エピソードまとめ

□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.1キミに花があるように
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「片付きましたね。二人ともお疲れさまです」

鉱山前に陣取っていた獣たちを一掃して、3人は鉱山への扉を開いた。

998Y.C. オズガルド嶺峰国 ノルバ鉱山

「いえーい、やったね……っとと、危ねっ。大声はヤバイ…よね?」

「いい判断です。奥にいる敵を不用意に刺激する必要はありません」

「心得ました!………なーんて、ヴァネッさんのマネ〜♪」

「すごい。オリジナルとは段違いの軽さだ……」


「ん?トトどうしたの?」

「トトさんがまたなにか見つけたのですか?」

「ううん。そういう感じじゃなくて……。なんだかワクワクしてるみたい」

「ワクワク……?」

「おっ、見たまえ。向こうになにかありそうだぞ」


鉱山を道なりに進むと、天井の一角が破れて吹き抜けになりそこから陽の光が差すことで、小さな花畑ができていた。

「そっかあ……。ここのお花畑に来たかったんだね〜」

そう言ってイェルシィは一人、花畑に近づいて行った。
そんな彼女を、マクシムとリュシアンは少し離れて見守っていた。

「うわっ」

「どうしました?」

「い、今、風もないのに、イェルシィくんの側の花が揺れた……」

「……つまり、トトさんがそこに……」

「ですよー」

イェルシィはしゃがんだまま2人を振り返ってみた。

「誰にも見えねー、聞こえねー、触れねーな感じだけど……あたしには見えるし、ギュッてすればあったかいの」

「ふーむ……ますます不思議だな」

「イェルシィさん。トトさんのことを話してもらえませんか?」

「それ、真面目に聞いてくれるんだ。えっとね、あれは………」


イェルシィは自らの過去を思い返した。



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【CHAPTER3 ぬくもりは本当だから】
996Y.C. アムル天将領 緑都イザミル

「さーてと!今日はなにしよっかな〜。とりあえずこの辺りを散歩してから決めよーっと」

イェルシィはそう言って緑都の入口をウロウロと歩きだした。


〔街中会話 道案内のお爺さん〕
「良き風に導かれこの地へ辿り着いた旅の方よ。ここは緑都イザミル。アムル・カガンの首府じゃ。おっと、旅人さんにはアムル天将領と言った方が、わかりやすいかのう?源獣タルルハンの傍らには穏やかな巫女王と、かわいらしい姫さまのおうちが……」

「うんうん知ってるさー」

「……むむっ?これはこれは!姫さまじゃったか。最近は目が悪くなってのう。旅の者と見紛うてしもうたわい」

「あははっ、いーっていーって!カワイイって言ってくれてありがとね♪」


〔街中会話 お菓子屋さんの前〕
「はー、イザミルの銘菓といったら、ここのワッフルよね……。毎日食べてるのに全然飽きないもの」

「わかるわかる!めっさ美味しいよねー♪」

「ふふっ、姫さまも常連だったわね。今日なんて五個も食べたのに、まだ食べ足りないわ」

「……五個はちょっと食べすぎなんじゃない?」

「だって美味しいんだもの。姫さまだって知ってるでしょ!さくっとした感触……シロップの甘い香り……あーダメ!やっぱり食べたくなってきた!」

「あ、あたしも……」


〔街中会話 御屋敷付近子連れのおばさん〕
「姫様 今日もお出かけかい?」

「うい!あたしってアウトドア派だから♪」

「はは、本当にそうだね。いつかこの国を 飛び出しちゃうんじゃないかって、みんな心配してるよ」

「えー、それはどうだろ。でも……もしそうする必要がある時が来たら、イェルシィちゃんは、どこにだって旅立つぜい!」

「お転婆だねえ。でもそれが姫様のやりたいことだったら応援するよ」



〔街中会話 広場にいる男の子2人組〕
「今日も二人でいたずら考え中?」

「うわっ、姫様!」

「びっくりした〜」

「今日はなにするつもりなのかな?びっくり箱制作?それともこの前みたいに木の実爆弾作りとか?」

「そ、そんなことしないよ!」

「そうそう!俺達、もう子どもじゃないし!」

「えー、おもしろいことなら参加しようと思ったのにな〜」

「それならなおさらやらないよ」

「え、なんでなんで!?」

「だって姫様がいると、いつもいたずらバレるもん」

「二人でやった方がうまくいくもんな」

「えー!そんなこと言わないでよー!」


〔街中会話 灯台前男性〕
「いよっすー」

「よお、姫さま」

「今日、タルるんのとこ行くボート出る?」

「その予定だったんだが……この前の暴風雨のせいか船が壊れちまったみたいでさ」

「えっ、ホント!?」

「ああ、だから用があるなら出直してくれると助かるよ」

「りょー。なんか手伝えることある?」

「はは、大丈夫だよ。いつもありがとな」


〔街中会話 西門前男の子〕
「あっ、姫様!国の外へ行くなら俺も連れてってよ!」

「残念ながらその予定はないんだな一。それに外は獣がいーっぱいいるし、キミにはまだちと早いぜ!」

「ちぇー」

「まあ興味あるのはわかるけどさ。獣倒せるくらい強くなってからじゃないと、一瞬でパクッ!ってされちゃうよ?」

「うっ……」

「それでも出たい?」

「……ここにいるよ」

「あはっ、イイ子イイ子♪」


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「あれ?なんだろ、あっちの方……。誰か………って言うかなにかいるみたい」

イェルシィは街の西にある花畑け足を踏み込んだ。

「あの小ささ……獣?でも見たことない種類だよね。それにちょっと……カワイイかも!」

小さな浮遊する生き物にイェルシィはそっと近づいてみた。


「こんちゃー」

そう声をかけると小さな生き物は長い耳をピンッと張った。

「急に声掛けてゴメンね〜。花、好きなんでしょ?あたしもだよ〜。イイよねえ。香りもいーし。あたし、ここでボーッとすんのが好き。日が暮れるまでまったり♪そだ、飴食べなよ」

イェルシィは手のひらに赤い飴玉をひとつ乗せて、生き物へと手渡した。

「シルヴェーア産の高級品だぜ!」

生き物は恐る恐る手を伸ばしたあと飴玉を掴んでパッと手を引いた。そしてすぐさまそれを口に入れると満面の笑みになった。

「美味しかろー」

生き物はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「おかわりもあるぞーっ!」

すると生き物は急に後ろを向いてゴソゴソとしだした。
なんだろうとイェルシィが見つめていれば、少しして生き物はイェルシィの方を向き直した。
その手には、花畑に咲いている黄色い花で編んだ花かんむりが握られていた。

「くれんの!?」

生き物から渡されたその花かんむりをイェルシィは頭に載せた。

「すっごい!プリンセスみたい!ま、実際プリンセスだけどな」

そう言ってイェルシィはニコーッと笑って見せた。

「キミもあたしと一緒で甘い物好きなんだね!そんじゃ、あたしの大好きなお店教えたげる!え、なに?遠慮してるの?い一ってことよ!あたし達もう友だちでしょ?きっと気に入ってくれると思うんだ〜♪」

そう言ってイェルシィは、その小さな生き物を連れ、街の中へと戻って行った。
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