エピソードまとめ
□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.1キミに花があるように
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〔街中会話 お花畑に居る女の子〕
「すごいね。姫さまってお花とお話できるんだ」
「えっ?あたし花は好きだけど話せたことはないぜ?」
「でも姫さまさっき、お花に話しかけてたでしょ?」
「あーそれかー!それはねこの子に話しかけたの!」
「………どの子?」
「…ん?この子だけど?」
「……誰もいないよ?あ、わかった!姫様の考えた新しい遊びだ!どうやってやるのか教えて!」
「あれれ…?」
〔街中会話 ユッコ〕
「あ、イェルシィじゃん。なにしてんの?」
「ユッコ!ちょうどよかった!ユッコにはこの子見えるっしょ?あたしの新しいお友達!」
「この子……?……なにイェルシィ、もしかしてさみしいの?」
「えっ?」
「イマジナリーフレンドって、やつっしょそれ?そんなの作んなくても、あたしがいつでも遊んだるって!」
「そ、そういうんじゃないんだって〜!ホントのホントにここにいるのに」
〔街中会話 民家前の老婆〕
「おやおや、姫さまじゃないかえ。今日もメルギンに会いにきたんかの?」
「あ、別に約束してないよ!たまたま近くに来たから寄ってみただけー」
「そうかそうか。だがすまんのう。彼は今留守なんじゃ」
「そっかー……残念。新しい友だち紹介したかったのに」
「ほっほっほ、それはいい話だねえ。帰ったら幼馴染みが来たと伝えておくよ」
「やったっ、ありがとー♪」
〔イベント お菓子屋さん前の子供たち〕
「あっ姫さまだ!元気〜?」
「もち!今日も元気いっぱいだよん♪そうだ!新しい友だち紹介すんね。名前は……。あれ聞いてないや。ともかく、この子〜!」
「えっと……?」
「誰もいないよ?」
「…ありゃりゃーん?」
〔イベント お菓子屋さん〕
「ちゃっすー。店長!いつものアレくださいなー」
「おやっ、姫様いらっしゃい!そろそろ来るだろうと思って今日も焼いておいたよ。ほらっ、姫様大好物のストロープワッフルだ!姫様専用のシロップ増しだよ!」
「わおっ、ありがとー!めっさいい香りー♪ど?美味しそうでしょ?」
イェルシィの傍で小さな生き物は他のそうに揺れた。
「………おっ!やっぱり気に入ってくれた!嬉しいぜい!」
「……えーと姫様。誰に向けて話してんだい?」
「むむ?見えてない?……あーそういうことか……。街の子達もお菓子屋の店長も、この子のこと見えてないみたい……。つまりこの子はあたしにしか見えない。あたしにしか触れない……ってことか。……もしかしたら。よしっ、お母さんに相談してみよう」
〔イベント じいじ〕
「あっ、じいじ!」
「おや、姫様珍しくお早いお帰りでしたな。街を歩くのもよろしいですが、たまにはご勉学にも励まれ……」
「そっ、それはいいから!ちょっと聞きたいことがあるの!」
「はて、なんでしょう?」
「この子のこと……見える?」
「この子……?ふーむう……なんの謎掛けでございましょう?」
「……だよねー。わかった!ありがとね、じいじ!」
「な、なにがわかったのですかな?爺にはさっぱり……」
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屋敷の中に入り、正面の玉座に腰掛ける巫女王の元へイェルシィは駆け寄った。
「ただいま、お母さん」
「あら〜?」
イェルシィの母、エルチュは首を傾げイェルシィの横を見た。
「…ふむふむ。な〜る〜?その子がイェルシィちゃんの新しいフレンドなワケですね〜」
「見えるの!?さっすがお母さん!」
「残念だけどぜんっぜん〜。でも、母にはわかっちゃいますね〜。"見えずとも風は風、触れずとも雲は雲"……」
「目に見える物がすべてではない……」
「その通り〜。カワイイ、イェルシィちゃんのお隣。確かに気配ありまくりですよ〜。とても優しくて愛らしい気配〜♪」
「それだけでもすごいよ!誰も気付けなかったのに!」
「…あっ、わかっちゃいました。母は今、悟りましたよ〜」
にこやかにそう言った後、エルチュの雰囲気が一瞬にして変わった。
「いいですか。よくお聞きなさい」
「うん…。いえっ、はい!」
巫女王としてのその風格を前に、イェルシィも背筋を正した。
「あなたは間違いなく、次の巫女王になるべき器です。あなたの隣にいるその子は、きっと"マナ"そのもの。それを私より遥かに強く感じ取り、見えるのがあなたなのです。修行なさいイェルシィ。より強く、より深く、マナの世界と繋がれるように。そうすれば、その子が何者なのか、わかることでしょう」
「……いつかみんなも、この子が見えるようになりますか?」
「ええ、きっと。あなたが架け橋になるのですよ。まず、その子に名を与えておあげなさい。この世界に在るという証のために」
「名前……」
イェルシィは一瞬、小さな生き物の方を見てすぐにエルチュの方を向き直した。
「うん、わかった。それじゃあ……」
頷いた後イェルシィは、身体ごと小さな生き物の方に向け、両手を合わせ、左手の先を前に出す敬礼を取った。
「……偉大なる源獣、タルルハンに言上いたします。私は、ハイナジンのともがらエルチュの子、イェルシィ。尽きせぬ土、果てなき草、終わりえぬ風の地に……今、新たな家族を見出しました。その者の名は……トト。トゥイトゥイ…"温かく柔らか"な者であるが故に」
そう告げて、イェルシィは敬礼を解いた。
「いい名ですね。それでは、イェルシィ、トト。あなた達の旅路に、タルルハンの加護と、喜びの花があらんことを」
そう言って、エルチュはイェルシィとトトを温かく見つめた。
「いつだって笑顔笑顔、で〜すよ〜」