エピソードまとめ
□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.1キミに花があるように
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「あ、でも段々痛みが和らいできたぞ」
岩を壊した先へ進む中マクシムがそう言った。
「これは薬がなくても大丈夫そうだな。さすが僕!ナイス回復力だ!」
「明日、筋肉痛になっていなければいいですね」
「……この僕が筋肉痛?ははは!舐めてもらっては困る!こういう時のために鍛えているのだからな!」
「……フラグにしか聞こえないんだけど」
「山道でもつらそうにしていましたしねえ……」
そんな会話をしながら進んでいると、道の真ん中になにか落ちて、イェルシィは目を凝らした。
「……なんか、靴とか転がってるんだけど」
「外で仕留めた犠牲者を引きずり込んで、餌にしているのでしょう」
「じゃあ放っておけば、ドルガノーアの人達も……?」
「そ、それはとんでもない話だ。ここにいると思わしき獣は、先ほど街で倒したヤツとは比べ物にならないだろう。山都が襲われたら被害は計り知れないぞ」
「……ええ、ですから、我々がこの手で根絶せねばなりません」
そう言いながら彼は靴の元までたどり着いた。
見つけた靴は10cmちょっとの長さのもの。
「この靴……すごく小さい……。ねえ、これって…これってさ……」
「きっと……子どもの物でしょう」
「おのれ畜生どもめ……許さんぞ」
「みんな、あとでお墓作るよ……。もうちょっとだけ待っててね」
おそらくこの靴の子を害したであろう獣が居そうな奥地へと3人は足を進めた。
「ようやくお出ましですね」
予想通りお口には巨体の獣がいた。
「こいつが……!絶対許さない。やりますよっ、二人とも!」
「言われなくとも!」
「……偉大なる源獣タルルハン。あたしの戦いを見守って下さい。悪い獣は……みーんな!やっつける!」
そう言ってイェルシィは槍を持ち、大型の獣──フラマドーラへと突っ込んで行った。
獣討伐後。
「これで終わり……」
「ふん。あっけなかったな」
「うん…って、えっ?どうしたの?」
「なんだ?」
「ト、トトが、こっち戻ろうって、すっごくアピールしてくるの」
「い、いったいどうしたんだ?」
わけも分からないまま、3人は来た道を戻っていく。その途中で、イェルシィが、えっ、と驚いたような顔をした。
「あれっ?どうしよう!トト先行っちゃったみたい!」
「この先ってさっきの花畑だったか?」
「行きましょう。……嫌な予感がします」
走って花畑まで戻ると、そこには先程の獣フラマドーラによく似た、それよりも少し大きい獣がいた。
獣──フラマゴーネはズシンとその大きな足で花畑を踏み潰した。
「あ……あいつ……!」
「やはり……もう1体いたんですね」
リュシアンが話して居る中、イェルシィはフラマゴーマの足元に居る生き物を見つけてハッとした。
「トト!」
トトは、おそらく花を踏みつけているのが気に食わないのだろう。フラマゴーネ足に噛み付いていた。
「さっきのは雑魚だったってことか」
「ってことはこいつが………許せない」
イェルシィはギュッと槍を握るてをきつくした。
「こんなにキレイな花をメチャクチャに踏んづけて……!あたしとトトの行く先は、いつだってキレイなお花が咲いてるの」
イェルシィはギリッとフラマゴーネを睨みつけた。
「花も命も踏みにじるヤツ!そんなのあたしは大っ嫌い!」
「は…はは……!」
マクシムが急に笑い声をあげた。
「化け物相手に威勢がいいな!気に入ったぞ!」
そう言ってマクシムはイェルシィを指さす。
「お、惚れたな!」
イェルシィは振り返って指をさし返した。
「違うよっ!?」
大手を振ってマクシムは否定する。
そんなやり取りをしてた2人の元に、のっそのっそとフラマゴーネが近づいてきた。
「って敵がきたああああ!」
「仇取るからね、みんなの分。絶対に……。そしてこれ以上は何も踏みにじらせない。それがあたしの誓いです!大源獣タルルハン!」
「僕もその責務の一端を担おう。やるぞ、リュシアン!イェルシィくん!」
「ええ、もちろんです。私もあのような存在を、許すわけにはいきません」
フラマゴーネが大きな音を立て倒れたのをみて、イェルシィは、ほっとしたようにペタンとその場に座り込んでしまった。
そんな彼女の元にトトがぴゅーっと飛んできた。イェルシィはその頭を優しく撫でた。
「ありがとね。あたしはヘーキだよっと。あーあ、お花がかわいそう……。根っこ埋め戻せばイケるかも?」
萎れた花を見つめるイェルシィは気づかなかった。
フラマゴーネが、身体を起こした事に。
「イェルシィ!」
イェルシィに向かってフラマゴーネが飛びかかるのに、誰よりも早く気づいた声が彼女の名を叫んだ。
その言葉に反応したイェルシィは飛び上がり攻撃を避け、槍を振り降ろした。フラマゴーネが怯んだ隙にリュシアンが斬撃を飛ばし、マクシムがトドメの一矢を放った。
今度こそ倒れたフラマゴーネは、今回はすぐにマナへと還っていった。
「大丈夫ですか?」
また気が抜けたように、花畑の真ん中で座り込んでしまっている、イェルシィの元にリュシアンが駆け寄る。
「か、間一髪だったな……」
そう言ってマクシムも傍にきた。
2人の声を聞いてイェルシィは首を傾げる。
「……今の声…、リュッシーやマッキ先輩じゃ……ない?」
「違いますね。しかし…」
「僕には聞こえた!はっきりと聞こえたぞ!」
「も…、もしかして……トト…なの?」
『イェルシィ……ぶじ……よかった……』
カタコトだったが、トトはハッキリとそう言った。
「ああっ!」
イェルシィはめいっぱいぎゅっと、そのふわふわの身体を抱きしめるのだった。