太く長いしっぽを掴んだ。
「駄目だ、待て!」
慌ててアレクサンドラが叫ぶが、彼には聞こえなかったようだ。
「おらおらおらおらあ!」
しっぽを掴んで腕力だけで体調2メートル近くあるボワティロンを持ち上げ、彼はそれをグルグルとジャイアントスイングのようにして、その後思いっきり地面に叩きつけた。
脳天を地面に叩きつけられたボワティロンはそのまま死亡し、少年は誇らしげに腰に手を置き仁王立ちした。
「……作戦が台無しですね。まったく……」
仕方がないと、2人はため息を吐いた。
そんな2人に、で?と言うように少年はが睨みつけてきた。
「テメエら、なにもんだよ?」
「我々は帝国の……」
「んだよ、クソ帝国軍かよ」
「そういうキミは、森に配されたという傭兵団の一員かな、少年」
「うっせ、少年じゃねえ。オレの名はファルク。お察しの通り傭兵だ。所属してたところは昨晩壊滅したけどな」
「………壊滅か当然だろうな……」
「ふむ。でしたらちょうどいい。次は我が帝国軍に来ませんか、ファルクくん」
「はあ!?なに言ってんだオッサン」
「所属先がなくなったのでしょう?でしたら我が軍のこと、次の勤め先としてご一考を」
「な、なんなんだよ、調子狂うな。ったくよ……」
「すまない。彼はこういうヤツでな」
「では、いい返事をお待ちしていますよ」
アウグストがあまりにも軽い口調で言うものだから、ファルクは余計にわけわかんねえと頭を搔いた。
「さて、どうしますか?早速我々と行動を共にしますか?」
「ああん?いや………オレは帰って休むさ。さすがに疲れた」
「なるほど。そうして頭が冷えましたら、是非我が帝国軍入りのご検討を」
「っせえな、あわーったよ、わーったから!きめえな、ったく………」
「一人で戻れるのか?」
「ナメんなよ。元から一人で帰るだけなら どうということもねえさ。ただ一応……、義理を果たす程度には戦っておきたくて……な。じゃーな、変なオッサン達」
これ以上、軍に入れだのと何か言われる前に帰ろうと、ファルクは別れを告げ早々に立ち去って行った。