エピソードまとめ
□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.1キミに花があるように
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黄色の花が沢山咲いている花畑の真ん中に、ふわふわと浮かぶ兎のような小さな生き物がいた。
「あっ、トト!トトじゃん!すっ……ごい探したあ〜!」
イェルシィはギューっとその小さな生き物─トトを抱きしめた。
トトはイェルシィの腕を抜け出して、後ろから何かを出してイェルシィの方へ向けた
「お花……いい香り。風呼び草?」
イェルシィはトトの小さなてからその星の酔うな形をした白と黄色の花弁の花を受け取った。
「めったに咲いてないのに……あたしのために?」
イェルシィはもう一度ギューっとトトを抱きしめ頬ずりした。
「ありがと〜!アムル・カガンのお花……!これがあれば、みんなと離れてても寂しくないよね!ねえ、トト」
イェルシィはトトを高く抱き上げた。
「これから、あたし達の旅が始まるんだよ。世界はどれだけ広いんだろう。ワクワクしてくるよね。旅をして、世界を見て……いっぱい見つけようね!あたし達の素敵な花!」
ぼんやりとしたイェルシィの前には不安そうな顔をしたトトがいっぱいにあった。
「…ん?どうしたの……トト……」
イェルシィは、目を擦った。
「やっと、目を覚ましたか」
耳ともから聞こえた声に意識を戻すと、黒髪でメガネを掛けた女性が、横になるイェルシィの背に手を添える形で抱き抱えていた。
「え……ヴァネッさん?」
「周りをみろ」
そう言ってヴァネッサは手を離して、立ち上がった。
「…な、なにこれー!?」
二人の周りをゼヴォルフという、狼のような獣が囲んでいた。
「説明している暇はない」
ヴァネッサは双剣を構える。
「武器を取れイェルシィ」
イェルシィも立ち上がって、槍を握った。
【CHAPTER2 ここにいるよ】
998Y.C. オズガルド嶺峰国 ゼヴォロン火山道
「ちょっと、思い出してきた……。あたし暑さにやられて目の前がくらっとして、そのまま……」
「思考がしっかりしてきたようだな。では今が任務の最中と、いうことも思い出したか?」
「この先の街……ドルガノーア周辺に出てる、フランジャの討伐……だったっけ」
「ああ、そうだ。こんな雑魚に構っている暇はない。平らげるぞ イェルシィ!」
「……りょー。イェルシィちゃん完全復活だぜ!おらーっ!一気にやっちゃろかーい!」
2人はあっという間に、ゼヴォルフ達を蹴散らした。
「勝った、勝った〜。大勝利!」
「起き抜けだというのに見事な動きだった。それが噂に名高いアムル天将領の闘法か」
「照れるぜい。ヴァネッさんもかっこよかった!」
「いやいや、それほどでもない」
「リュッシーが見たらヤバイね。きっと惚れ直すぜっ!」
「うっ?あ……を……。な、なぜそこで……リュシアンの名前が出る……?」
「えっ?…あー、そっかそっかうん。あたし先走った!ごめんっ!」
そう言ってイェルシィは先に火山道を駆けて行く。
「お、おい待てイェルシィ!説明!説明を!」
真っ赤な顔をして叫びながらヴァネッサはその後を追うのだった。
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〔道中会話〕
「へー、うわー。ひゃーすっご!」
「イエルシィ」
「なーにー?」
「散漫になっているぞ。山道は危ないから注意しろ。我々は獣討伐に来たのだ。ハイキングではないからな」
「た、確かに……。りょー!」
「その"りょー"と言うのは、確か "了解"の意だったか」
「そそそ。あたし流アレンジって感じ」
「お前の言葉遣いは本当に面白いな」
「……あんまり好きじゃない?」
「いや気に入っている。……個性的で良い。たまに"ムズいって感じ"の表現もあるけれど」
「あはっ、それあたしっぽーい!」
「一緒にいれば少しはな」
「ところでさー。この辺の眺めってすごくない?どっち向いても胸にグッとくる!」
「……ふーむ?私にはなんの変哲もない火山道に見えるが」
「そっかー、ヴァネッさんには普通なのかな?あたしの国、アムル・カガンは、どっこまでも草原だったからさー。こんなゴツゴツで暑い山って珍しいんだ」
「イェルシィの故郷は緑都イザミルだったか」
「うん。なにもないけどいいとこさー。おひさまといっぱいの風!そういうのを感じながら走ると、とっても気持ちいいんだ〜♪」
「……ああ、それは素敵だな。私も憧れる」
「そんじゃーさ、ヴァネッさんも今度一緒に帰る?」
「いや、遠慮しておこう」
「ありゃっ!?」
「ああ、嫌というわけじゃない。私は……くつろぎ下手だからな。却って気を遣わせてしまうだろう」
「気にしないでいいのに一」
「一緒にいても気の利いた世間話もできない。そんな人間と旅をしても、きっと面白くないだろう」
「えー!そんなことないよー!」
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〔道中吊り橋 獣の群れ〕
「あ、出た出た!吊り橋だ一つ!」
「興奮するほどの物か……?それより……こいつらを片付けねば先に進めなさそうだな」
獣討伐後。
「いっちょあがりっと!」
「先を急ぐぞ」
「ヴァネッさん♪」
「なんだ?」
「吊り橋ってさー、手繋いでけば怖くなくない?」
「……特に恐怖を感じてはいないのだが」
「そっかーヴァネッさんタフ!」
「配慮には感謝するよ」
そう言って2人は吊り橋を渡りきり、山道の続きを登って行った。