エピソードまとめ

□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.2 絶望の種
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赤い屋根の自宅へたどり着くと、ルチナが駆け寄ってきた。

「パパあったよー!せーかいだったー!」

「でしょうね」

「す、少しヒントが簡単でしたね」

後ろから着いてきたベルティーナがそう言った。

「そうですね。ただ、こんな妙ないたずらをしているとルチナが真似しますよ?」

「いいじゃない。あなただって楽しいでしょ?」

「……いいえ、まったく」

そう答えれば、ベルティーナは笑った。

「ふふ……。相変わらず嘘が下手ね」

「……やれやれ。私の嘘を見抜けるのは、貴女とルチナぐらいですよ」

「ねえ、プレゼントのヒントはー?」

いちゃついてある2人に痺れを切らしたルチナカがそう声を上げると、ベルティーナはハッとした。

「そうでした!二つ目のヒントは"雨宿りの木"です!これは少し難し……」

「いちばんおおきな木だよね!」

「なっ……!」

「また正解でしたか……」

「いってみるー!」

そう言ってルチナは元気に駆けて行くのだった。

「貴女は昔から婉曲な表現が苦手ですよね」

「う……」

ベルティーナは言い返せず言葉を詰ませる。

「私への好意をしたためた手紙も果たし状にしか見えませんでした」

「つ、次こそは、ルチナがわからないヒントを出してみせるわ!」

「"ヒント"の定義とは」

「ほら早く行って!あなたも!」

「はいはい……」

急かすように背中を押されて、ルチナの後を追う。

「雨宿りができるほどの大きさの木なんて、そうそうありませんからね」

そう言って、庭から続く林檎園に入りその奥へと進んでいけば、林檎の樹ではない、大きな針葉樹の前にルチナが立っていた。

「あったよー!」

「良かったですね。……それで最後のヒントですが……」

またも後ろをついてきたベルティーナをルチナと共に見つめる。

「わくわく」

「よし、じゃあこれでどう?"吊り橋と乙女心"」

「へ?つりばしなんて近くにないよ?」

「ふふ、存分に悩むといいわ、我が娘よ」

「いえ、これは悩む以前の問題なのでは?」

「え?」

ベルティーナはどういう事と首を傾げる。

「おとめこころわかんない……」

しゅんとしたルチナを見てベルティーナはやっと気がつく。本日六歳になったばかりの娘には、乙女心がどんなものか分からないと。

「……では、旅の仲間を授けましょう」

苦肉の策でベルティーナはそう伝える。

「やった!どんななかま?」

期待に顔を輝かすルチナにベルティーナは胸を張って答える。

「賢者アウグストです」

「なんかすごいのきた!」

「私もびっくりです」

急に上がった自分の名に、男は目を丸くした。

「賢者ルチナを導きなさい」

「私に謎を解けと?ルチナはそれでいいのですか?」

「ぜんぜんいい!なかまのこーせきは、ルチナのこーせきだから!」

そう言って胸を張るルチナを見て、アウグストは苦笑いを漏らした。

「あはは……嫌になるぐらい私達の娘ですね……。ですが、そういうことなら承知しました。では、行きますか、偉大なる勇者様」

「うん!賢者さん!」

賢者アウグストは勇者ルチナの小さな手を取り2人は歩いて林檎園を引き返す。


「吊り橋と乙女心で表現したいのは、"揺れる"かと」

「ゆれる……」

賢者として知恵を貸すと、ルチナは少し悩み始めた。

「あ、ブランコ!」

「そういうことです」

そう言って2人は、庭と林檎園の間に設置した、ブランコの元へ向かった。

「うーんと……」

ルチナはブランコとブランコが吊るしてある木の周りをぐるりと回ってプレゼントを探す。

「あ、あったよ!やった!」

「おめでとう、ルチナ」

またも後ろから着いてきていたベルティーナがルチナに祝いの言葉を掛ける。

「ありがとう!すごく楽しかったよ!今日のこと忘れないね!」

「私達もよ。ね、あなた」

「もちろんです」

「えへへ」

ベルティーナの言葉にアウグストが頷けば、ルチナ嬉しそうに笑った。

「っといけない。あなた、そろそろ塾の時間よ。広場で生徒達が待ってるんじゃない?」

ベルティーナの言葉でアウグストもハッとする。

「そうでした。ルチナ、すみませんが……」

「うん!いいよ、パパ。わたしのみらいのだんなさま、リュシアンくんによろしく!」

ルチナはニカッといい笑顔でそう言う。

「え、ええ、伝えておきます」

「あら、どうしたのかしら。珍しく頬が引きつってるけど?」

ニヤニヤと面白がってベルティーナがそう言ってくる。

「そ、そんなことありませんよ。行ってきます」

「いってらっしゃーい!」

「ふふ……いってらっしゃい。帰りにケーキ 忘れないでね」

「了解です。さあ、生徒達のいる村の広場へ急がなければ……」


そう言ってアウグストは家の右側の門を開け、村へ向かっていった。


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〔村内会話 男性〕
「ああ……アウグストさんか。まだ林檎の栽培に取り憑かれてるのかい?」

「ははは……手厳しい物言いですね………。まあ
、なんとかやっていますよ」

「そうかい。ま、好きにすりゃいいけど、なにかに取り憑かれて、自分や周りを見失うことだけはないようにな」

「……心得ておきます」


〔村内会話 女の子〕
「先生!こんにちは……でございますわ!」

「……え、ええ。こんにちは」

「えーと……本日は、おひがらもよく……ですわね!」

「……その話し方いったいどうしたのですか?」

「だってママが……うちの母がね、先生を見習ってきちんとした話し方をしなさいって!」

「ふふっ、そうでしたか。では今度、言葉遣いの授業をしましょうか?」

「ホント!?ありがとう……でございますわ!」
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