エピソードまとめ

□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.2 あなたと共に食卓を
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「トト、トト、トート♪」

そんな少女の楽しげな声が外に響いた。

「ぷいぷいぷい〜」

少女の声に反応したようにそんな鳴き声が上がる。

「ぴょんぴょんする?ぴょんぴょんしよっか!」

そう言って、金髪のツインテールで褐色肌の女子生徒が帽子をかぶった頭の上で、手をうさぎの耳のように折り曲げた。

「ぴょんぴょん」

彼女の目の前に浮かぶ兎に似た獣が、真似をしてぴょんぴょんと跳んだ。

「ああんもう!可愛すぎか〜!」

ぎゅうっと少女は獣を抱きしめる。
だが、その姿は傍から見れば何も無い空間に彼女が腕を輪にしているようにしか見えなかった。

「タ、タフだな、イェルシィくん……」

ピスタチオグリーンの坊ちゃん刈り上に帽子を被った男子生徒が、げんなりとした様子でベンチにもたれ掛かりながらそう言った。
そんな彼の横にはメガネを掛けた黒髪の女性もベンチに座ってイェルシィの様子を眺めていた。

「今日は特に厳しい訓練だったというのに……」

「だってトトは、あたしのハッピーの源だから!最近少しだけど、お喋りもできるようになったし、あたし幸せだよ〜!」

イェルシィはそう言ってトトというその獣に
頬擦りした。

「底抜けに明るいねえ、キミは」

「お待たせしました」

そんな彼女らの元に、プラチナブロンドの髪の男子生徒がお盆に、サブレの入った袋を乗せてやってきた。

「やたっ!お菓子だよトト!」

イェルシィもトトもキラキラと目を輝かせて、その盆の上の菓子を見つめた。

「トトは菓子が好きなのか?」

「というか普段、どういった物を食べてるんだね?」

メガネの女子生徒─ヴァネッサがそう尋ねると、便乗するように、帽子の男子生徒─マクシムも尋ねた。

「えっとね、飴を一番よく舐めてるかな」

イェルシィとトトが初めて会った時にあげたのも飴だった。

「焼き菓子も好きだし」

イェルシィが好きなイザミルのストロープワッフルも一緒に食べる。

「うちの田舎の名菓アーロウとかも食べてるよ!」

イザミルのあるアムル・カガンの名物だ。

「あとはクッキーにチョコにサブレとマフィン………」

イェルシィは最近、トトに与えた覚えのあるものをつらつらと口に出したが、見事に菓子ばかりだった。

「……それは、大丈夫なのか……?」

心配そうに、ヴァネッサはイェルシィを見つめる。

「え、どういうこと?」

「あくまで人の基準ではありますが……」

困惑したイェルシィを見てプラチナブロンドの男子生徒─リュシアンが口を開く。

「お菓子ばかり食べていては、栄養バランスが良くないのではないでしょうか?」

「……あ」


それは盲点だったというような呟きだった。

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【CHAPTER1 お腹いっぱいにしてあげよう】
998Y.C. 森国シルヴェーア イーディス騎士学校

「ではでは!トトの健康ご飯のため、お料理計画始めまーすっ!!」

翌日、イェルシィはマクシムの前でそう高らかに宣言する。

「なぜ僕が協力しなければならないんだ?」

「シルヴェーアの食材で作れる、料理が知りたいんですっ。なら、美食家のマッキ先輩が 適任じゃないですか!」

嫌そうな顔をしたマクシムにイェルシィがそう伝えると、彼は表情を変えた。

「……まあ、善き料理を知ることは貴族のたしなみだからな。よしわかった!フレデリック!」

「はい、坊ちゃま!」

マクシムが呼んで数秒も待たず、ぬるりと執事が現れる。

「イエルシィくんのため、僕の顔で紹介できるシェフを………」

「すでにアポイントメントを取り付けてございます」

「素晴らしい!で誰だ?」

「学食の料理長でございます。行ってらっしゃいませ」

そう言ったフレデリックに見送られ、イェルシィはマクシムを引き連れて校庭を歩く。

「料理長なら食堂にいるはずだよね!」

「そうだが……学食ねえ……」

「なんか不満そー?ウチの学食美味しいのに一」

不満げなマクシムと共に校庭の先にある校舎へとイェルシィは入っていくのだった。


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〔校内会話 訓練場前 リゼット〕
「ん?お前達、なにをしている?」

「あ、リゼット教官だ!こんちゃ〜す!」

「……相変わらず軽いな、貴様は」

「同感です」

「ともかく今訓練場は使用中だ。使いたいなら時間をおいて出直せ」

「りょーです!……って言っても特に用事ないけどね」

「ああ、早く食堂に向かおう」


〔校内会話 校庭 女子生徒〕
「先輩達、なんだか楽しそうですね」

「うんにゃ!お料理大作戦中なのだ!おいしくて栄養のあるレシピを探してるの一」

「それなら食堂の料理長に聞くのがピッタリですね。うちの学食って美味しいだけじゃなくて、栄養バランスもしっかり考えられているらしいですから」

「そうだったのか……」

「料理長に聞きに行くの正解だね!」


〔校内会話 寮前 1年生男子〕
「この学校にもやっと慣れてきました。最初、学生寮と校舎をあべこべに覚えてて、食堂に行くのも苦労したんです……」

「かなり重度の方向音痴だな……」

「で、でも今は大丈夫です!僕の後ろが学生寮!先輩達が来た方向が校舎!そして食堂は校舎の中です!」

「おー当たり!よくできましたっ♪」

「褒めるようなことかね……?」


〔校内会話 食堂 2年生男子〕
「今日はこれから実地訓練なんだ」

「へえーどこに行くの?」

「地獄のオルスク山脈へ獣の討伐に……」

「それは……」

「絶対に死ぬ思いをするだろう?だから景気付けに学食を食べとこうと思ってな。……最後の食事にならないよう祈ってくれ」


〔校内会話 食堂 1年生女子〕
「料理長ですか?たぶん厨房にいますよ。右手奥の扉です……って。先輩達ならさすがに知ってますよね……」



〔校内会話 食堂 校長〕
「あれっ、校長先生!?」

「おや、二人ともこんにちは」

「今からご飯ですか?」

「ええ。遅い朝食を朝は会議がありましたので」

「校長も学食を利用されるのですね」

「もちろんです。ここのご飯は美味しいですから」

「校長でさえ舌鼓を打つ味……か」

「やっぱウチの学食はサイコーだね!」


〔校内会話 聖堂 女子生徒〕
「お願いします、アグライア様。どうかお願いします……!」

「どしたの?」

「本当に困ってるんです。もう頼れるのはアグライア様しかいなくて……」

「なにやら深刻そうだな」

「はい……。次の定期試験……。赤点を取ったら補習になるんです〜!」

「……え〜っと?」

「祈るより先にやるべきことが、あるのではないだろうか……」
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