エピソードまとめ
□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.2 あなたと共に食卓を
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「こんにちはー!えっと、あたし達……」
食堂に入ってイェルシィは料理長へ声をかけた。
「おう。フレデリック爺さんから話は聞いてるよ。シルヴェアの食材で作れて栄養満点のレシピが知りたいんだろ?」
「話が早いっ!いいのありますか!?」
「ああ。今日の学食にも出す予定の……"とろ〜り卵のヘルシー野菜ガレット"はどうだ?」
「おお……名前からして美味そうだ」
「トトも気に入ってくれそー!そのレシピ教えて下さいっ!」
「もちろんいいぞ!……と言いたいんだが」
料理長は困ったような顔をした。
「届いてるはずの材料が、どうも遅れちまっててなあ」
「む…。なにかトラブルだろうか?」
「それならあたし達、ちょっと見て来ますよ」
「へっ!?」
あたし"達"と言う言葉にマクシムは驚く。
「いいのか?」
「あたし達、イェルマッキーにどーんとお任せ♪その代わりあとでちゃんとレシピ教えて下さいね!」
そう言ってイェルシィはマクシムを連れて、騎士学校を出て、キトルール草原へ向かうのだった。
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998Y.C. 森国シルヴェーア キトルール草原
「食材はボーナ村から届く予定だったんだって。ってことは、この先のどっかに配達の人がいるはずですよね!」
「……それは間違いないと思うが、なぜ僕はここまで付き合わされてるんだ……?」
そい言いつつも、なんだかんだ一緒に来てくれるマクシムと共にイェルシィはボーナ村方面へキトルール草原を進んでいくのであった。
〔道中会話〕
「しかし学食のレシピか……」
「あ、まだ不満げだ一」
「いや、せっかくなら凝ったものの方が……」
「難しくてもあたしが覚えられないし、いつも食べててお馴染みの味のが良くない?」
「そういう考え方もあるか……」
〔道中会話〕
「マッキ先輩って有名店にも詳しいんですか?」
「当然!実家にいた頃は頻繁に………、……はあ」
「えっ、そこ落ち込むとこ?」
「いや……、最近は行けてないなあと。実家を離れるとなにかと物入りだ」
「そっかあ……」
「まあいずれ、自分の名と力を上げて有名店に行くさ」
「やった〜♪ごちそうさまですっ!」
「奢るとか一言も言ってないよ!?」
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しばらく進んだ先に獣の群れを見つけた。
「ねえ、アレ例の配達屋さんじゃない!?」
オタグリ、ウリドン、ゴウリドン、ワービー、その獣の奥に荷車と人が見えた。
「うむ。助けるぞ!」
二人は急いで獣の群れに駆け寄った。
「学生の食を狙う不届き獣め!許さんぞ!」
「そうだそうだ!このイェルマッキーが成敗しちゃるぜ〜」
「……さっきも言ってたけどそれなんなの?」
「あたし達のコンビ名!イイ感じでしょ」
「せめてもうちょっとカッコいいのにしない!?」
そんなこんなを言いながらも2人はバッタバッタと獣を倒していった。
「よし!学食は守られた!」
「これがホントの料理番ってヤツ〜?」
2人は武器をしまって、荷車の傍の男性に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「よかった。人が来てくれて……。荷車が脱輪して立ち往生してたんです」
男の言う通り、荷車は街道を外れ、側溝に車輪がはまりこんでいるようだった。
「そしたら獣まで現れて……もうダメかと思いました……」
「怪我もなさそうでなによりだな」
「あなたが食材達の人で、間違いない……ですよね?」
「あっ、もしかしてイーディスから迎えに!?遅れてすみません!今すぐ運びますので!……と言いつつ手伝いをお願いしたいのですが……」
「荷車がこの状態じゃ仕方ないな」
そう言って、3人は脱輪した荷車を街道へ戻すところから始めるのだった。
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998Y.C. 森国シルヴェーア イーディス騎士学校
「さてと!料理長に報告だ〜!」
騎士学校へ戻ってきたイェルシィはマクシムを連れて再び食堂の厨房へと向かった。
「食材も届いたし準備は万端だ!早速始めるぞ」
「はいっ、先生!よろしくおなしゃーす!」
そう言ってから数十分後……。
ごとっ、と調理台に平皿に乗ったガレットが置かれた。
「す……すっご〜!自分で作ったなんてウソみたい!」
ガレットには半熟の卵が乗っていて、周りにはトマトやアスパラなどの彩りの美しい野菜も添えられている。
「超勉強になりました!ありがとうございます!」
「うむ。なかなか筋が良かったぞ」
「イェルシィくんの腕にも驚いたが……。料理長の見事な技の数々……。僕の目が節穴だったな」
「ははっ、学生に毎日食わせてりゃ腕も上がるさ。さてトトちゃん……だっけか?腹いっぱい食わせてやんな!」
料理長の言葉に頷いて、イェルシィは出来た料理をトトの前に運んだ。
「トトおまたせ〜!ランチができたぜ〜!」
そう言ってテーブルの上にお皿を置いた。
「新鮮な野菜とトロトロ卵のガレットだよ〜♪」
トトは出された料理にかぶりついた。
むしゃむしゃと食べるトトの姿をイェルシィは頬に手を当てながら眺める。
「そっかあ、美味しいかあ〜」
そんなイェルシィの様子を、後ろからマクシムは不思議そうに眺める。
マクシムの目では、彼女の前にいるものは何も見えないが、確かに料理だけは消えていくのだ。
「もっともっと」
「オッケー、たくさん作ってきたから!」
トトが催促し、イェルシィは直ぐに立ち上がった。
「はいはーい、どんどん食べれ〜♪」
イェルシィそう言って、もうひと皿持ってきてトトの前に置いた。
「うま、うま」
「うんうん。気に入ってくれて良かった♪」
トトがバクバクと食べるのを喜んで見ていると、急にトトがフワーと上に浮かび上がった。
「おー、どしたん?」
なんだ?と見つめていれば、高く浮かび上がったトトは急に空気の抜けた風船のように、地に落ちた。
「え……。トトーッ!?」
トトは地に倒れたままぐったりとしていた。
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「」
〔校内会話 食堂厨房〕
「このキッチン、広くて料理しやすそー」
「業務用だからさすがにな。……と、まとめるにはここの設備は贅沢だが」
「そうなんですか?」
「ああ。高級店に劣らないキッチンだ。動線も良く考えられているし、効率よく作業できるから助かってるよ」
「やっぱウチの学校、こういうとこお金かけてるよねー」