エピソードまとめ

□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.1チェックメイト
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997Y.C. 森国シルヴェーア ヴェルヌ砦

「さて……、まずはクレー大佐の元へ向かいましょう」

「どうせ、わっかりやすいトコにいるわよねえ」

「そうだな」

そう言って三人は砦の中を歩き出した。

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〔砦内会話 入口の帝国兵〕
「なんだ貴様ら?ここをどこだと……アウ、アウ……宰相様!?ヴェルヌ砦へようこそ!」

〔砦内会話 塀のそばで座り込む帝国兵〕
「今日も戦場……明日も戦場の繰り返し……。…
まあ明日が来ればの話だけどな……」

〔砦内会話 北門の門番〕
「この先の門を抜けると、連邦兵や獣がうごめく森へ出ます。大変危険ですので外出はお控え下さい」

〔砦内会話 停められた騎獣を見つめる帝国兵〕
「……騎獣パタラか。お偉いさん専用らしいが、一度乗ってみたいな……。あれならこの砦から逃げられそうだし………」


〔砦内会話 草の上に寝転ぶ帝国兵〕
「もうダメだ……。前線で武功をあげれば、いい生活を送れると思ったけど……。はあ……家族に会いたい……」


〔砦内会話 2人で愚痴る帝国兵〕
「連邦のヤツら……汚い手ばかり使いやがって……特に連邦軍の砦に近い主戦場は……、そりゃもうひどい戦況だぜ……」

「それもこれも大佐の指揮が……、……いやこれ以上言うと首が飛ぶな……本当に」


〔砦内会話 テント前で2人で話す帝国兵〕
「おい聞いたか?」

「……ああ。また出たんだろ?脱走者……。でも、脱走なんてしたところで……」

「……そうだよな。行くも地獄残るも地獄……か」

「どうなるんだろうな、俺達は……」

〔砦内会話 食事処向かいの帝国兵〕
「宰相様!よくおいで下さいました!みすぼらしく居心地も良くないですが……。あ、でもクレー大佐のお部屋でしたら、豪華で素敵なので多少過ごしやすいかと!」

「豪華で素敵ですか……。相変わらずのようですね。クレー中佐……いや、今は大佐ですか。まあ、あえてそうすることで、部下の士気を上げている……わけではありませんよね」


〔砦内会話 心配する帝国兵〕
「……はあ、大丈夫だろうか。森へ研修に向かわせた見習い兵達が、もう2日も帰ってこない……。……これは最悪な事態を想定しておいた方がいいな」


〔砦内会話 クレーの部屋前の帝国兵〕
「ア、アウグスト様!?自分のような一介の兵に話しかけて下さるなんて……故郷の母さんに自慢しよ……」


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「では、ここからは私一人で」

砦の奥の、1番大きな建物の前でアウグストは足を止めそう言った。

「……わかった。武運を祈る」

「大げさですね」

「男二人でなにしようっていうのかしら?」

「ただ話をするだけですよ。ではまた後ほど」

2人に別れを告げて、アウグストは建物の扉を開いた。

その、脳裏に浮かび上がったのは、燃え盛る炎を見下ろすまるまると太った男と、

「獣に食われるとは、なんとも惨めな死に様だな」

あの言葉だった。


コンコンと2回ノックして建物内の部屋のドアを開ける。
つかつかとアウグストが中に入ると、窓の外を眺めていた、まるまると太った男が振り返ってその下卑た顔を見せた。

「お待ちしておりましたよ、宰相殿」

「…私のことは軍部時代のように、"お前"呼びで構いませんよ、大佐」

「そうですか?それはありがたい。いや、今や立派な宰相様といえども、どうにも平民あがりの元部下相手に畏まるのは気が進まなくて困っていたところでな!」

わっはっはっは、とクレーは汚い笑い声を上げる。

「して、今日は何用だ?"宰相様"」

「……はい。なにやら、森の獣に手を焼いておられるとか?」

「…ふん。忌々しいヤツらよ」

「そんな大佐の悩みを解決すべく参りました。どうぞ、これを……」

そう言って、アウグストはコンチネント宮で貰ってきた装置のひとつをデスクの上に置いた。

「こ、これは……、まさか9年前の……!」

「はい。お察しの通り、大佐が過去"とある作戦"で用いた"あの兵器"の改良型です」

「素晴らしい……」

クレーは装置を手に取り掲げた。

「この装置さえあれば……また、あの時のように……!」

「ええ…。増長した愚か者を、阿鼻叫喚の地獄へと、叩き落とすことができるでしょう」

そう言ったアウグストの瞳に映るのは、目の前にいる"増長した愚か者"だった。


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話を終えたアウグストが建物を出れば、近くにはラプラスしかいなかった。

「あら、案外早いお帰りね」

「はい。これでお膳立ては済みました。これから更なる仕込みのため、森へ向かいます」

「そ。じゃ、張り切って行ってらっしゃい。アタシはそういう泥臭い仕事はパスだから」

「そうですか」

「なになに?もしかして寂しいの?」

おや? アレクサンドラは?

「なによもう……あの子なら、少し心を整えて来る、とか言って食事処の方へ向かったわよ。不慣れなパタラ騎乗が相当こたえたようね」

「……なるほど」

「じゃ、お仕事頑張ってねえ」


ラプラスをその場に置いて、アウグストはまず、アレクサンドラを探すとにした。
ラプラスの言う通り、彼女は食事処に居た。

「はむはむはむ。んぐんぐんぐ」

大量の食事を食す彼女の背にアウグストが近づくと、アレクサンドラは、

「はむ……」

と頬いっぱいに食べ物を詰めた状態で振り返った。そして、時が止まったように固まった…………。
アウグストも黙ったまま見つめ静寂が一瞬の過ぎたあと、アレクサンドラは残っていた料理を一気に飲み干し、席を立った。

「見苦しいところを見せたな……」

「構いませんよ。むしろ、いとおしさを……」

「それで?次はどこへ向かうのだ?」

「……森へ参りましょうか」


2人は砦の北にある門へ向かった。そこには何故か、先程見たまるまると太った男が立っていた。

「大佐……。どうかなさいましたか?」

「いや、"宰相様"の見送りくらいはしてやろうとな」

「ありがとうございます。これから森の獣に "仕込み"をして参ります」

「そうか……。しかし、お前達だけで務まるのか?ここから先は強力な獣が生息する地域だぞ?」

「確かにな……」

「先日も馬鹿な傭兵団が、格安の賃金で獣討伐に向かってな。いまだ帰還していないから 壊滅したかもしれないが、もし生きながらえているヤツがいたら使っていいぞ。死に損ないでも獣のエサ代わりにはなるだろ」

はっはっは!とクレーは高笑いをあげた。

「貴方という人は……!」

ギリっ、とアレクサンドラが彼を睨む。

「それにしてもお前が宰相とはな」

「今の私があるのも、軍部時代に大佐に目をかけていただいたからですよ」

「おお、そうだな。お前には、華のある任務を回してやったものなあ」

「……ふん。有望な平民いびりで、危険な任務を押し付けていただけだろ」

アレクサンドラが小声でそう悪態を着く中、そろそろ行きますね、とアウグストは彼女を連れ門を開けた。
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