エピソードまとめ

□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.2 絶望の種
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「次はケーキを受け取りに……」

「お菓子屋さんならうちの隣りです!」

「随分と意欲的ですね……」

リュシアンに引っ張られるように、隣のお菓子屋へ向かう。

「あの…、ケーキを受け取りに来たのですが……」

「おお、アウグストさん。ちょうど今準備できたところだよ」

中を覗けば、お菓子屋のおじさんがひょっこりと顔を出した。

「そうでしたか」

「ナッツがぎっしり詰まったチョコレートケーキは、甘さ控えめで子どもから大人まで楽しめる味さ。六歳になったルチナちゃんには、ちょうどいいだろ」

そう言いながら、おじさんが箱に詰めたケーキを渡してきた。

「ありがとうございます。娘も喜ぶと思います」

そう言って、代金を支払い、受け取ったケーキを持って外に出る。

「用も済みましたし、家に戻りましょう」

村の広場に戻った後そこから左側の門を開けて家に向かった。

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「では改めまして……ルチナ、お誕生日おめでとう!」

沢山の料理が食卓を囲む中、立ち上がってベルティーナがそう告げる。

「おめでとう」

「おめでとうございます」

続いてアウグストとリュシアンも祝いの言葉を告げた。

「ありがとう!」

「……これ、僕からのプレゼントです」

そう言ってリュシアンが後ろ手に隠していた白い小箱をルチナへ差し出した。

「わあい!なんだろう?」

喜んでルチナは箱を受け取る。

「……指輪だったりして」

「げほっ、げほっ」

ベルティーナの言葉にアウグストは噎せ返る。

「わあ!ありがとうリュシアンくん!」

「……ルチナさんには、いつも元気づけられてますから」

「はい満点。婿入り決定」

そう言ってベルティーナが手を挙げる。

「え?」

「気にしないで下さい、妻の戯れ言です」

そう言ってアウグストは目を逸らす。

「はあ…」

「ねえパパ!このケーキもおいしいよ!」

お菓子屋で買ってきたナハトガルナッツケーキを食べながらルチナはアウグストに笑顔を向けた。

「あ、ルチナさん、頬にチョコが……」

「ふあ……」

リュシアンがルチナの頬についたチョコを指で掬った。

「はい満点。子孫繁栄決定」

ベルティーナが大喜びする隣で、アウグストはあんぐりと口を開けていた。

「……リュシアンくん。戦闘訓練といきましょう」

いつもより冷たい声で、アウグストがそう言う。

「今からですか!?なぜです!?」

「それなら私も参戦していいかしら?リュシアンくん側で」

「あははは!」

好戦的なベルティーナを見てルチナは手を叩いて笑い、リュシアンは驚いている。

「今日こそ、あなたを跪かせてあげるわ!」

「……ふふふっ」

「口が減りませんねえ」

「お二人とも!やめて下さい!」

「このっ!やったわね!」

闘いを始める2人をリュシアンはアワアワと見守り、そんな様子を楽しんでいたルチナはそっと席を立ち、床に置かれたリュシアンのカバンをそっと開けた。

「くっ……腕を上げたようですね……」

「ああっ………!もうダメですってば!」

両親が戦いリュシアンが止める合間、ルチナはこっそりとリュシアンのカバンに林檎とその種の絵の描かれた麻袋をそっと忍ばせた。

「……これでよしっと」

そう呟いて、ルチナは満足そうに笑うのだった。





「お、お邪魔しました………」

ヴァレンシュタイン家の玄関に立ったリュシアンがそう言うと、ベルティーナは恥ずかしそうに頬に手を当てた。

「ごめんなさいね。激しい夕食になってしまって……」

「……心なしかリュックが鉛のように重く感じます……」

「ほ、本当に申し訳ない」

アウグストもそう頭を下げる。

「いえ、冗談ですよ。凄く楽しかったです。……なによりルチナさんが楽しそうでした」

「本人はしゃぎ疲れて寝てしまったけどね」

「無理もないですよ、僕もクタクタです」

「送りますよ。どうやら雲行きも怪しくなっているようなので」

窓の外を見れば、風か強くなってきたのがみえた。

「すぐそこなので大丈夫です。では先生、ベルティーナさん、おやすみなさい」

「ええ。おやすみ」

「おやすみなさい」

リュシアンが帰っていくのを見送って、扉を閉める。

「大変な誕生日だったわね」

「主に貴女のせいでしょう」

「そうだったかしら、でも嫌いじゃないでしょう?」

「嫌いですよ。穏やかなのが一番です」

「あなたは嘘をつくのが下手ねえ」

そう言ってベルティーナは笑ってる。

「そうでしょうか?」

「まあいいわ。片付けは私がしておくから、あなたはルチナを寝室に」

「了解です。さて……うちの眠り姫は……」

アウグストは部屋に戻り暖炉の傍に寝かせたルチナの元へ向かう。

「やーパパ、まだ、こっちこないで一」

「な、なかなかに傷付く夢を見てますね」

「まーだ、まだだよう……、むにゃ」

「こんな所で寝ていると風邪を引きますよ。寝室へ行きましょうか」

アウグストは眠っているルチナを横抱きにして抱え上げた。

「……おっと、六歳ともなると………。これが成長の重みですか………」

嬉しい重みに笑みを浮かべながら、リビングの奥にある寝室へルチナを運んでいく。

「おやすみなさい、ルチナ……」

そっと、ルチナをベッドに寝かし、寝室の扉をそっと閉める。

「ふう……ベルティーナの元へ戻りますか」

キッキンで洗い物をしているベルティーナの元へ向かう。

「お疲れさま。明日は朝から街で林檎の売り込みでしょ?私達も早く休みま……」

先程天気が崩れそうだとは思っていたが、嵐の風が吹き出し、ガタガタと戸が音を鳴らした。

「……祖父の代から使っている、この家もガタがきましたね。苦労をかけてすみません。貴女の才覚があれば帝都でもっといい暮らしを……」

「なによそれ。私は国よりも尽くすに値する男に出逢ったのよ。あなたとルチナがいる以上の、いい暮らしなんてないわ」

「しかし……」

「アウグスト……。あなたは誰より優秀な人よ。なにせ……この私に勝った男ですもの」

「…ふふっ。それは確かになにより名誉なことですね」

「そうよ。だから明日の売り込みだって必ず……」

「……ベルティーナ」

2人の雰囲気をぶち壊すようにガタガタとまた戸が揺れた。更に風が強くなっているようだ。

「売り込む前にまずは林檎を守らないと。ちょっと様子を見てきますので貴女はルチナの側に」

「ええ……。わかったわ、気を付けてね」

そう言って頷いだベルティーナに家のことは任せ、アウグストは外に出て林檎園の方へ向かった。
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